第180話-2 彼女は屍食鬼の村に吸血鬼の痕跡を探す

 粗方の小屋には目立ったものもなく、周囲に潜んでいるような洞窟や地下施設も見当たらない。魔力走査も行ったが、形跡は特にない。


「何だったのかな、この集落」

「実験……かな」

「そうね。どの程度の時間でグールの戦力化ができるか。都市の周辺において、どの程度気が付かれずに済むか……その為かしらね」


 国境沿い、デンヌの森の手前の集落にはそれほど関心がもたれることはない。ルーンの周辺の集落がアンデッド化されていたことも同じ理由だろう。


「ルーンはレヴナントで、こっちはグールだったのはなんでだろうね?」

『レヴナントは劣化すると動く死体に過ぎないから戦闘力的にはかなり落ちる。侵攻直前に部隊ごとレヴナント化して不死の軍団を作るならともかく、集積するなら、殺人衝動が消えないグールの方が戦力化しやすいって使い分けだろう』


 姉の疑問に『魔剣』が答える。


「つまり、グールをあらかじめ後方に埋伏させておいて、前線にレヴナントを投入することで少ない吸血鬼でも多数の戦力を運用できる……ということを準備しているのかしら」

『レヴナントは呪術の領域だから「連携」だろうな。後方攪乱が吸血鬼、前線指揮は死霊術師……とかなんじゃねぇか』


 帝国に連合王国……神国も含め碌なことをしないと彼女は思うのである。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 次の集落まで移動し、監視がてら交代で昼食をとることにする。グールの徘徊が無ければ、焦げ臭い集落より食事するに適した環境だからだ。


「やっぱり、グールは徘徊していないみたいだね」

『……周囲を一回りしてまいります主』


 『猫』は広範囲にグールと吸血鬼を探す事にしたようだ。魔力走査で、集落の中には凡そ二十体のグールと……恐らく吸血鬼が存在する。


「隠れている場所が礼拝堂っていうのがシャレが効いてるね!」

「神を冒涜することにかけては右に出る者がいないのが吸血鬼の行動様式ですもの。悪魔崇拝と関連性があるのかもしれないわね」

「ああ、反御神子の儀式をすることで神に敵対する悪魔の力を手に入れるって発想ね。鏡写しにするのは良いけど、吸血鬼は鏡に映らないじゃないの?」


 姉のテンションが伯姪にも伝播している気がする。


「最初に吸血鬼をどうするか決めておいた方がいいわよね」

「吸血鬼って捕まえられるの?」


 姉の疑問に「既に一体元冒険者の女吸血鬼を捕縛しているわ」と彼女が答える。


「あ、血をあげるふりとかすると激しく反応したりする?」

「グールの捕獲は良いですよね……何だかキモいし☆」


 姉の質問に赤毛娘もさらに重ねて質問。グールはどうしてもというわけではないのだが、騎士団の討伐にはサンプルがあった方が良い気もする。


「今回は見送り。騎士団に確認して……かしらね」

「でも、巡回時に見つけた騎士さんたちは普通に討伐しているから、そこまでしなくていいんじゃないですか?」


 藍目水髪……捕獲したくない気持ちはよく伝わってくる。





 食事も交代で終わらせ、食後の運動の時間がやって来る。周辺に特に伏せてあるグールなどの魔物もおらず、普通に討伐すれば問題ないと考えられる。


「では、今回は小隊単位で各家を討伐。私と姉さんの本部小隊は最初から礼拝堂の封鎖と監視を行うことにします。各小隊の討伐完了後、礼拝堂前に集合。礼拝堂内に潜む吸血鬼を捕縛します」

「OK!! みんな張り切っていくわよ!!」

『……なんでお前の姉ちゃんが仕切ってるんだよ』


 みんな何となく「おー!」と右手を突き上げている。グールの討伐、確かにテンションを少し上げないと気が滅入る作業だ。元は集落に住む普通の農民とその家族たちであったのだから。





 集落の東西に別れ一軒ずつ討伐が始まる。


『Graaaa!!』

『Wryeeeee!!』


 グールの叫び声が集落に響き渡るが、やがて破裂音がして静かになることの繰り返し。二十分ほどで、残すは礼拝堂だけとなる。


 礼拝堂の入口は一箇所。恐らく、盗賊などに襲われた場合、この場所に避難する為に作られた基礎部分が石造りの集落では一番しっかりした

建物である。


「グールが発生したときに、子供と母親が個々に逃げ込んだんだろうね」

「中にいるのは、それがグール化した者たちと……グールに変えた吸血鬼というわけね」

「さて、どうしようかな。腹が立ってきたんだけど……」


 グールを討伐し、吸血鬼は結界に閉じ込めるか……


「『衝撃』が使える者だけで突入。他のメンバーは逃げ出す吸血鬼を阻止する為に、結界を形成して待機……でどうかしら?」

「いいね、お姉ちゃんもそれ出来るから突入組だね!!」

「……では、姉さんに吸血鬼はお任せするわ。噛まれても死ななければ何とかするから、安心して噛まれなさい」

「いやいや、旦那以外にこの肌は許さないから♡」


 さり気にのろける新婚・新妻である。全然それっぽくはないが、カテゴリー的には区分される。


 突入するのは、彼女・姉・歩人・赤毛娘の四人。本当は、茶目栗毛も投入したいのだが、魔力的に厳しいので待機組だ。


「分かっているとは思うけれど、見た目は母親と子供だから……厳しいわよ」


 親子でグール化されているだろう中の様子を想定し、特に赤毛娘に話しておく。


「……気にしませんよ。一緒に天国に送ってあげるだけです。そう考えます」


 赤毛娘の中では、何かが弾けたように彼女には見えるのだった。


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