第259話-2 彼女はコルトからの部隊を睥睨する
装備を整え、魔銀のメイスと盾を構えたカトリナ主従が前に出る。そして、スケルトン集団の側面に殴り込みをかける。比喩ではなく、本当に殴り込んでいるのだから、正しい言葉遣いだろう。
「うおおぉぉぉ!!」
「……」
雄たけびを上げ、魔力の籠った魔銀メイスが薄っすらと発光する。魔力の無駄な垂れ流しだと『魔剣』がぼやくが、この程度どうという事はないのがカトリナの無駄に凄いところなのだ。
『魔術師として訓練していれば、相当の能力者だったろうにな』
「公爵令嬢にはそれは無理よ。彼女のあれはあれで、十分意味があるわ」
高位貴族の子女として彼女やその姉に匹敵する魔力量は、王家の一族としての体面を大いに保たせてくれる。それで十分意味があるのだ。
メイスを細かく振り回しながら、的確に頭蓋を破壊するカミラと、大振りも大振り、魔力を垂れ流しつつ暴風雨のように駆け回るカトリナは、何故か息があって見える。カミラってやっぱりすごい侍女なのだろう。
『あのねぇちゃんもヤバいな』
『魔剣』も思わず言葉にしてしまうほど、でたらめな主人の動きをぴたりとカバーして見せる。文字通り『背中を護る』を実行しているのだ。
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二段目に出た近衛従騎士のバディはブルームの中では悪くないメンバーであったが、それは学校の訓練においてだ。まず、初めてのアンデッドで変な力みが見て取れる。メイスはヘッドが重く重心が先端にあるので、振り回すにも剣より技術がいる。
間違えないで欲しいのだが、振り回すのに適しているのは剣だ。但し、刃筋が立たないと簡単に弾かれてしまう。頭の骨なども、掠って致命傷にならないし、肋骨だって容易に断ち切る事は出来ない。手元に重心があり振り回しやすいのは剣だが、その剣で致命傷を与えるには技術がいる。故に、剣術なのだ。
メイスは力任せに叩きつければいい武器だが、その力が必要でもある。振り回せば体が流れ隙ができる。その隙をフォローするバディーも隙だらけだから質が悪い。
『おい、大丈夫なのか?』
『魔剣』が見ていても心配なほど攻撃されているが、飲み込まれるほどではないし、騎士の鎧が致命傷を避けてくれる。
「習うより慣れろよ。その為に連れてきたのだから」
正直、市民兵の前で彼ら以下の振舞いを近衛にされるのは、王家の面子が立たない。お前ら腕一本くらいへし折られても、ポーション一気飲みで回復させるから、殴られとけ! くらいの勢いである。
息切れを起したタイミングを見計らい、聖騎士のバディーが前に出る。
「下がれ、替わる!!」
「あ、ああ……」
「……たすかる」
二十代後半と思われる見目善き聖騎士二人が声を掛けつつ割って入る。さすがに二人の攻防一体の連携に、近衛の従騎士が感嘆の声を上げる。
「すごい」
「流石……聖騎士」
「そうじゃないわ。背中越しに、仲間の気配を感じながら戦うのが集団戦よ。でなければ、数に飲み込まれてしまうわ。一と一を足して三にも四にもするのが騎士の戦い方ではないのかしら」
騎士団と比べ、討伐や警邏の仕事をしない近衛騎士は、集団と集団の闘いを想定した訓練・実戦経験がない。故に、スケルトン如きに振り回されているともいえる。
「冒険者としての経験が生きているというわけだな……ですわ」
「その設定はもう不要なのではないかしら」
「ま、まあそうだな。ゴブリンの群れや『鉄腕』の討伐で、味方との連携の大切を学ばせてもらったのが身に付いているのかもしれんな」
彼女の中では絶賛「カミラのお陰」と叫んでいるのだが、連携の重要性を
カトリナが声に出したことはブルームに伝わるだろう。それは、この先大切
なことになる。
近衛のボンボンどもにも「ミアンを見捨てて自分だけ逃げる」という選択が思い至らなかっただけ、まだ見どころがあると言えるだろう。民を護ってこその貴族、危機に立ち向かってこその騎士だ。
聖騎士の相手に合わせる動きを見習った二組目の近衛は、それなりに上手く相手を思いやりながら左右の腕のように上手に攻防を熟している。素材は悪くないのだから、後は意識の問題だけなのだろう。魔力もあり、生まれ持っている貴族としての誇りもある。意外と、善戦するかもしれないと彼女は期待し始めていた。
「アリーは出ないのか?」
カトリナは挑発的な目線を送ってくる。
「一人での戦い方も見てもらいましょうか」
彼女は後ろから二人の近衛の間に割って入り「下がりなさい」と命ずる。その近衛の下がるタイミングで一度バックステップをし、引き寄せたスケルトン数体をバルディッシュの一薙ぎで粉々に砕いてしまう!
「「「「おおぉー」」」」
「アリー一人で十分なのではないか」
カトリナ、そういう問題ではないと彼女は心の中で思う。この騒乱は、帝国の仕掛けた攻撃であり、恐らくは王国の威信を低下させるための仕掛けでもある。近衛が滞在しているタイミングを狙い、カトリナという王の一族がそこに居る事も動機の一つだろう。
『最近王国は対外戦争してないから、舐められてるんだろうな』
「専守防衛に徹していても、精強な軍は精強なのよ」
魔銀のバルディッシュが青白く輝くのは、彼女の魔力を込めているから。身体強化をし、小枝のようにその長柄武器を振り回し、当たるそばから、スケルトンが粉々に砕けていく。
一通り……腕前を見せた所で、彼女は後退する。
「こんなものでよろしいかしら?」
「「「「……大変結構なお点前でございます……」」」」
よく考えると、リリアル生の前では尊敬されても感嘆されることはあまりないので、珍しい機会なのだと自分でも思うのだ。
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十人足らずで一当たりし、五十ほども削ったと思われるが、この数百倍の数がミアンに殺到する事を考えると、気の遠くなる作業に思える。
『あれが、指揮官だな』
不意に『魔剣』が呟く。隊列後方の中央に、スケルトンでありながら武具を備え、ワイトのように魔力を纏い薄く発光している者たちがいる。
『ボーン・ナイトとかそんなんだな』
「……それは、スケルトンベースのワイトと考えればいいのかしら」
『そうだな。つまり、というよりもやはり死霊術師により召喚され、または作られた軍団で、あいつ等がこの軍団を指揮しているというわけだ』
彼女は「あれだけ倒せれば楽になるかも」と思うのだが、『魔剣』にそれを止められた。
『ミアンに集めて討伐する方が楽だぞ。スケルトンを狩り立てるために、リリアルがこの辺りに派遣されて、延々と森に分け入るのは嫌だろ?』
森での討伐は薬草採取も出来て一石二鳥なのだが、かといって延々と何か月も遠征したいわけではない。何より、農村の生活基盤である森にスケルトンのようなアンデッドが存在する状態を座視するのも嫌なのである。
「男爵、そろそろ帰還しませんと、日没に間に合いません」
「では、ミアンへ戻りましょう皆さん」
息をようやく整えた近衛の従騎士達を確認し、彼女たちは馬首を返すのであった。
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