第134話-2 彼女はコボルドについて考える
前日、村で得た情報をもとにそれぞれのチームは一台づつの兎馬車を用いて移動をすることにした。兎馬車に全員乗ることは不可能ではないが、御者以外の身体強化を使える者は交代で徒歩で移動することにした……気配隠蔽を行いながらである。
兎馬車に二人三人程度しか乗っておらず、それが少女であれば、ゴブリンやコボルドが襲ってくる可能性もあるだろと考えた為だ。実際、兎馬車で単独行動をする中で、狼やゴブリンに王都近郊でさえ襲われることもあるだろう。その時の演習も兼ねているのだ。
荒れて消えかけた古い道を廃墟となった集落に向けて歩を進める。山裾は鬱蒼とまではいかないが、木立がみっしりと生えており見通しが悪い。
『お、出てきそうだな』
馬車の背後を移動する彼女と『魔剣』は道が屈曲し片方が崖となっているいわゆる「ブラインドカーブ」の先に魔物の気配を感じていた。
案の定、カーブの先には数匹のゴブリンと狼が待ち構えており、背後にも同様のゴブリンが森の中から現れ退路を断つ。荷台には薬師娘二人と碧目栗毛、藍目水髪が乗っている。
「気配を隠蔽したまま結界を兎馬車の周りに展開。薬師の二人はフレイルで迎え撃つ。魔術師は打ち合わせ通りに」
「「「「はい」」」」
荷台の高さでフレイルの届く範囲に結界を展開、近づいてきたゴブリンは結界に阻まれ困惑しているところをフレイルで叩きのめされ、石突で顔を思い切り突き立てられる。狼は助走をつけて飛びかかる前に、気配を隠蔽して近づいた魔術師の娘たちにスクラマサクスで突き殺される。ゴブリンたちは見えない壁に困惑しつつ、倒れた仲間を見てパニックとなり、狼が悲鳴を上げて倒れると一気に恐慌状態となった。
「そのまま、結界を解除して打ち払いなさい。追いかけて止めを刺すのよ」
結界を解除した後、荷台から飛び降りた薬師娘たちは怯えるゴブリンの胸に石突を突き立て、フレイルで叩きのめし倒れたゴブリンの頭をさらに叩き潰す。逃げ始めるゴブリンを追って、魔術師の娘たちが身体強化を掛けたまま追いかけ、背中越しに切りつけ首を刎ねる。
あっという間に数に倍するゴブリンどもは皆殺しにされたのである。
討伐部位を回収し、狼は毛皮を剥ぐことにする。この辺り、薬師の娘たちは猪で手慣れたものでかなり上手だ。死体は崖下に叩き落しておく。
「落ち着いてゴブリンを討伐できたわね。石突で突き放しフレイルで頭を叩きのめす。ゴブリンも狼も怯えればそれを感じて勢いづくから、先手を取って攻撃しなさい。相手は直線的に襲ってくるから、初手は石突を用いた刺突が有効ね」
「「「「はい」」」」
「あー 俺も参加したかったぜー」
癖毛が口を挟むが、女性だけで自分の身を守れる程度の強さをえる事が今回の経験に必要なことなので、癖毛と老土夫は修道院跡でコボルドの群れと対峙してもらう役割がある。
「今回は、新しい武具のお披露目もあるからの。この程度の相手では役不足じゃな」
癖毛は老土夫の言葉に「それもそうか」と頷く。
細い道を進むと、森が途切れ集落らしきものが見えてくる。とはいえ、しばらく前から無人となっている場所であり、壁は残っているが屋根が崩れ落ちていた、家の立つ敷地の周囲は草が生い茂っていたりで人の住んでいる気配はない。
その代わり……
「煙がたっているわね」
「おそらく、コボルドじゃろ。鍛冶でもしていると思うぞ」
ゴブリンは火を使わないので煙がたつ要素はない。修道院内には鍛冶師の工房らしきものは見られなかったので、別の場所でコボルドの鍛冶がいると考えていたのだが、ここがその場所であるのだろう。
武具の鍛冶師の場合、鉄を高温にするために鞴を用いるのだが、その為の動力として水車を利用している場合が多い。しかし、一般的な農村にいる鍛冶師の場合、そのような高度な鍛冶の設備を持つことができない。では、どのように精錬するのか。
木炭もしくは石炭と鉄鉱石を混ぜて火をつけ加熱し、銑鉄を作るのだが温度が低くても製鉄できる半面、武器の素材としては脆いので高度な武器を作ることはできない。それでも、ゴブリンの石斧や石の鏃よりは随分とましな武器を作成することができる。場合によっては青銅製の剣なども作り得る。
「では、彼らも同じように仕留めてしまいましょう。馬車で薬師の二人が近づき荷台で魔術師が気配隠蔽して結界を展開しておいてちょうだい。気が付けば馬車の周りに集まってくるでしょうから、そこを叩いていきます」
老土夫と癖毛は気配隠蔽をしたまま集落の中を確認し、何か確保すべきものや隠れている魔物がいれば討伐する役割を与える。
「コボルドの鍛冶道具には少々興味があるのでな。回収できるものは回収してリリアルに持ち帰りたい」
簡易な方法で鍛冶ができるなら、村の鍛冶に活用できる可能性もある。コボルドの鍛冶の品質は高くないかもしれないが、それで十分な器具もあるからだ。
村に人間の若い女が兎馬車で現れたことは、コボルドたちにとっては天の恵み程にも思われるサプライズプレゼントのように思えた。手に手に武器になる物を持ち、兎馬車の周りに集まるコボルドの数、十数匹。恐らく、昼間はここで作業をし、暗くなれば修道院跡に戻っているのだろうと推測される。
荷台に立ち上がる二人と、こっそりと展開した結界の手前に潜む魔術師の二人。コボルドは涎を垂らし犬歯を大きく見せながら、今にも飛びつく勢いなのだが、振り上げたハンマーやピッケルが結界に阻まれ跳ね飛ばされる。
そのタイミングで荷台の上から石突でコボルドの顔面を突き、フレイルで叩きのめす薬師娘。結界越しにサクスで首を跳ね飛ばす魔術師娘たち。不可視の壁と見えない敵からの攻撃に生き残ったコボルドたちが硬直する。
「さあ、外側に結界を張りなおしたわ。あとは好きに殲滅しなさい。なお、犬歯はコボルドの討伐部位なので破壊しないことを推奨するわ」
「「「「承知しました!!」」」」
彼女の展開した外側の結界に阻まれ逃げ去ることもできず、荷車と外側の結界の間を逃げまどうコボルは、一匹また一匹と頭を叩き割られ、胸を突かれ、首を刎ねられ倒れ数を減らしていく。
遺棄された集落に彼女たちが乗りつけて十分ほどで、集落のコボルドのほとんどが討伐されたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます