第234話-1 彼女は王都に戻り、子爵家の蔵書を読み返す

 教官に探索結果を簡単に説明し、一旦カトゥの騎士団駐屯地へ戻る事になった。教官は「助かったぞ」と短く、しかし本音で答えたのである。


『騎士団送り込んだら……下手すると全部ワイトだぜ』

「……それが私たちを送り込んだ理由ね。でも、なんとなく理解できたわ」


『魔剣』が「なんだそりゃ」と聞き返す。彼女の中で何が吸血鬼や竜を送り込んできているのかと考え続けていた。連合王国か帝国か……その協力者もしくは原神子教徒の商人同盟ギルド……どれも決定打に欠ける。


 野営地を撤収し、各員はやや疲れた面持ちで馬に乗る。彼女は「馭者は任せなさい」とばかりに伯姪を荷台に乗せる。伯姪は魔力の消費で消耗したのだろう、うつらうつらし始めた。彼女は『魔剣』と対話を始める。


 誰かが利を得たいのであるなら、もう少し謀略じみた内容で仕掛けてくるはずなのであるが、ひたすら強力な魔物をぶつけてくるところが気になっていた。一体何の為に……と。一つの回答に思い至る。


 『王国に恨みを持つ者』『王家に恨みを持つ者』の中で、既にその根本が消え去っている存在が「修道騎士団」なのだと。


 今ではすっかり、その威容は消え去り『古聖典』に記される反逆の塔のように長らく砂に埋まる存在を思い起こさせようと、王国の周辺から内部から様々な事件を引き起こさせている。


 表面的には連合王国、教皇庁、帝国、ヌーベ公、ソレハ伯、原神子教徒が個別に活動しているように見えて、その背後には『修道騎士団』の系譜に連なる者たちが存在するのではないかという推測が成り立つ。


『まあ、相当恨まれているだろうし、既に存在しない集団なら、意趣返しだけでも十分溜飲が下がる。理由としては王国が困難になればで十分だ』


『魔剣』は『そういや、何代か前のお前の先祖も、王家の財政に関わる事だったから、資料とか書庫にあるかもな』と彼女に告げる。何か焚き付けられたようで癪ではあるが、彼女は実家の書庫を捜索してみようかと思うのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 カトゥで遺品を提出し、また、内部で確認した物に関して調書を作成していく。単純に、『ワイトを討伐した』では済まされない内容であったからだ。


「聖騎士か……確かに『修道騎士団』の装備なのだろうな」

「棺を改めれば、誰かまで確認できるかもしれません。持ち出す事は今回できませんでしたが、回収する必要はあるかと思います」

「……実際の現場検証はこちらで行わねばならないし、その際に、回収しどなたのものかを確認するとしよう」


 聖騎士の装備をそのままに棺に納められた高位の存在で……棺が紛失している存在なら、それほど時間を掛けずに探し出すことが出来るだろう。


「他に気になったこと、思い出したことがあれば、追加で教えてくれ。助かった、ありがとう」


 この小隊長も……本心から「助かった」と思ってるのだろう。自分が同じ立場であってもそう思う。


 今回は冒険者ギルド持ちで、狭い宿舎ではなく風呂付の宿を手配してくれている。食事も宿の中であれば、飲み放題食べ放題であるというので、全員喜んだ。女性は風呂付の高級な部屋に、男性は……飲食付きにである。




 カトゥでは貴族も宿泊するという宿に案内される。二人一部屋だが、悪くないベッドや入浴設備である。勿論、カトリナの別棟やリリアルと比べるべくもないのだが。貴族の屋敷よりは若干地味ではある。


 食事を折角だから共にしようということで、六人はこれまた個室をあてがってもらい、思う存分飲み食いする事にした。少なくとも、女性四人は目立ってしまうからである。


「ではお疲れさまでした」

「かんぱーい!!」

「「「「乾杯」」」」


 冒険者ギルドお勧めのロマンデ料理のアラカルトが次々と並べられていき、酒宴が始まる。先ずはエールからということで、程よい甘みのあるそれを口にする。


「ロマンデはシードルが有名だな」

「リンゴの蒸留酒もあるのよね。味を確認しておきたいわね」

「おお、リリアルではその辺りも手掛けるのか」

「ノーコメントよ。部外者は」

「むう、ギュイエのブランデーなども情報交換『是非しましょう。王妃様をお招きする時には、あなたにも参加していただきたいと思うわ』……話が通じて何よりだ。ポワトゥにも是非遊びに来てもらいたいものだな」


 ボワトゥはギュイエ公爵領の北の領都・副都とでも言えばいいだろうか。百年戦争でも何度か激戦地となった場所であり、古くはサラセンとの戦いの場ともなった場所だという。それも千年近く前のはなしであるが。


「ワイト……超ビビったわ」

「滅多に現れない高位の死霊だというからな。いい経験になった。この飯美味いな……タダだとなお一層美味い」


 ジェラルドは真摯に、ヴァイは軽やかに相槌を打つ。生きて帰れてこその美味い食事だから、思い切り堪能したい。


「オーガも今回の経験で問題ない気がしてきた」


 ある程度、脅威のある魔物討伐を経験出来たことはカトリナにとって大いに意味があった。


「言葉が通じる分、感情的になりやすいから、安い挑発が良く効くわよ」

「そう思うな。恨みつらみを持って生きていると……人生狭くなるのだろうな」

「ワイトは死んでるし、オーガは人間辞めてるからどっちも『人生』ではないかも知れないけどね!」


 すっかり次の討伐に関心が移っている公爵令嬢と男爵令嬢。二人の子爵令嬢はそれぞれ何か思うところがあるようで寡黙である。それはいつも通り。



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