第178話-1 彼女は討伐方法を固め聖都に戻る
「斧の頭を半分の大きさにしてみてはどうかしら」
彼女は魔銀製のサクスを出すと、フランキスカの斧頭の上半分を切断した。
「薪を割る為なら、斧頭の重さを生かすことは有効だと思うのだけれど、目の前のグールや吸血鬼の頭を破壊するには少々重すぎると思うわ」
明らかに一撃の後は続かないのは良い傾向とは言えない。身体強化した上で魔力を通した斧を手首のスナップと肘の柔軟さを生かした回転で左右から滅多打ちにするくらいの動かし方をしてもらいたいのだ。
「それに、ブレードも小さくして、ブレードの反対側にはピックもあるといいと思うの」
「刃を返すことなく、攻撃できるでしょうし、兜を貫通して脳を破壊できるのはいいかもしれないわね」
伯姪も同意し、軽い頭で、刃と反対側に棘を設けるように改造してもらうことにする。
「なら、ウォーピックではだめなのかの」
「基本は断ち切ることが前提で、場合によってはというところでしょうね。痛みを感じる能力はないでしょうから、突き刺した程度では怯まないもの。首を断ち切る、脳を破壊することができて、ダガーより長い間合いで振り回せる武器という事ね」
片手で振り回せる程度の重さで、ナイフやダガーでは出せない一撃の重さと斬撃性能を期待したいのだ。
「なら、ハルバードのヘッドなんかはどうでしょうか?」
ハルバードは重さも4㎏程度ある、竿状武器の究極系である。確かに、刺突まで含めて斬る、突く、刺す、引っ掛けるといった多様な攻撃ができるが、反面、選択肢が多いという事は判断に迷いが生じる事にもなる。
「基本は頭をたたき割るという選択でいいと思うわ。そのバリエーションで盾で殴り倒して頭をたたき割る、最後に首を切り落とすという行程でもいい。斧に似ているけれど、ハルバードもバルディッシュも室内では使いにくいから、そのデメリットを考えると、選択肢を絞って戦い方を決めて力押しの方が安全でしょう」
「……安全?」
ピンと来ていないようだが、グールやゴブリンの恐ろしさは、複数で一人に襲い掛かり、反撃できなくなった結果、倒しきれなくなるという事にある。
「なので、屋外なら槍やフレイルで突き放しながら、斧や剣で頭や首を切り落とすなり叩き潰すことができるでしょうけれど、屋内では不可能。だから、迅速に頭を破壊することを第一義にするべきなの」
老土夫と癖毛はやれやれといった風情だが、彼女が切り落としたフランキスカを片手で振り回し、重量バランスを考えて柄の長さ含めて修正するとのことになった。
「柄の長さは50㎝位に納めてください」
「ああ、片手剣とダガーの中間を埋める武器だからな」
老土夫は彼女の意図を明確に理解していることを伝えた。
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装備を整えた彼女は、聖都に戻ることにした。既に、聖都周辺の主な集落には先行した騎士団が随伴した施療院のシスターたちによる巡回が行われており、不審な集落の人間を確認したところ、グール化していた事も報告されていた。
また、放棄された砦に山賊らしきものが集っているのだが、近隣に山賊被害が出ていないところから、偽装した帝国傭兵ではないかと推測されている。また、その傭兵が人間かアンデッドかは騎士団では確認できていない。
「そんなに多くなかったみたいね」
「寝たきりだと思っていた病人がグール化していて、襲われたシスターもいたみたいね。幸い、騎士が即助けて大事には至らなかったようだけれど」
「グール化していた……ね。じゃあ、その危険性の高い集落をリリアルが調査していくことになるのかな」
比較的集落の規模が大きく、定期的に商人が巡回しているような村を騎士団が確認しており、更に小規模な集落のいくつかと放棄された砦はリリアルの担当になっている。恐らく、そこにはグールと吸血鬼が潜んでいるのだが。
「魔力走査できる騎士団付きの魔術師に確認させたみたいね」
「近づかせたんだ……そのまま討伐してくれればいいのにね」
「ゴブリンの襲撃で行方不明の隊が出てから、騎士団は魔物に及び腰なのよね。特に、魔力持ちの騎士は少ないし、魅了されて手駒になるリスクを考えると、その方がありがたいわね」
脳を喰われればゴブリンを強化してしまうし、吸血鬼に魅了されるか吸血鬼化されればグールか隷属種の吸血鬼になるのでとても厄介なことは想像できる。
「役割分担よね」
「いやな役割分担だけどね。まあ、しょうがないか。みんな騎士爵にされちゃったし」
「ええ、俸給分の仕事はしなければ……と言ったところかしらね」
「はぁ、できるだけ安全で楽な方法で……でしょ?」
うふふと二人は笑うのである。
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