第259話-1 彼女はコルトからの部隊を睥睨する

「……何だあの軍勢は」


 帝国との国境を監視する哨戒兵は、帝国領内から現れたアンデッドの軍団を目の当たりにしていた。


 コルトから帝国・王国の国境を越えた軍勢は、長槍を装備した「スケルトン」約千と、騎士もしくは兵士の装備を持つ「アンデッドナイト」「アンデッドポーン」に、少数のリッチ及び「首無騎士デュラハン」約四百である。


 スケルトンは白骨を死霊魔術で簡単な命令を実行させるゴーレムに近い存在であり、単純な戦力としては下位の冒険者程度だが数を揃えることで戦列を形成し脅威となる。但し、骨同士の結合を破壊することで倒す事ができる。


 しかしながら、「アンデッドナイト」はグールに近い存在であり、生前の魂を死霊魔術で死体に縛り付け、狂戦士としているモノとなる。力は非常に強く、また、首を斬り落とさねば倒すことができないうえに、体は武装している強力な魔物である。


 リッチは高位の魔術師・聖職者が不死者化したもので、強い魔力を保ち魔力を用いた攻撃を行い、またデュラハンに至っては「首」を斬り落とすというアンデッドの対策が不可能である。


 この場合、高位の聖職者の浄化の術を用いるか、聖なる力を持つ武具でダメージを与えなければならない。


 進撃速度は並の歩兵並であるとしても、生きている兵士の行軍が一日20㎞程度だが、休息が不要なアンデッドは日中の行軍を避けたとして、並の兵の倍は移動可能だろう。つまり、明日の朝には王国内の都市に到達する。





「もうダメだ……」

「い、急いで救援の要請を!!」


 現在の王国は聖都に騎士団を一部駐屯させているものの、帝国国境沿いが平穏であることから警備程度の戦力しか近隣には存在しない。


「フルールを呼び戻すか」

「ま、間に合いません……それに……」


 確かに、フルールの全てを呼び戻すには時間が足らないし、戦力としてもそれほどではないだろう。だが……


「リリアル男爵だけでも、いらしている。戦力も、士気もそれで十分回復できる」

「それは……そうですが……生徒ですよ彼女は」

「いや、それ以前に国を守る騎士であり、副元帥閣下だ」


 斥候の騎士は馬首を返し、ミアンに向かい疾走するのであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ミアンは東方の護りは外郭を有し二重の防衛網を持っているが、それ以外は濠と城壁と塔からなる昔の防御施設である。大砲を持たないアンデッドの軍勢相手には十分な防御力を有している。


「後退させた方が……」

「いや、一当たりして頂く」


 市民兵の士気を高めるためにも、王国副元帥の雄姿が必要だと守備隊長は考えていた。ミアンの人口は三万ほどだが、兵士となる市民は三千が良いところだ。二十四時間戦い続けるには、先への希望が何より重要だ。


 そう会話している守備隊長の前を、数騎の騎士が通過していこうとする。


「ど、どうしたのだ!!」

「リリアル男爵です。聖騎士・従騎士と物見に出ます」

「しょ、承知しました。お気をつけて!」


 面倒なので、リリアルの紋章のサーコートを揃えようかと考えている彼女である。サーコートとは鎧の上に着るローブのような布で、貴族であればその紋章を彩ったものを身に着ける。


 幟旗よりも存在感が増して見える装備である。


「どうだ、そろそろ接敵しそうか」

「……カトリナ、そろそろ魔力走査を使いこなした方がいいわよ」

「お嬢様、その森の向こうにかなりの数のアンデッドの集団がこちらに向け進んできております」


 彼女の魔力走査には視界いっぱいにスケルトンの軍勢が迫っていることが、魔力走査で見て取れる。捜索範囲は狭いだろうがカミラもスケルトンの密度から大軍勢を疑う余地はないと判断しているのだろう。


「さて、どうする」

「一当たりしたいのでしょう? 馬で突撃すると馬を失うからやめたほうが良いわよ」


 馬で突撃する気満々であった近衛の従騎士達が息を詰まらせる。


「では、二人一組で背中を護るように前にでるか」

「……それじゃあ押し込まれるから、側面に移動してヒットエンドランよ」


 数体倒したら一旦その場から退く。囲まれ押し込まれたら、スケルトンの群れに飲み込まれてしまうからである。


 街道の正面から向かって左側に寄せる。距離を置いて下馬し、街道に沿って進軍するスケルトンの軍勢を数百メートルの距離を取って視認する。


「これが、ミアンに向かってるのか……」


 一人の従騎士が呟くが正確ではない。少なくとも、デンヌの森から同数のスケルトンが進んでいる。おそらくはそれ以外の地域からもミアンに向けアンデッドの軍勢が進んでくると思われる。


「で、どうするのだ」

「同時に攻め入れば包囲されるでしょう? 『車掛』ね」


 複数同時ではなく、押し込まれそうになる前に次のバディが入れ替わり攻撃し、継ぎ目なく攻撃し続ける組立である。


「なるほど、一人はみんなの為に、みんなは勝利の為に……だな」

「違うと思うわ」


 何か、良い事私言ったわ感を出しているカトリナを無視し、手番を決める。


 最初にカトリナ主従、次いで近衛従騎士、聖騎士のペア、再び別の近衛従騎士、最後に彼女である。


『魔銀のバルディッシュ使うのか』

「背中を護る人がいないのだから、そうなるわね」


 長柄のリーチをバルディッシュの破壊力に彼女の魔力が加われば、一人でも随分と威力を発揮するだろう。


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