第254話-1 彼女は王都を発ち『ジズ』に到着する

 気持ちは全く晴れないのだが、天気はこの上ない快晴である。


「さあ、出発ね」

「……ええ、何事もないと良いのだけれど」

「あはは、それは無理!! でも、何とかなるわよ」


 伯姪の感覚からすればその通りであろうか。


 丸一日馬に乗り続ける行軍となる。周囲を偵察したり、交互に隊列を入換えたりしつつ、王都からしばらくの間は、フルールとブルームの分隊は並行して行軍していたのだが、昼の休憩の後に部隊は分かれ、フルールは遠回りのルートをたどり、初日の宿営地である『ジズ』へと向かう。


「なんかあるんだよな今回も」

「間違いなくあるな。こっちは確実に」


 フルール分隊のメンバーが、チラチラと彼女と伯姪を見ながらしきりにソワソワと話をしている。何もない遠征では訓練にならないと思うのだが、どうなのだろうか。


 初日の宿営地はロマン人が築いたロマン式城塞の跡地を用いた城塞なので、何かあると思うのは彼女だけではないのだろう。前回も、ロマンデ遠征で分岐したあと、ワイトを討伐しているわけだから当然だろう。


 とは言え、今の時点で『ジズ』にワイト発見・討伐の依頼は報告されておらず、可能性は高くないと……思いたい。





 街道の左右は見渡す限りの小麦畑であり、王都近郊の穀倉地帯の一つであることは間違いなかった。


「久しぶりに広々とした畑を見るわ」


 リリアル周辺は畑はあるものの、その奥には必ず森が見える場所が多い。なだらかな丘が続く王都の郊外、この地域は帝国の国境までこのような地形が比較的続くことになる。


 単調な騎乗での移動、魔力を持つ二人は身体強化を使いつつ疲労が蓄積しないように配慮しているので、余裕をもって参加している。


「まあ、リリアルの遠征に比べれば、ピクニック気分よね」

「何かに追われているかのように全力移動が当然なのだから、仕方が無いわね」


 無理な日程で強引に移動するのがデフォルトのリリアル学院遠征。それと比較すれば、研修のために宿営地への到着にも余裕がもたれている。緩いと言えば緩いのだが、普通の軍隊では一日の行軍距離は16‐24㎞と定められており、リリアルなら一時間で下手をすると終了する程度が本来の

行軍速度なのである。


「今日の宿営地の哨戒は楽しみね」

「……何故?」


 伯姪曰く、『ジズ』の城塞は異端審問で解体される直前まで修道騎士団の管理下にあり、どこかに修道騎士団の隠された宝物庫があると囁かれているというのだ。


盗掘師トレジャーハンターでもあるまいし、作戦行動中に勝手なことができるわけないでしょう」

「そこをなんとか……できないかなと思ってね。折角だから」


 何が『折角』なのかは意味不明だが、伯姪はその手の噂が好みなのだろうか。今までそんな気配は無かったと思うのだが。


「あの騎士団の残した物の中に、何かしら帝国とつながる手掛かりがないかとかと思ってね」

「……三百年前の出来事でしょうし、その間に回収する方法はいくらでもあったと思うのだけれど」

「た、タイミング?」


 ここに来て、急に帝国のそれも不死者の魔物を使い王国に対する工作が始まったのであれば、今まで休止していた何かが動き始めた可能性はある。未回収であった王国内の修道騎士団の隠し資産を取り戻す行動もあるかも知れないとは思う。


「それもあっての遠征だと思わない?」

「思いたくないわね。縁起でもない」


 準備が無駄になればいいと思うほど、今回の遠征のメンバーは不安で仕方がない。ゴブリンやオーク程度なら問題ないだろうが、グールの集団にでも突入された場合、ほとんどの学生は敵戦力の補強にしかならないと彼女は判断している。当てになるのは、魔力持ちと冒険者であったことのあるメンバーくらいだろう。八割方は餌になりかねない。



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