第199話-1 彼女は騎士の戦いについて調べる
「アンドレです。年は二十四になります」
日に焼けた顔にやや灰色味がかった茶色い髪の男が自己紹介をする。本人曰く、ルーンに赴いた時に海辺の町ベルモントで偽装兵の討伐後に会っているという。騎士団に身を置いて十二年だという。
「俺は、平民の同期だと早い方なんだ、これでもね」
近衛騎士や魔導騎士になる貴族の子弟だと早いものは十六歳、遅くとも二十歳くらいには正式な騎士に着任するのだが、実務経験がものを言う騎士団は、十年は下積みをしないと正式な騎士にはなれないという事だ。
「それでも、一代貴族扱いされるから、凄く厳しいと聞いています」
「それはそうだ。なあ」
「お、おう」
因みに、彼女が「王国副元帥」という事も知られているので、初見の従騎士たちは相当緊張しているようである。
「俺は、聖都で入れ違いになったんだけど……覚えてないよね」
「ふふ、いいえ。特徴的なので覚えております」
騎士というよりは剣闘士か傭兵の様な固太りの従騎士が次に挨拶をする。
「ドニという。年は……二十八だ……」
「オッサン」
「おじちゃん」
「に、二十八はオッサンじゃねぇ!!」
「いや、年齢じゃなく見た目だろ……」
気は優しくて力持ち系の騎士なのだろう。見た目に反して言葉遣いや視線が優しい雰囲気の男である。
「多分、最年長だから……何かあれば頼って欲しい」
「ええ。お願いします」
「あー お兄様と同じ年なんだ……でも……まあ、人生いろいろね!!」
「……どういう意味だよ……」
お兄様とはニース辺境伯騎士団長で次男様だ。独身である理由を聞いたところ「辺境伯の嫡子に跡継ぎが生まれるまで待っている」という事が半分、残り半分はやっと騎士団を引き継げたのであまり焦っていないからということらしい。
家柄からすれば親子ほどの年の差のある令嬢でも、辺境伯の周りではいくらでも嫁の来手はあるというので、心配ないのだそうだ。
「まあ、独身でも全然大丈夫ですよ。私の従兄も独身ですし」
「おお、それは朗報」
「……あなたの従兄、辺境伯の次男で騎士団長じゃない。比較対象として相応しくないと思うのだけれど」
「……」
そして、浅黒い肌の濃い顔の男が挨拶する。
「俺は、人攫い事件の村であったんだが……まあ、朝一交代だったから覚えてないよな」
「……いいえ。確か、ワインをご馳走になりました」
「ああ。あの時の……でも、髭剃ったんじゃない」
「ああ、若く見られると舐められるんでな。入校前にスッキリさせた」
野性的な雰囲気で、内海系の美男子なのだろうか。
「名前はジェラルド、二十六歳。出身はガロだ」
ガロ……つまり、ギュイエ公の本領の中でも神国に近い最南端の地域だ。
「まあ、あっちの事で分からないことがあれば、聞いてくれ」
「ええ、参考にさせていただきますわ」
「面白い話、期待しているわ!」
ジェラルドも十年ほど下積みをしているという。騎士団に所属したのは成人してからなので、それ以前は地元で冒険者もしていたという。王都につくまでの間も商人の護衛などをしながら移動してきたという。
その後、初めて会う数人とも挨拶を交わし、一先ずの顔合わせは終了した。
彼女が騎士団に用事があったのは、魔装二輪馬車用の馬を用立ててもらう為である。騎士学校との往復にできれば魔装馬車を使いたいのだが、馬車を牽ける馬を現状、リリアル学院では保有していない。騎士学校の管理は騎士団扱いなので、馬を借りることが出来れば学校に預けることも容易となる。
「なるほど。申請書を出せば恐らく問題なく通ると思います。騎士団と閣下の間ですから」
わざわざ閣下(・・)呼びしなくてもいいのだろうが、承知してもらえたので気にしない事にする。
「ここから通われるのですか?」
「当初は寮で活動しようと思っておりますが、半年間ずっとは難しいと思います。当初は週末学院で仕事をし、平日は騎士学校で受講するという形で、一ケ月程度経過した後は、通学に切り替えようかと考えております」
魔装馬車なら恐らく片道三十分程度で移動可能である。騎乗ならその倍はかかるだろうし、正直疲れる。
「あそこは、女子の入浴施設が専用ではありませんからね」
「……なるほど……」
「先に女性が入浴できるみたいね」
「それはそれで微妙じゃない……」
まあ、気持ちの問題でもある。とは言え、軍隊生活なら風呂に何日も入れないのは当然であるし、そのうち臭いにも慣れる。いざとなれば、魔力の活用でどうとでもできる……ようにしたい……
幸い、気配隠蔽は匂いも隠蔽されるので、常時隠蔽しておけば臭くはない。魔力の無駄遣いではあると思うのだが。
「そういえば、今回のメンバーで最初の三人は若干魔力持ちですね。ジェラルドは冒険者の時に使いこなしていたのでそれなりに、他の二人は身体強化だけですけれど、騎士としての能力も高いので将来的には上に行くと思います。懇意にしてもらえると本人たちもやる気になると思いますので、よろしくお願いいたします」
「それは頼もしい騎士と知り合う事が出来ましたわ」
「こちらこそ、頼りにさせてもらおうかしらね」
「若い女性に頼られるのは騎士の本懐なので、あいつら死んでもいいと思います。俺の時はむさい男しかいなかったってぇのに……」
いや、騎士学校に出会いを求めるのは間違っています中隊長殿。
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