第162話-1 彼女は王太子と王都に帰還する
行きは山賊討伐を行っても僅か三日で王都から南都まで移動したのだが、王太子一行に加わったリリアルメンバーは七日間かけて王都まで戻ることになったのである。
その七日間、ずっと御馳走尽くしであったこと、ゆっくりの移動であったこともあり非常に疲れたのだ。貧乏性の彼女を筆頭に、時間の勿体ないお化けが沢山湧いてきたのであるが、王家の依頼なら引き受けざるを得ない。
結局、無駄に魔力を使った練成を行うくらいしかやることが無かったのだが、それはそれで日頃課題と考えていた行為を試してみたり、他のメンバーと相談することなど、楽しんで活動できた。
『たまに、ゆっくりとしてアイデアを考えるのも悪くねぇな』
「そうね。目標があってそこまで最短距離で目指すばかりでは、行き詰まることもあるかもしれないものね。これはこれで良しとしましょう」
気が向けば王太子から呼ばれお茶の相手をし、王太子の傍でエスコートされて領主との晩餐に同席するなど彼女は彼女で新しい知己を得ることができたので、それはそれで今後の活動の為になると思えば悪い時間の過ごし方ではなかったと思う。
「それでも、あの噂は少々気になるわね」
『あれだろ、ネルスに現れる吸血鬼の話な。でも、あの街は王国の国王陛下の
戴冠式で使われる司教座のあるところだろ。なんで吸血鬼騒動が起こるんだよな』
ネルスは帝国領である城塞都市『リル』と隣接している。そう考えると、答えは
簡単だろう。
「王国の大切な司教座のあるお膝元で吸血鬼騒動が起こる。解決できなければ、王家の権威も失墜すると言いたいのでしょうね。帝国か連合王国の安い挑発。この場合……帝国でしょうね」
連合王国のアンデッドなら死霊騎士系であろう。吸血鬼は帝国東部辺りにその話に関する地域が存在したはずだ。
「王都に戻ったら『伯爵』様に会いに行きましょうか」
『おおそうだな。あのワンコロの脚もそろそろ直っているだろうから、連れていくついでに帝国の吸血鬼の話を聞くのがいいかもな』
吸血鬼の本場は帝国の東の山岳地帯と聞いている。彼の御仁も不死を目指した際に吸血鬼になろうとしてなぜかエルダーリッチになってしまったようで、その辺り詳しく聞けると良いかもしれない。
『あのワンコロは体質だし、親からの遺伝だから聞いてもたぶん何もわからねぇしな』
ハーフのルガルーであるので、自分自身が何らかの原因で人狼化したわけではないからその通りだろう。
「先生、王都が見えてきました」
「ようやく解放されるのね……有難いことだわ」
リリアル男爵の役割を全うする一週間……毎日が晩餐会であり社交の場であった故に、かなりの負担が彼女にはかかっていた。特に、王太子の連れの中で唯一の貴族の女性であった故に、王太子の隣の席は彼女であった。王太子と対となり会話を回す必要もあり、また、様々な質問に無難に答えることも苦痛であった。何より……
『今んとこ男爵だから、全員息子の嫁にする気で情報収集しているのがきつかったな』
「よく考えれば、国王陛下案件なのだけれどね。私自身が初代当主で直臣なのだから、正直、侯爵家程度では話にならないみたいね」
王太子曰く『リリアル男爵の配偶者は王家としても熟慮の上で決める事になるだろう』と再三断りを入れてくれているのだが、毎日異なるメンツで晩餐するのだから同じことを繰り返し話さねばならないのだ。
『王都に戻ってしばらくすればデビュタントの準備もあるんだろ?』
「そうね。憂鬱だけれど、王太子殿下とは戦友になったので少々気が楽になったわね」
『そりゃ良かった。あっちにとってはどうだかわからねぇけどな』
『魔剣』の言い回しを微妙に感じながらも、ようやく王都の門を超えるのである。
南門から最短距離で王宮に到着した王太子一行は、中庭で国王陛下と廷臣一同の前でドラゴンである『タラスクス』を見分することになっていた。
「……何故私たちまで……」
「それは、後の論功行賞の布石だよ。大勢の前で言わないと、有耶無耶にする輩がいるからね」
王太子殿下の横に立たされ、彼女はそう呟かれる。
ドラゴンに驚く家臣たちに鎮まる様に宰相が伝え、国王陛下に対し王太子が帰還の挨拶をする。
「国王陛下、グランドツアー無事完了することができました。このドラゴンは数日前南都に立ち寄った際、街を襲おうとした『タラスクス』と名付けられている魔物でございます。今から四百年ほど前にタラスの街周辺で人を襲ったと記録があるそうです」
王太子の説明に、「よくぞ無事で帰った。南都に被害が無いと聞いているが何よりである」と国王が答える。
「陛下、この度の討伐成功は王太子の側近と南都騎士団のみならず、南都に偶然にも滞在していた『リリアル学院』とリリアル男爵の助力によるところ大です。その功を讃え討伐に協力した学院生には騎士の爵位を賜りたく存じます」
この話はすでに手紙で概要を伝えてある出来レースである。
「魔物の討伐が王家の騎士たちにより成し遂げられたという事実はとても重要であろう。今回、叙任がたまたま前後したが、王家の騎士の一員たるリリアル学院の者たちが討伐で大いに活躍したと……記録に残そう」
「はっ、有難きお言葉。皆の者、礼を申すがよい」
国王陛下が現れた時点で片膝をついて下を向いているリリアル生たちは
「「「「「有難き幸せにございます!!」」」」」」
と答えるのである。因みに、討伐に直接参加していない魔術師見習いは全員『従騎士』と見なされることになる。流石に使用人や薬師は含まれない。
後日、正式にリリアル男爵には『王国副元帥』の職と恩給がさらに与えられることになる。その為、恐らくデビュタント前にリリアルの騎士爵授与式と同日に国王陛下から叙爵することになるだろう(元帥杖を賜ることになる)。
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