第262話-1 彼女はスケルトンの軍勢と対決する
東西南北の四方から攻撃されている状況で、東側の堡塁は徐々に攻略されつつあった。何しろ、守備兵が少ない。夕方の段階で濠の手前の甕門まで東側の防衛ラインを後退させる判断を守備隊長はしていた。
東側から攻め寄せるスケルトンの中には数百の『アンデッド・ナイト』『アンデッド・ポーン』が存在しており、最も攻撃力が高かったことも影響している。
「土塁を乗り越えられちゃったわね」
「こちらも兵士の数が微妙だから、引いて戦うのは悪い案ではないわ」
元々は大砲対策の陣地であるので、アンデッドの歩兵相手には分が悪い。おまけに、ハンドカノンや弓もスケルトンにはとても相性が悪い。傷つける肉も無ければ、流れる血もないのだから。
東の堡塁を乗り越えた骨の兵士たちがやがて東門を護る堡塁に到達したのは翌朝の事である。とはいっても、早いものは夜半には到達しており、隙間なくという状態が朝方ということだ。
「おお、ここに来ていたのか。ふむ、見渡す限りのスケルトンの軍勢だな。
さて、どうする?」
カトリナは一晩ですっかり回復したらしく、いつも以上にテンションが高い。
「昨日施した土壁を利用した南門側の堡塁での戦闘を確認しましょう」
彼女たち四人に聖騎士・守備隊長も含め主だった指揮官たちが南門の堡塁に集まる。
戦闘を開始する鐘が東側の城門の上から鳴らされる。それに呼応するかのように、城内の教会の鐘が鳴り始める。
既に、担当の市民兵たちが『石壁』の前に並び、手には長柄の武器、主にハルバードを持っている。ハルバードは多目的に利用できる強力な武器であるが、その分重く、操作に熟練がいる。また高価な武器でもある。
市民兵は立派な胸当を付け、そして自らが手入れをしたハルバードを構えスケルトンを待ち構える。振り回す余地がいるので、左右は人一人が入れるほどに間隔をあけている。
「鉄柵を上げろ!!」
指揮官の号令で、土塁に備えてある虎口の鉄柵が引き上げられ、スケルトンが侵入してくるが、石壁で停止する。人間なら「押すなよ!!」状態であるが、カタカタと骨をきしませ、宙を泳ぐかのように手を動かし、また、手に持っている剣や棒、雑多な武具を振り回している。出来の悪い戯曲のように見えるのだが、これは現実だ。
「せ、戦闘開始!!」
「柵、落せ!!」
石壁と鉄柵との間には凡そ四十体ほどのスケルトンが挟まれている。
「お、おおおらぁぁ!!」
「それそれそれ!!」
変な掛け声を掛けつつ、腰の引けた振り下ろしに、当たり所が悪かったスケルトンは片腕がおられたり、流れたハルバードの穂先が石壁を叩いたりで散々な状態だ。控えめに言ってカッコ悪い。
「落ち着け、確実に頭を叩き割るのだ!」
指揮官らしき壮年の市民兵が、何の衒いもなくハルバードをスケルトンの頭に叩き落すと、骨が割れ、糸の切れた操り人形のようにその場に骨が崩れ落ちる。
「難しくはない。そして、それほど恐ろしくはない。目の前のスケルトンを討伐したら、一息入れよう!」
「「「お、おう!!」」」
二列に配された市民兵は、一体倒すと後ろに控える仲間と交代し、交互に倒していく。それから十五分ほどですべてのスケルトンを無力化することができた。
「骨はいかがしましょうか?」
指揮官の声に、聖騎士たちが「袋に詰めて川に投げ捨てるのが良いでしょう」と答える。なるほど、水が苦手なアンデッドなら、水の中で流されてしまえば復活することも出来なくなる。一体が完全に同一人物であることがスケルトンにとっては大切なことなので、混ざってしまうと再生は出来ない。
「ちょっと袋の上から殴って砕いておいてほしい!」
伯姪が追加注文する。確かに、安心かもしれない。
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南門の見分を終え、敵戦力の最も多いと考えられる東門へと向かう。そこには、不思議な光景が広がっている。外郭と内郭の間には広い敷地が広がっており、そこにはスケルトンとアンデッド・ナイトが数千ひしめいている。コルトからの軍勢は、他の地域の者よりも戦力が充実している。主攻正面であるからだろう。
「む、あの場所だけぽっかりと穴が開いたようではないか」
「不思議ね……って、あの場所あなたの石壁じゃないの?」
昨日、魔石を用いて試しに作ってみた石壁。その周囲数mをスケルトン達が避けるように展開している。
「まるで安全地帯ですな。流石は聖女様の魔力。アンデッドどもは恐れおののいているのでしょう」
「……気に入らんな。最初から、アリーが壁を築けば良かったのではないか」
魔力切れでダウンしたカトリナは、自らの情けない姿を思い返したのだろうか、珍しく彼女に皮肉を言う。彼女が言い返す前に、伯姪が言葉を継ぐ。
「だって、あれではスケルトンが近づいてこないから、討伐しようがないじゃない? やっぱり、カトリナが壁を築かないと駄目みたいだね」
「……きょ、今日もか!!」
「今日は北側、明日は西側をお願いするわ」
「他に魔力が強力な人がいないのだから、あなたが頼りよ! カトリナ!!」
フンスとばかりに胸を大いに張るチョロイン令嬢カトリナである。
「ならば、晩飯前に『カトリナ様、また晩餐抜きになりますが宜しいのですか?』……晩餐後、湯あみをしてから寝る前に軽く作業するか」
「ええ、そうしてもらえるかしら。私も今日は東門で少し仕事をするつもりよ」
何! とばかりに対抗心を燃やすカトリナだが、彼女には彼女のやるべき仕事がある。
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