第233話-2 彼女は聖騎士の悪霊と対峙する
パラディンは骨も残らず、装備品だけを残して消えてしまった。装備は魔法袋にそのまま回収する。
「さて、他の場所も一通り確認しましょうか」
「……私たちは大広間の警戒を替わろう」
「疲れたのね」
「いやいやそうではない。経験は分かち合うべきだろう」
伯姪に突っ込まれ、「そうじゃないよー」アピールをするカトリナだが、剣で弾くのは思いのほか大変であったのだろうことは見て取れる。
討伐した元冒険者からの追剥行為も完了した二人を連れ、彼女と伯姪はまず、副居館を確認する。トーチをかざしたヴァイとジェラルドが前後を歩き、中央に二人が並ぶ。
「アリー トーチでワイトって燃えるのか?」
二階に突入した際に、油球に着火して燃え上がったワイトだが、ワイト自体にダメージは入っていなかった。
『死んで間もない新鮮なワイトだから、生前の感覚で戸惑ったってところだな』
「新鮮なワイト……嫌なワイトね。」
彼女は内心『魔剣』にダメ出しをしつつ答える。
「装備自体は魔力の影響を受けないから、燃える素材なら燃えるわね。但し、本体は魔力を帯びた死体なので……不燃性」
「燃えないゴミか……難渋しそうだな」
「魔力を持っている存在がいれば、事前に察知できるから大丈夫よ。ここにはいないわ」
「それは助かる。どんどん確認しようか」
副居館一階を確認し、二階に移動すると……そこは居室として使われていた形跡が残っていた。但し、何かしら調査資料となるようなものは残されておらず、人の生活していた痕跡らしいものだけであった。
「……ワイトを召還した魔術師がここで生活していたとかか?」
「あり得るかもだけれど、どうかしらね。そもそも、長居するような場所でもないじゃない。近くに街があるわけでもないし、寝具はあるけれど……とても寝たいような状態じゃないし」
その昔は豪華な寝台であっただろうその木製のそれは、変色しところどころ腐朽し始めている。キノコさんいらっしゃい状態だ。
副居室から大円塔の連絡通路を移動し最上階から確認する。魔力を有する物は存在しないので、特に気にする必要はないだろう。と彼女は考えていた。
円塔の最上階の床には、数多くの象眼を施した高位の聖職者が納められていたと思われる棺が残されていた。中には何も残っていない。
「何かしらこれ」
「もしかして、これが聖騎士の遺骸を納めていた棺かしら」
「……何だか豪華だな」
豪華な棺だが、聖騎士が『修道騎士団』の騎士であった場合、王国内の幹部たちは皆処刑されているだろうし、遺骸もまともな状態ではなかったはずだが……
『ありゃ、ワイトと遺骸が別ものなんだろう』
「つまり、それ以前に亡くなった聖騎士様の遺骸を利用したということね」
『ならつじつまがあうだろ?』
『魔剣』の説明に納得する。
『最後の頃の修道騎士団長なんてのは、帝国の皇帝と同格だったからな。上は教皇しかいないし、王国の法では裁くことができない治外法権な存在だったんだよ。だから、絶大な権力を持つと同時に恨みも買っていた』
最後の頃には、王家の財布も握り、王の判断すら覆す存在となっていたという。詳しい事は調べてみなければわからないが、『魔剣』曰く、当時の王家の法律顧問である王立大学の学者たちと議論を重ね、王国内の事は王が裁くと強引に処分したという。
因みに、当初批判していた連合王国も、数年後に同じ行為を行い修道騎士団の溜め込んだ莫大な資金と借金の担保等で保管していた財宝を奪っている。ロマン人はどこまで行ってもロマン人だと彼女は思う。
「色々調べたいことが出てきたわね。でも、ここで出来る事はほとんどないわ」
「さっさとこの陰気な場所を出ましょうか。報告上げて、王都に帰還しましょう」
「お、おう。そうだな」
「あの冒険者の装備ってどうなるんだろうな」
『薄赤』パーティーの装備は悪くは無かったと思われる。盾役のプレートは中々のものであった。冒険者であれば、討伐した冒険者の所持品になるのだが、騎士団でそれは難しいだろう。
「騎士団の備品か取引のある商人に払い下げじゃないか」
「……だよなぁ……まあ仕方ねぇか。俺らじゃあっちの仲間入りするしかない魔物が相手だったもんな。命があるだけめっけもの、経験が積めただけましだと思うしかないか」
二階の冒険者の装備を麻袋に入れそれぞれ分かるようにまとめると、彼女の魔法袋に入れる。
一階に降り、大広間に入ると既に麻袋に仕分けされていた冒険者たちの装備を取りまとめを終えたカトリナ達が待ち構えていた。
「どうであった?」
「副居館の二階に人がしばらくいた跡、大円塔の最上階には、あの聖騎士の遺骸が収まっていたと思われる豪華な象眼が施された棺が置いてあったわ」
「……なるほど。死体泥棒か……悪質だな」
客観的に考えればそうなのだが、恐らく、大切にどこかに安置されていた聖騎士の聖櫃を持ち出し、この場所でワイトを憑依させたという時点で、高度な術を有する死霊術師が見えない壁の向こう側にいるのだと思うと、彼女の気持ちは一段と沈むのである。
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