第198話-1 彼女は自分が騎士ではない事に気が付く

『伯爵』と騎士学校での再会を約束して……彼女はリリアルに戻ってきた。


 彼女と伯姪が学生をしている間も、リリアルは稼働しているわけであるが、二期生の入学を前に、それぞれの役割を独自に実行してもらうことにしている。彼女たちの手助け無しに、討伐依頼や素材採取、ポーション作成などを計画的に実行し、きちんと報告書まで作成する形でフォーマット化する予定なのだ。


「確かに、リリアルの一期生に教えたことを雛型にして、この後の教育を行うとすれば、いい機会になりそうね」

「経験に問題はないのだから、今までの受け身ではなく自律的に活動できるようにしたいのよね」


 とは言え、やるべきことは決まっているので、魔術師見習のルーティンと薬師・錬金術師のルーティンを確立して、計画的に運営するだけなのだ。任せて、自分たちで修正や工夫を加えて定常の仕事にしたいのだ。





 それと、聖都で経験した『アンデッド』対策として、追加の装備を作成しようと考えていたことを、この期間に進める予定である。吸血鬼の捕縛には魔装縄や魔装布のスカーフなどを用いたが、拘束・制圧を目的とする装備を検討していたのである。


 射撃訓練場に、彼女は老土夫と癖毛とを呼び出し、新式の魔装具の作成を依頼するつもりであった。そこには、少々変わった装備が広げられていた。何やら錘に縄が結わえ付けられており、纏められている物である。彼女はそれを手に持ち、実際に構えて見せる。


「これがとても効果的だったのよ。出来ればこの形のもので同じような装備を整えたいのだけれど」

「……こりゃなんだ?」

「神国の植民地の原住民の武器……狩猟用の道具ね」


 彼女が聖都の吸血鬼討伐で使用したボール&チェーンは錘の部分は一対つまり二個であったが、目の前のそれは三個となっている。


「この紐の部分は魔装のワイヤーがいいか。チェーンであればかなり強度が出るが重くなるし携行には向かないな」

「ええ、チェーンならこの二個の物であるべきでしょうね」


 老土夫はその三個の錘のついた狩猟具の使い方について彼女に問う。


「スリングのような使い方ね。三本のうち一本を持って振り回し、回転しながら三本の縄が錘を引き合いながら飛んでいく。それが当たってもダメージであるし、巻きついた縄が獲物に絡みつき、錘が最後には獲物を打ちのめすわ」

「ほお、魔銀鍍金製にして魔力で強化。それが吸血鬼やアンデッドに叩きつけられるか」

「それに、数十メートルは飛ぶのだし、再利用もできるところも魅力ね」

「……メイス代わりに振り回すことも可能か。色々使い手は有りそうだわい」


 錘から繋がる端までの長さは約70㎝、広げると1.4mの長さとなり槍の後端を持った長さに等しいだろう。ショートスピアやハルバードで全長は2mほどであるから間合い的には近いだろうか。


「ワイヤー式の物であれば、足元に張ればトラップにもできるでしょうし。その辺りも考慮していただければと思います」

「細すぎると扱いが難しいかもしれん。それはそれで、用意すべきじゃろうな。錘も小さくしてワイヤーの両端につけるタイプが良かろう」

「ではその仕様もお願いしますね」


 フレイル・メイスのような使い方ができる携行装備が予備にあるというのは悪い事ではないだろう。


 また、咄嗟に行動を制約する装備も多数の魔物相手になら使い勝手がいい。飛びかかる前の魔狼やゴブリンのように群れる者にも効果があるだろう。


 

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