第248話-1 彼女は思わぬ死霊に出会う
結論的に言えば、勝負に勝って試合に負けたのはカトリナである。何しろ、ペース配分度外視でスペクターを強引に倒し賭けには勝ったが、探索終了まで魔力が持ちそうになくなってしまった。
「もはや、これまでか……」
「それは、貴方だけじゃない。自爆よ自爆!!」
「むぅ。申し訳ない……」
シオシオと珍しく落ち込むカトリナ。ここですかさず、カミラがフォローする。
「カトリナ様」
「なんだ、急に改まって」
衣を正し、カミラが話し始める。
「貴方様の夢はドラゴンを倒す事でございましたね」
「そ、そうだが」
「たかが王都の地下墳墓の死霊如きを倒すのに、全身全霊を込めなければならない程度の力量で、巨大なドラゴンを倒せるとお思いなのでしょうか?」
「グハッ!!」
日頃無表情なカミラが、珍しく挑発的な口調と攻撃的なほほえみをする。
「まっ、私とてそうは思っていないぞ」
「御二人も私もあと半日でも戦えるくらいの余力を残しておりますわ。ドラゴンを倒すのであれば、そこに至る道程においても力を消耗するもの。万全の状態で立ち向かえるとは思っておられませんでしょうな」
「……」
察していただけるだろうか。冒険者として多少経験を持ったカトリナとはいえ、基本的に高位貴族の習い事の延長線なのである。鍛錬が終わればタオルが手渡され、お茶の用意があり、体を侍女が洗い、真新しいドレスに着替えることが出来る鍛錬の延長だ。
だが彼女たちは違う。一度依頼を受けたなら、解決までの数日から数週間は野営でも何でもこなし、その間、体力を維持して目標を達成しなければならない。つまり、近衛騎士と冒険者の違いというのは、その辺りにあるとも言える。
「では、二人はここまでで地上に戻ってもらえるかしら」
「……ま、まってくれ!!」
「いいのよ、今回は遠征前に死霊と対峙する経験をあなたに持ってもらうことが一つの目的なのだから。目標は達成してるわ」
「左様でございますね。遠征ではお二人とは別グループですから、助けを求めるべき相手はおりません。よくよくお考え下さいませカトリナ様」
カトリナは不機嫌そうに恥ずかしそうに下を俯く。豪華絢爛の美女が打ちひしがれるのは、それはそれで見ごたえがあるのだが。
「申し訳ないが、我らはここまでだ」
「ええ、気を付けてね。戻るにはもうスペクターは出ないでしょうけれど。先に帰ってもらって大丈夫だから」
「……すまない……」
「では、お先に失礼いたします」
という事で、既に半ば以上のスペクター四体を倒した時点で、二人だけで残りの討伐を行う事にしたのである。
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残るは二体。恐らくは、更に強力なスペクターであることが想像できる。
「いくつか貴方に試してもらいたい方法があるの」
「勿論、何でも言って」
聖油を用いた攻撃。その剣に聖油を塗布し、更に炎を纏わせる。
「当たる直前に着火させるわけね」
「魔力量はほとんど消費しない、制御が難しい方法なのだけれど……」
「そこは、技を磨いてきた私の出番ね。魔力馬鹿の公爵令嬢じゃできないものね」
確かに、魔力馬鹿なのだが……初期の癖毛のような感じだと彼女は思う。あって困る事がないのだが、その量の多さに目が行ってしまい、効率よく使う、必要なだけ使う技を磨いてこなかったことが敗因だ。
「魔装馬車の馭者でもやらせて、一ケ月ぐらい行商すると、微細な魔力の使い方も理解できるかもね」
「流石に、難しいわね。それでも、近衛で何らかの……あ、あるわ」
彼女が近衛騎士として王妃様か王女殿下付きになり……
「それなら、永遠に馭者で走らされそうね」
「御二人は制御も繊細な方達だから、良い影響を受けると思うわ」
彼女は次回王妃様にお会いした時に、カトリナの課題とその克服にピッタリな役職が近衛にあると進言することにしようかと思う。
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