第一幕『フルール分隊』

第201話-1 彼女は平民の騎士たちと昼食を共にする

 初日の授業はこれと言ってなく、午前中は施設の案内と、備品などの管理について口頭の説明がなされ、一通り確認した後に昼食の時間となる。隊列は前後で自然に分かれており、前方にはカタリナを中心とする集団、後方には……勿論彼女と伯姪を中心とする騎士団出身のメンバーが固まっている。


 イメージでは、カトリナ取り巻き、それ以外の貴族令息・魔装騎士、彼女と伯姪と顔見知りの騎士、それ以外の四つに大まかには分かれるだろう。


 食堂は一箇所。テーブルは四つ。自然と席が分かれそうになるのだが、伯姪が提案をする。


「私とアリーが真ん中に座るから、初めての人が傍に座ってくれないかしら」

「……え……」

「いや、同じ騎士団のメンバーなら早く理解しあった方がいいじゃない? リリアルの駐屯地で挨拶できなかった人を優先にお話したいからね!」


 伯姪、無理やり攪拌するようである。曰く、騎士学校においてはそれぞれの団ごとの連携を重視するという。近衛には近衛の教育方針、騎士団には騎士団の教育があるので、混ぜると厄介なことになる。


 とは言え何事にも一長一短が存在するわけで、近衛は騎士団の、騎士団は近衛の行動を観察し、参考にすべき点は参考にする様にとのことなのである。模擬戦も基本は近衛と騎士団の組み合わせで行うので、最初は四人の班単位、最終的には十二人の分隊同士の対戦も計画しているという。


 勿論、野外でだ。攻める側と守る側、侵攻側と威力偵察を受ける側で相対して実戦訓練も行う。また、討伐実習も二つの分隊を競わせる形で実行するという。故に、分隊である騎士団とリリアルのメンバー十二人の関係を早急に深めたいという意図があるのだ。


「こっちはフルールで、あっちはブルーム分隊ね」

「何がどう違うんだ?」

「フルールは王国語で『花』、ブルームはギュイエ語だ」

「正確には連合王国語ね。ギュイエでは両方使うから、そのせいだと思うわ」

「まあ、面白いわよね、あからさまで」


 チーム・ブルームはカトリナが中心になる「親の爵位が序列に反映する」

組織になりそうである。つまり、貴族の集団だ。


「さて、皆さんの自己紹介を改めてお願いするわ」

「聞きたいことがあれば、どんどん質問しなさいよね! あ、プライバシーに関わることはこの場では遠慮してもらうわよ」

「一応、貴族の娘の前ですべきでない話は御遠慮して下さい」


 ニコニコと営業スマイルで躱す二人だが、女性のいない職場を十年経験している騎士団員たちにとっては、夢のような至福の時間のようである。





 それぞれ確認すると、やはり大半が年少の頃から騎士団に入り、そのままキャリアを積んでいる者がほとんどであった。とは言え、一人、冒険者を経験し、その後、騎士団に移った者がいたのは少々有難くもあった。


 ヴァンという名の明るい茶色の髪に薄い碧がかった灰色の目の青年は、十六歳まで冒険者をしていたのだが、騎士の方が安定して生活が成り立つと考えて騎士団に入団したのだという。


「俺もあいつも同じ年の幼馴染なんだけどな。冒険者じゃ所帯が持てないから、騎士団で働いて、あいつは簡単な依頼を受けていたんだが今では商会で使用人をしている。ニース商会って最近王都にできたんだが、知ってるか?」

「……ええ。かなり詳しくね」

「へぇー 縁があるね。うちの親戚の商会だね」

「そ、そうだな。同じニースだもんな」


 因みに奥さんは「アメリア」という名前だという。二人とも二十二歳で、既婚者なので、騎士団の外に夫婦で家を借りているという。


「なんかいいよな、幼馴染で同じ冒険者をやって、一緒に暮らして。正騎士になったらどうするの?」

「庭のある貸家に引っ越したいな。子供も作るし……まあ、家族を幸せにして、その為に王国の騎士として頑張るつもりだ」

「……羨ましいな……」

「ばっか、正騎士になったらモテモテだぞ!!」

「そうでもない。お前はたぶん」

「顔って大事なんだぞ」


 平民の中でも正騎士の夫を持てるのはかなりのステイタスではある。王都に住む貴族の中でも下位の貴族で商人と縁付く事が出来なかった場合、娘を平民出身の騎士の嫁に出すことがある。実家が商人出身の貴族の娘で凡庸であれば、それも一つの選択肢ではある。お金の次は名誉や力を欲するのが

人の性だ。但しイケメンに限るのは言うまでもない。


「冒険者の経験がある奴が二人いるってのは大きいな」

「あら、私もそうよ。等級は『薄赤』」

「お、一流半だな」

「まあね。でも、私の場合、活動期間は王都に来てからだから、二年足らずなのよね。その前は、ニース辺境伯騎士団で見習してたわ」


 伯姪は騎士としての素養は彼女より高い。経験もあるし、骨格もしっかりしている。


「実習はこちらが有利かな」

「「「「おお!!!」」」」

 

 同期の騎士たちが盛り上がるのを横目に見つつ、彼女はそれほど簡単では無いのだろうと考えている。カタリナの側近カミラはレンジャーかアサシンの訓練を受けた護衛の能力を持つ存在だと見ているからである。


「さり気に、こちらの話を聞いているわね彼女」

「器用ね。お嬢様の相手をしつつ、こちらの気配を伺うなんて」


 意図的に伺っているのか、それとも隠せていないのかは分からないが、カミラ嬢はこちらを観察しているのである。


「情報収集担当……というところね」

「こちらはこちらで、何らかの捜査をしないといけないかもしれないわね」

「実習で当たりを付けていく方が良いわ。それも、訓練よ」

「なるほど!!」


 騎士団のルーティンワーク以外の部分をこの半年でどう伸ばすか……という辺りが入校の一つ目標となるのだろう。


 とは言え、近衛騎士団は一部が騎士団に残り、近衛連隊の指揮官となり、それ以外の者は実家の関係の仕事に就いたり、婿入りし官吏やその他の仕事に就くことになる。お飾りの商家の主……などであろうか。貴族の血を取り込みたい富裕な商人や都市貴族には需要があるのだ。


 実際、彼女の姉婿のように、自ら商会頭として飛び回る貴族の子息より、実家の縁故を利用して社交することが多いのだ。経営は使用人頭が取り仕切り、実子である妻がそれを監査するといった体制だろうか。


 とは言え、騎士としてある程度のポストを手に入れれば、様々な利権も存在するので……物資納入のキックバックや部下の装備の手配のリベートなど……軍の中で縁故を頼って隊長や連隊長を目指すものも多い。


 近衛騎士団の歩兵は山国傭兵、弓銃兵は法国傭兵から成る為、直卒の騎兵要員と、専門職である砲兵と、傭兵である歩兵・弓兵を指揮する者が近衛騎士団に残っていく。その中で、ギュイエ領出身者がとても多いのである。縁故がある故と、徴兵する兵が王都近郊の者が多く、その指揮を騎士団がとる関係上、近衛は王国西部出身者でまとまってしまっているようなのだ。


 近衛を外様に掌握されているということは、クーデターなどに対応できないため、王太子殿下は「王立騎士団」を整え、常備軍を近衛連隊以外にも拡大する予定なのだと考えられる。


 因みに、近衛騎士団のギュイエ公領出身の貴族子弟以外は冷や飯食いなので、王都在住の下級貴族の子弟は軍に残るなら魔導騎士、近衛に入るなら下級士官を経験した後に、結婚・子供の誕生後妻の実家の仕事を手伝う……といった転職が多い。


 

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