第178話-2 彼女は討伐方法を固め聖都に戻る

今回の編成は、二期生以降の増員を含め、騎士爵の学院生を幹部に育てる為の経験値を積ませることを前提にしている。


AB小隊 A分隊 伯姪・青目蒼髪 B分隊 赤目銀髪・藍目水髪

CD小隊 C分隊 茶目栗毛・赤目蒼髪 D分隊 黒目黒髪・赤毛娘


指揮分隊 院長・歩人 の10人で構成する。兎馬車は二台で行動する。


「AB小隊にはセバス、CD小隊には私が同乗するわ」

「狭いわね。あんた歩きなさいよ」

「俺の扱いが雑過ぎませんか……お嬢様」


 今回は南都行のように商用の荷物を運ぶ必要がないので問題はない。名目は、王都から派遣された施療院のシスターと薬師、その下働きの孤児たちである。


「一ミリも間違ってないわね」

「ふふ、嘘偽りないわね。孤児で騎士爵ですが……『何か?』…何かしらその胡乱な言い回しは」

「……いえ、言ってみたかっただけでございますお嬢様……」


 少々手狭ではあるが、半日程度の道のりなので、特に問題はないだろう。





 兎馬車に乗り半日ほど、その日の午後、彼女たち一行は聖都に到着した。宿舎は当然大聖堂の傍の教会関係者の施設。聖都にやって来る司祭やその従者を泊める宿舎である。


「おお、よく来てくださいました、シスター・アリー。お連れの皆様もようこそ」

「彼女はシスター・メイ。ニース辺境伯家に連なるものですわ」


 貴族の子女である伯姪だけは司祭に紹介しておくことにする。彼女が不在の場合、伯姪が指揮官となることも併せて伝える。





「おお、懐かしい感じするな!」


 教会の施設、修道女や教会の下働きの者が提供される食事は勿論……薄いスープに固いパンである。塩? もちろん入っていません。高級品ですから。


「なんだか、懐かしい味だよね」

「そうそう、毎日同じで、ちょっぴりでさー」


 孤児院の食事よりは量が多いとは言うものの、味付けやメニューは変わらない。味の薄いスープは懐かしの味なのだろう。


「なんか味を付けようとして、ハーブ育てたりしたよね」

「教会の庭なんかじゃ、まともに育たないけどね」

「あの頃、魔力が使えたら、ハーブだってわんさか育てられたよねきっとさー」


 料理を手伝う事もあった女子たちは、そんな話をしている。とは言え、孤児院の子供が下働きに来ている設定なので……


「昔話はその辺にしましょう。お仕事で来ているのですから、無駄口は叩かないようにしましょう」

「「「はーい」」」


 と会話を切り上げさせる。教会の聖職者には流石にいないだろうが、下働きや出入りの商人・職人の中には吸血鬼の協力者がいないとも限らない。数日で終わる討伐とは言え、情報は与えないに越したことはない。


「王都から来ている時点で様子を見られているわよね」

「ええ。それでも、余計な情報を与えず、明日から害虫駆除に駆け回らねばならないわね」

「手分けして?」

「いえ。全員まとまって行動しましょう。百人単位でグールを投入されると、小隊単位では防ぎようがないもの」

「……全体で十人しかいないんだから、百体は……まあ、なんとなるか……」


 結界や遮蔽物を利用したり、油球を多用すれば削るのは難しくない。交互に小隊を下げながら追撃を防ぐことも、彼女が背後に回り込んで攻撃することも可能だ。分けてしまうとそれも不可能となる。





 教会で防疫司祭の元に派遣されている王都の騎士団の隊長と教会内で摺合せをすることになっていた。隊長は、以前猪狩りの時に村に駐屯していた分隊長の一人が昇格した人であり、猪肉をお裾分けした仲である。


「お久ぶりですリリアル……シスター・アリー」

「ええ、隊長さんもその節は御世話になりました」


 『男爵』と呼びそうになり、慌ててシスターと言い直す隊長。ここしばらくの聖都滞在で、相当疲れが溜まっているようである。聖騎士と部下との兼ね合いや、村々を回り、アンデッドとも遭遇する活動は、騎士団の人間としては慣れない活動なので仕方ないだろう。


「シスター・アリーはいつもこのような活動をされているわけですね。頭が下がります」

「いえ、依頼いただいた分だけですのでそれほどでもありませんわ」

「今回の討伐が必要と考えられる場所ですが……」


 隊長は聖都周辺にあるいくつかの不審な集落や廃塞に関して調べた個所を地図で提示した。


「この砦跡は一番怪しい場所です」


 デンヌの森に向かう街道の先に、それは存在する。


「街道そのものには面していませんが、街道を掌握できる位置にある砦です。魔導騎士が国境防衛に配備される以前に存在したいくつかある前哨基地の一つでした」

「そこが利用されていると?」

「はあ。残念ながら……」


 王都周辺の巡回任務とルーンへの派遣なので、このところ王都近郊の王家直轄領の警備体制が少々綻んでいる故なのだそうだ。


『しかたねぇだろうな。ゴブリンに人攫い、連合王国に与する貴族への対応。南都の騎士団なんてあんな為体なんだから手が回らねぇのもわかる』


 その幾分かは彼女の影響でもある。とは言え、国内の防諜含めて杜撰であって良いわけではない。


「それと、いくつかの集落では近隣との交流が途絶しているようで、そこに関しては巡回時に不穏な空気を感じましたので詳しくは……」


 巡回時の警護は騎士四人の同行。グールの群れに遭遇すれば対応することは難しいと判断したのだという。


「具体的にはどのようなことでしょうか」

「……しばらく観察していましたが、日中屋外に出てくる住人の姿が全く見られておりません。また、外で干してある農作物や農機具が荒れ果てており、家畜も……生きている物はおりませんでした」


 屋内に潜んでいるグール化した村人がいる可能性が高い……廃村にするなら、その時点で家財道具や家畜も連れていくはずなので、死体が転がっている事自体おかしいと言える。

「その場所は、砦跡にほど近い場所でしょうか」

「はい、この場所とこの場所になります」


 二箇所は街道から少し入り込んだ林間の集落で、外部との交流もあまり無いように見受けられる。先日討伐した隷属種の女吸血鬼のいた廃屋と似た立地なのだろうか。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 砦跡を攻略するには情報が不足している。生きている傭兵であれば、集落二つの討伐を行ったとしても反応は特にないはずである。


「で、どうするの?」

「集落二つを先にクリーニングがてら実際の吸血鬼討伐の予行演習。その後、砦は内偵して敵の数や配置を把握してから日を改めて討伐という事になるかしら」


 伯姪と彼女の間ではそれで行こうという事になった。


 翌朝、全員に今日はグールのいると想定される二つの村で討伐を行う事を説明する。


「野営在りですか?」

「いいえ。森の中に未発見のアンデッドの拠点がある可能性もあるので、明るい時間に聖都に戻る予定ね」


 安心して寝ることができるというホッとした半面、今日も薄いスープ確定なので育ち盛りの学院生には少々不満なようである。


「では、昼食は焼き肉にしましょうか」

「えー グールを倒した後、焼肉はちょっと重たいかもです☆」


 赤毛娘の言う事も尤もなので、聖都の中で簡単なものをテイクアウトして昼食とし、早めに戻って夕食前に屋台で買い食い……という流れで落ち着くことにした。


「お小遣いは一人小銀貨一枚までとします」

「「「はーい」」」


 小銀貨は銅貨十枚相当の硬貨で、串焼きなら5本は買えると思われる金額である。ランチ一食分ともいえる。





 各自、出発の準備を整えていると、俄かに宿泊施設の門前が騒がしくなることに気が付く。


「なにか騒ぎになっているようね」

「様子を見てきます!」


 と、赤毛娘が走り出そうとすると、案内役のシスターがこちらに慌てたようにやって来る姿が見える。その後ろには良く知った人物が見える。


「し、シスター・アリー。ニース商会会頭夫人と仰る方が訪ねてこられております」


 困惑顔を張り付けた年配のシスターの背後から……


「お、みんな揃ってるね! お姉ちゃんもお手伝いに来ました!!」

「姉さん……帰ってちょうだい……」

『面白そうだと思って嗅ぎつけて来やがったな』


 久しぶりに見る姉はニコニコ笑顔であった。

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