第255話-1 彼女は伯姪と『ジス』のワイトを退治する

 修道士が頭頂部を剃り上げるスタイルは「トンスラ」と称されるもので、古の聖人の故事に因む髪型であるという。布教の際に弾圧され、頭頂部の髪を失ったとされる聖ピエトロに因んでいる。


――― が、頭脳労働やストレスの多い人は頭頂部から禿げると言われているので、若者に対する嫌がらせではないかと邪推してみたりする。


『Gawawaaaaa!!』

「貴方も聖職者なら、暴力ではなく愛の言葉で接するべきではないのかしら、修道士様?」


 神を口にするものほど、強欲で暴力的で愛からほど遠い存在であると彼女は思っている。


「言葉より、態度で示そうよ! ほら、みんなで……」

「「メイスで叩こう!!!」」


 彼女自身は素の魔銀鍍金メイス、そして、伯姪は試作聖女の魔力の籠った『聖魔装のメイス』である。彼女の魔力なので魔力障壁を貫通する事は問題なく可能だ。


「オラオラオラオラ!!!!」

「ちょ、淑女の掛け声としては如何なものかしら」

『いいから、手を出せ。一気に畳みかけないと面倒だぞそいつ』


『魔剣』が何かしら気が付いたようである。恐らく……


『Diabolus enim et destrui!!!』


 空気を固めて叩き付けるような威嚇の発生。王都の地下墳墓で受けた魔力を込めた咆哮が狭い室内に炸裂する。が……


「ワンパターンね」

「耳栓ってご存知かしら?」


 咆哮の後の一瞬の隙をついて、間合いを詰めた伯姪がメイス・ヘッドのスピアを下顎から突き上げるようにワイトに叩き込み、魔力を吐き出させる。


『Gwo BBBBoooooonnnnn!!』


 頭蓋に聖女の魔力を叩き込まれたワイトは、一瞬にして憑りついていた悪霊が浄化され、脳内の圧力に耐えられなかった干からびた脳みそが耳の孔から飛び出してくる。


『お、捕まえるんじゃなかったのかよ』

「よく考えたら、悪霊って他の人間に憑りついたりするかもしれないから、危険でしょ?」

『ま、それはそうだな。とは言え、魔装網のテストできなかったのは残念だったな』


 これから先、この遠征中において幾らでも機会がある気がするので、恐らくは問題は無いだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 塔内部での爆発音は、夕闇迫る『ジズ』城の野営地にまで響き渡り、塔の前には教官と魔力持ちの隊員が様子を見に集まってきていた。


「お騒がせしました」

「また出たわよ。ほら!」


 引きずってきた頭部が破損した長身の修道士と思われる遺骸を皆の前に差し出す。


「これが、塔内の隠し部屋に潜伏しておりました」

「棺桶も持ち込んでいたから、恐らくは前回と同じ誰かが持ち込んだ、騎士の遺骸にワイトを取りつかせたもの……だと思うわ」

「ワイトかぁ……」

「二人を塔の調査に選んで正解だったという事か?」


 教官も薄々感づいていたのだろうが、まさか、隠し扉を見つけて中に入るまでするかどうかは教官の慮外の事だろう。


 棺桶には古代語と神国語で名前と祈りの言葉が刻まれた金属板が嵌め込まれている。


「読めるか?」

「紛失した、神国の異端審問所所長の遺骸の棺桶だと思われます。遺骸の外見的特徴から、ご本人の遺骸だと思われます」


 痩せた長身の男という特徴は一致している。髪の色などは分かるが、干からびた以外では肌の色や目の色も分からないので、何とも言えない。


「一先ず、王都に使いを出して遺骸を回収。騎士団に改めて塔内の調査を行うように具申する事にしよう」


 状況的に放置はできないし、遠征を中止するわけにもいかない。故に、手間ではあるが、近隣の騎士駐屯所から本部に使いを出してもらい、明日の朝にでも引継ぎをし、騎士学校生は先に進む事になる。


「アリーお疲れ様」

「なに、私には何もないわけ!」

「いや、メイもな。大変だったな」


 妻帯者である元冒険者のヴァイは、心配りのできる男でポイントが高い。

教官よりもだ。


「でも、行く先々で引き当てるよなお前たち」

「失礼ね。危険が私を呼んでいるわけではないのよ」

「それじゃ、お前が危険を呼んでいることになるんじゃないかのか?」


 ジェラルドはニヤニヤしつつも、空気を和らげようとちょっかいを掛けてくる。今回はさほど危険があったわけでもないので、疲労はそこまで激しくはない。

が……


「今日の哨兵、二人は免除する。ゆっくり休んでくれ」


 教官も、二人にはそれなりに配慮しているようである。



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