第180話-1 彼女は屍食鬼の村に吸血鬼の痕跡を探す

 藍目水髪以外は問題なく頭を破壊することに成功している。特に、今回メイスを持ち込んだ赤毛娘に、久しぶりにブージェを手にした赤目蒼髪が張り切っていた。


 赤目蒼髪のブージェは赤毛娘のメイス同様、護拳や両手持ち用のハンドル補強もされており、本来の斧の使い方を十全に発揮している。


「お姉ちゃんにも、見ぃーせて♡」

「はいどうぞ姐さん」


 姐さん呼び定着中である。シスター・アイネのはずなのだが……


「斧というか、これもミニ・グレイブって感じだね。ピックないから鎧装備の魔導系には弱いかもだけど、アンデッドなら問題なさそうだね」


 ブンブンと景気よく振り回す姉。メイスと異なり、ブージェは割と剣に近いので斧以上に刃先が汚れやすいので、止めてもらいたい。


「あー これお姉ちゃんも欲しいなー」

「フレイルの布教活動は諦めるのね」

「いいえ、それはそれ、これはこれです。でも、魔物討伐以外で持ち歩くにはちょっとごつ過ぎるかな」

「……ホースマンズ・フレイルを持ち歩くのも同じでしょう」

「あれは『肩たたき棒』って言ってるから問題ないよ。刃物じゃないしね!!」


 あんなもので肩を叩れたら、肩粉砕することは間違いない。





 二つ目は青目蒼髪の結界展開中の小屋。前回未実施の彼が最優先。彼女は結界を張り直し、交代する。


「あなたが油球を投擲するところから始めましょう」

「わ、わかりました。できっかな……」


 青目蒼髪は将来的には小隊長クラスは任せたいので、彼女が熟している役割は一通りできるようにさせたい。魔力量に難がある茶目栗毛は彼女の副官、伯姪の後任は赤目蒼髪を考えている。彼女もいつまでもリリアルで活動してくれるかどうかは貴族の娘故不明だからだ。


 油球に小火球を付け投入……派手に燃える……


「あっ」

「霧状にできなかった……」

「……ださ……」


 意外と女は冷たい。燃えてもまあ、廃村であるから問題ない。がしかし……中から火達磨のグールが出てきてちょっと気が動転する。


「責任取って、A分隊で処分するわよ」

「す、すんません!!!」


 伯姪が青目藍髪のバディ。背中に罵声を浴びながら燃え上がるグールに斧を躊躇なく叩きつけ、頭をかち割るのはかなり上手だ。


「やっぱ、上背がある方が斧は有利だね」


 姉も女性としては背が低い方ではないが、青目藍髪よりは小柄だ。


「さて、これで終了。後は燃え尽きるの待ち?」

「姉さん、出番よ」


 姉は「いいとこ見せちゃお!」と言いつつ、みなに離れるように合図をする。


「何でですか?」

「燃えている物に水を掛けると、火傷するほどの水蒸気が発生するからよ」


 一旦小屋から距離を取る全員。姉は魔力を高めると空中に巨大な水の球を形成する。


「川とか森が近いから、すぐ集まるね!」


 姉は徐々にその水の塊を小屋の屋根の部分から内部に侵入させていく。水を大量に形成するのも大量の魔力が必要だが、その形成した水を動かして屋内に侵入させることはかなりの精度を要する作業だ。


『魔術の腕じゃ、姉にはまだ敵わねぇな』

「練習している期間が五倍近いのだから当然でしょう」


 子供の頃から魔術の英才教育を受けている姉は、魔力量とその操作に関しては宮廷魔導士長並と言われている。次期子爵でなければ出仕するように告げられていただろう。また、家格が伯爵なら社交界での影響力、子爵家の経歴を踏まえて王妃も可能であったと言われている。本人には全くその気がなかったようであるが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 プシュプシュと音がする焼け跡を背に、残り二軒の家屋の討伐は流れ作業のように進んでいった。C分隊とD分隊で一軒ずつ仕留めた。


 次の集落ではB分隊の赤目銀髪が試しておきたいことがあるという。


「次の結界はこの子に任せて、燻り出して全部を魔銀鏃で頭を潰せるかどうか試してみたい……」

「ええ、それは必要なことかもしれないわね。試してみましょう」

「うんうん、失敗したらお姉ちゃんがアンヌちゃんと討伐するからOK!」

『……』


 無言で嫌な顔をするアンデッド侍女。表情が豊かになっているのは姉の影響なのだろうか……少々申し訳ない気がする。が、今だ活動しているということは、魂がこの世に残ることを選んでいる証拠なので良しとしよう。


「この村に結構沢山いたんだけど、みんなこの集落の人間ってわけじゃなさそうね」


 行商人風、冒険者風と村人とは異なる装いの者たちもいた。恐らく、村に近寄り巻き込まれたのだろう。


「燃えちゃった家以外で持ち物を回収しましょうか。それと、吸血鬼の痕跡も見つけられるかもしれないわね」


 手分けをし屋内の捜索を始める。また、『猫』は集落の周囲に何かないか確認を行う事にする。


 吸血鬼の痕跡が何かは不明だが、グールには噛み痕らしいものはあるものの、グールによるものか吸血鬼によるものか判明できないので、証明にならない。


「どんなもの探せばいいのかな?」

「血液の入ったフラスコとかワインボトルではないかしら?」

『……お前の姉が手にしている奴みたいなもんだろうな』


 ほらほら、見つけたよ! とばかりに得意げな姉……少々腹が立つが、魔法袋に収納し、証拠の物資とする。


「でもさ、血液って固まるじゃない?」

「魔導具かしらね。もしくは……何らかの処理をして固まらないように工夫しているのかは、持ち帰って調査していただかないと分からないわね」


 残念ながらリリアルにはその手の科学的な知見を有する人間はいない。騎士団経由で調査依頼するべき案件だろう。


「……さっきのワインボトル……どこで作られてどこのワイン醸造所で使われたか分かるかもしれないね。そこから、遡れるかもー」

「そういうものなの?」

「うん、どこの工房かはわかると思うし、そこからワインの醸造所特定して、購入した先から……って感じでね」


 それだけで吸血鬼が捉えられるわけではないが、証拠の一つとすることは可能かもしれない。


「でも、明らかに挑発だと思うよ」

「それはそうね。討伐が成功して、追えるものなら追ってみろというところかもしれないわね」

『まあ、貴族様なんだろうな。手が出せねぇって踏んでるんだろ』


 ワインボトルを購入した人間とここに残した人間が一致しないかもしれないのだが、ワザとであればその可能性は低い。


「ボトルなら、商会で詳しい商会員に見せてリサーチしようかな」

「初めて役に立ちそうで何よりだわ姉さん」

「えー そんなことないよね、今日だって火消しとか頑張ってたよね!」


 酷いね!と言いながらも姉は自らの魔法袋にボトルを仕舞い込む。


「フレイルもいいけど、斧もいいよね!」

「メイスだって負けてないですよ姐さん」

「いいえ、ブージェこそ最強。剣の切れ味と斧の打撃力の高度な融合。

斬って良し、刺してよし、殴りつけてよし!!」


 姉、赤毛娘、赤目蒼髪が三人でブンブンと自らの得物を振り回している。危ないからやめようね。


 

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