第200話-2 彼女は伯姪と騎士学校に入校する
入校式らしいものは特になく、講義室に集合し全員が揃った時点で教官を担当する騎士の挨拶が始まる。
「これから半年間、共に学ぶ仲間だ。所属の事を忘れることはできないかもしれないが、共に助け合ってもらいたい。以上だ」
と、『もめんなよ』と簡単に釘を刺される。受講内容は、午前に九十分の講義を二つ、午後に同じく九十分の講義が二つとなり、講義内容が進めば、午前が座学、午後は実習となるという。
「後半は遠征や実地研修もどんどん入るから、体調管理をしっかりすること。入校したばかりの頃にはしゃいで羽目を外すと、後で取り返すことが大変になるかもしれないから注意しろ」
と、騎士団から派遣された従騎士(という名の騎士の奴隷扱い)は、今までの四人部屋から解放され、同僚と二人部屋である騎士学校で浮かれて失敗することに釘が刺される。
「貴族とは言え、戦場では自分の事は自分でしなければならない。実家にいるつもりで誰かが黙っていても自分の面倒を見てもらえることはないから、その辺も心しておくように」
「……ですわ……」
どうやら、カタリナ嬢は従卒代わりに同僚の女性騎士を同行させているようで、自分には関係ないとでも言いたそうなものである。
「確かに、別荘暮らしの公爵令嬢には関係ないわよね」
「ええ。戦場に行くことはまずないのだから、その辺は考慮しているのでしょうね」
彼女と伯姪は……可能性は否定できない。副元帥から『王都防衛総監』など
という殿軍担当を拝命する可能性すらある。
さて、一応の自己紹介と挨拶が始まる。最初に近衛騎士から始まり、魔導騎士、騎士団となる流れのようである。そして、近衛と魔導騎士に関しては……爵位順の挨拶のようだ。本人ではなく、所属する家のだ。
「ギュイエ公爵のカトリナですわ。ご存知かと思われますが、王家の親族でございますの……」
と、貴族にありがちな家名自慢大会が始まる。これを十二人分聞くことになるとは少々疲れるものがある。確かに、国王陛下の大叔父が曽祖父にあたる彼女は王家の親族と言えなくもない。が、その理屈では連合王国や帝国にも沢山の親族がいるのが王家なのである。
「隣の女騎士が付き人ね」
「……デビュタントの時にもお見かけしたわね……」
「へぇ、側近って事ね」
茶色の目に赤みがかった茶の髪の女性はヴィヴァン子爵令嬢カミラと名乗る。年齢は彼女と同じであり、カトリナより一つ下であろうか。
「近衛とは言え、あの年齢で騎士見習を終えるというのは、優秀なのかしらね」
「さあ? でも、魔力の質は高い気がするわ」
「……公爵令嬢より?」
「おそらく。かなりの手練れね。似た感じの人を知っているわ」
彼女が思い出したのは『茶目栗毛』である。魔力の絶対量は少なくとも、それを補うだけの知識や技術を身に着けている。年齢的にはかなり上であるし、訓練の期間も長いとすれば……従者の方が危険な存在だ。
「何事もなければ距離感を保ってお付き合いしたいわね」
「それはポジティブすぎるんじゃない?」
侯爵・伯爵・子爵あたりの子弟までが凡そ近衛騎士として所属しているようで、男爵・騎士爵はいないようである。
魔導騎士の中に、彼女は知り合いがいる事に気が付いた。子爵家の隣家の男爵令息である幼馴染。一年半ほどあっていないだろうか。ニース商会に姉を訪ねて行った時以来である。男爵子息ではあるが、魔導騎士は爵位の上下より魔導鎧を十全に扱えるかどうかの実力主義であるので、この場に参加できているという事は、魔導騎士団における幼馴染の評価は高いと言えるだろう。
「あの人、あなたの事をチラチラ見ているけれど、知り合い?」
「子爵家の隣家の跡取り息子さんで幼馴染。因みに、初恋の相手は姉さんよ」
「ああ、商会に訪ねてきたって人ね」
「あら、ご存知なのね」
姉なのか、商会頭の令息なのかは知らないが、伯姪にもその話を伝えているというのは……ネタにされたのか可哀そうにと思わないでもない。
「なかなかイケメンじゃない」
「ええ、前回あった時よりも体が一回り大きくなったようね。鎧に着られないようになったようで何よりね」
魔導騎士は人数も限られているが、甲冑を装備したまま半日は魔力を纏い動き続ける事を求められる。騎士のように様々な任務をこなす必要がない分、魔導鎧の操作に専念することで、体が大きく変わったのであろうと彼女は推測する。
「そう考えると、魔装鎧ってお得よね」
「……騎士が鎧を装備しているのは威圧とか示威行動の効果を考えているのだから、一概には言えないわね」
「それはそうか。その為にフルプレートも用意したんだもんね」
本来、騎士は貸与されたお仕着せの鎧を着用する……とはいっても既製品を調整して個人の体型に合わせる……のだが、女性である二人にはサイズ的に難しいので改めて作ったものを許可を得て持ち込んでいる。
貴族の子弟にはそれぞれ伝来の物や作らせたものがあるので、華美な意匠や見てくれだけの防具として機能しないものでない限り持ち込みは許可されている。
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騎士団所属の騎士たちは、彼女との顔合わせ同様、名前と年齢、出身地と所属年数を告げる程度であり、近衛騎士たちは聞く気がないようで雑談をしているのか、講義室内が騒がしくなっている。
最後に、伯姪と彼女が挨拶をする。
「ニース辺境伯家の親族にして、ニース男爵令嬢メイよ。連合王国の私掠船の攻撃から王女殿下をお守りした功績から騎士爵位を拝領しているわ。所属はリリアル学院常任講師。『リリアルの姫騎士』と呼ばれていることもあるわね。メイでいいわ。みんなよろしくね!!」
明るく快活な貴族令嬢らしからぬ挨拶に、騎士団所属の騎士から盛大な拍手、そして、近衛所属の貴族令息達からは半ば羨望、半ば嫌味と嫉妬を感じる視線や声が聞こえる。
「私の挨拶でこれなら、あなたどうなるのかしら」
どうもならないわよ、と軽くかわし、最後となる彼女の挨拶が始まる。
「皆さま初めまして。そして、騎士団の中にはお顔を存じ上げている方もいらっしゃいますが御無沙汰しております。リリアル男爵と申します」
最初は公爵令嬢、最後は……王国副元帥だ。
「王妃様からリリアル学院の院長のお仕事を賜っている関係で、騎士学校では生徒、学院では教師の役割を果たすことになります。
とは言え、私自身、薬師としての修行の傍ら魔力の訓練を兼ねて冒険者として活動もしてまいりました。お陰様で、冒険者としてはとりあえず一流と認められる『薄青』等級まで達することが出来ました。
また、王女殿下のレンヌ公国への旅には侍女としてお傍近くに仕えさせて頂く経験もしております。騎士としては未熟ではございますが、騎士以外の様々な場面で皆様のお役に立てるかと思います。どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ」
彼女の来歴、今の立場と身分、王族と個人的な関係がある事……短い挨拶にこれでもかと盛り込んだのだが……
「あれ、
伯姪のさりげなくないツッコミに「別に言わなくていいのではないかしら」と思いつつ、「王国副元帥」は必要ないわよね……と一人納得するのである。
彼女は笑顔でお辞儀をすると、近衛騎士の令息達から溜息の様な声が聞え、カトリナ嬢からは鋭い視線を送りつけられているのだが、彼女は一切無視をし席に腰を下ろした。
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