第201話-2 彼女は平民の騎士たちと昼食を共にする
ギュイエのお姫様が同期という事で、近衛騎士見習集団の士気はとても高い。無駄に高い。
向こうのメンバーのうち、二人は「魔導騎士」であり、王都在住の男爵・子爵家の息子でそれほど熱心に接しているようには見えない。姫様と侍女に、侯爵・伯爵の非嫡子が愛想を振りまき、少し離れて王都周辺の伯爵嫡子や男爵子爵の令息が話を聞いている。取り巻きが西部の貴族の令息、中立がそれ以外の令息、魔装騎士は局外という雰囲気である。
「あっちはあっちで面白そうね」
「主導権を誰が握るかね。はっきりした性格の御令嬢でしょうけれど、女将軍のように振舞うかどうか疑問ね」
彼女にはリリアル学院の運営がある為、それなりに指揮する機会が存在する。果たして、王族である公爵令嬢が同じことを求められるとは思えないし、その為の教育を受けているとも考えられない。
「王都に在住するための方便だと思うのだけれど」
「さて、あなたに対抗する気満々にみえたけど。王家主催の夜会の時の話はかなり噂になっているわよ」
副元帥だからと、入場のエスコートの後も王家と一緒に挨拶を受ける側に立たされ、『準王族よ~』などと王妃様が口にしていることも聞こえているらしい。さらに、腹立たしい事に、姉も社交の場で『妹ちゃん準王族説』を広めているらしく、王女殿下の次に「王家の姫」扱いされていたカトリナ嬢がご立腹であるとの話である。
「自分の実力を示したい……という事もあるんじゃない?」
「……リリアル男爵『アリーでお願いするわ』……アリー様『様もいりません』……では、し、失礼してアリーの対抗なんて絶対無理だろ」
「それはそうだな」
「大体、騎士団長より余程捜査や討伐の貢献高いもんな」
「俺たちが年に一度あるかないかの事件に、何度も遭遇しているからな」
確かに。男爵になって以降に限定しても、『クラーケン』『偽装兵』『レブナントの集団』『ルーンの都市貴族の犯罪』、『狼人討伐』『帝国の魔獣使い討伐』『竜討伐』『聖都グール村討伐』『吸血鬼傭兵団討伐』……と大忙しであった気がする。
「依頼として指名が来るから仕方ない面もあります」
「騎士団の仕事の見直しってのは、その辺りにあるのかもな。王立騎士団に兵の指揮関係を委譲して、犯罪捜査や魔物に対応する治安維持機能を高めるって話も出ているらしいな」
「いや、兵の指揮に関しては常備軍を近衛以外にも王立騎士団管轄の第一王立師団を設置するって事みたいだぞ」
「徴兵の教育は俺たちが継続するということか」
近衛連隊と近衛騎士団を切り離すことは不可能であれば、別の存在を育成することに切り替えた……という事なのだろう。恐らく、旧都や聖都・南都に連隊を配置する形で三ないし四個連隊の編成を王国内に配置して、即応部隊として育成するのだろう。
「王立騎士団に転職って出来るんだろうか」
「近衛からもありそうだな。出世できるのが決まってるから、王都周辺の貴族の軍人志望者は上に行ける可能性の高い方に移りたいもんな」
「王太子殿下が許すかどうかってのもあるだろ。実力次第だな」
恐らくは内部推薦や選抜試験で実務能力を示さないと転属は願えないのだろう。最初から数を揃えずに、王太子殿下の考えに賛同する者を選抜して行くことになるに違いなく、そこには宮中伯の施策も加わるに違いない。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
昼食を終え、午後は宿舎の部屋割りと片付けを夕食まで行うように指示が出ている。夕食の後は就寝時間まで自由時間となるが、騎士団出身者は日課のトレーニングを行うらしく、既に稽古着に着替えて部屋の片づけを始めるようである。制服では作業しにくいから当然だろうか。
騎士学校はリリアルに似た『離宮』として建設された物の一つであり、多くの貴族を集めて狩猟を行うための施設の一部を活用している。故に、貴族階級の者は貴族用の部屋、平民に関しては従者用の部屋を使用することになっており、女性向けの部屋も整っているのである。
部屋にトイレ風呂が装備されているのは正直助かったと彼女は考えている。とは言え、お湯は出ないので、魔術で湯を入れないといけないのは少々面倒ではあるが贅沢は言えない。
「なんだか、リリアルと変わらないわね」
「似たような素性の施設がいくつもあるのね。狩りをする趣味がある王様が続かないと、この手の施設は余ってしまうのよね」
「城館を建てるのがステイタスという面もあるし、普請道楽というのもあるもの。趣味が合わなければ、使わなくなるのは当然かもしれないわ」
王都周辺には王家所有の離宮が複数あるのは、現在の新宮殿が整う前に大聖堂傍にあった旧宮殿が手狭であった影響もあるのだろう。また、戦争の気配が濃かった時代には、いくつもの退避場所を確保していたという事もある。
「王都の要塞が宮殿傍にあるから、ここよりずっと安全よね」
「間違いないわね。むしろ、ここって周りに何もないから危険だと思うのよ」
リリアルの離宮もそうだが、水堀などを掘削しているものの、それほど大した防御施設があるわけでもない。騎士学校に関しては空堀すらないので、警備は大変であったろうと思われる。
「守りを考えない資質の君主もいるからねぇー」
何かの一つ覚えのように、重装騎士が思い思いに突撃を加えるような戦いで幾度となく敗戦を重ねた世代も存在するので、この館もその辺りの感覚で建築されているのかもしれない。
「さて、さっさと片付けましょうか」
「対して荷物もないのよね。着替えくらいかしら」
ベッドと机、それにソファとテーブル程度のこじんまりとした部屋であるので、何か大きな仕事をしなくてはならないほどではない。
「騎士団とはうまくやれそうね」
「ええ、分隊規模の活動は初めてなので、楽しみだわ」
「考えたら、リリアルって班程度で活動することが多いから、十二人の連携とか初体験ね」
正直、魔術師が十二人も固まって戦闘に突入することはあり得ないからだ。
「とは言え、貴族出身者だけの近衛と魔導騎士は全員魔力による身体強化や魔術は使えるじゃない? 騎士団の騎士は不利よね」
「模擬戦はそうかもしれないわね。でも、魔力があること、多い事は戦力の決定的な差になるわけではないもの。実際、今回の研修で、魔力の大きな敵と対峙した時に、魔力の無い者・少ない者がどう対応するか、大いに参考にさせてもらうつもりよ」
「二期生や薬師の子達の為にもそれはいい考えかも知れないわね」
魔力を持たない一般人が魔力持ちや魔術師とどう対応するか、騎士学校で少しでも経験できればと彼女と伯姪は考えている。
夕食時に再び食堂に移動。昼食と異なり、夕食はセルフではあるものの、コース料理が提供されることになるようだ。量的にも多めで、体を使う職業であることを反映しているようだ。
因みに、高位貴族の子弟は従僕を連れているので、給仕は彼らが務めているテーブルが存在しているが、下位貴族は平民騎士同様、セルフで済ませている。その中に、近衛の女性騎士二人は姿が見えず、聞くとはなしに聞こえてくるのは「別邸で連れてきた料理人が別メニューを提供している」というのである。
確かに、従軍中も高位貴族である将軍や指揮官は自前の料理人や従者を引き連れて戦場を移動し、自分の館で過ごすのと大して変わらない生活を送ると聞いているのだが、流石の公爵令嬢だなと彼女は思うのである。
「流石に本物の王族って感じかしらね」
『お前も一応、準王族扱いなんだろ?』
『魔剣』のツッコミを無視し、彼女は「味が濃いわね」と料理の感想を思いつつ、さっさと食事を終わらせた。
部屋に戻ると、カトリナ嬢の侍女が「主が食後のお茶に誘いたいと申しております」と誘いの言伝を持って現れた。伯姪も同行しても良いということなので、二人は公爵令嬢の住まう別邸へと向かった。
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