第134話-1 彼女はコボルドについて考える

「コボルドね。それ以外にも気配隠蔽気味の魔物……そっちが本命ね」

「ええ。あまり時間を掛けずに小物を討伐して、そこから第二段階ね」


 敷地の中を一通り確認し、正門が見える位置の遮蔽物の陰で打ち合わせ中の調査班。伯姪たちもコボルドの存在を確認し引き揚げてきたところである。


「周辺に特に罠や監視施設はありませんでした」

「……ゴミがたくさん、。あと、排泄物も……」


 ゴブリンの巣にありがちな糞尿まみれの修道院跡地ではなかったことからも、気配を隠蔽している魔物がゴブリンが言う事を聞かざるを得ない上位の魔物である可能性は否定できない。


「一旦、村に引き上げるとしてどうする?」

「……申し訳ないのだけれど、暗くなるまで監視をしてほしいのよ」


 赤目銀髪と茶目栗毛に彼女は『監視』を依頼する。それ以降は、暗視のできるゴブリンたちに有利な時間となるので村に引き返すよう命ずる。二人は頷き、修道院が見渡せる位置まで移動していった。


「コボルドね……武器がいいのは鍛冶ができるからなのよね」

「拾った武器もある程度修復しているのでしょうね。だから、最初に討伐したゴブリンたちの装備がかなり良かったと思われるわ」

「とにかく、一旦村に引き上げましょうか」

『主、私も監視に残りましょう』


 二人のバックアップに『猫』を残し、彼女は村まで引き上げることにした。





 山裾の村で日が暮れるのはノーブルより早く、既に採取へと向かっていたリリアル生たちも戻ってきていた。大きな水晶は手に入らなかったようだが、素材としては十分だと老土夫は話している。


「おお、どうじゃった修道院は」

「少々厄介かもしれません」


 老土夫に『コボルド』と『ゴブリン』に気配隠蔽のできる魔物が存在すると説明する。老土夫は、「コボルドはゴブリンと比べると連携もできるし、武具も扱いが上手いので苦戦するかもしれないの」と言う。


「たまに鉱山でコボルドとドワーフが鉢合わせして戦闘になることがある。その場合、ドワーフもそれなりに装備を整えていない時は苦戦するのう」

「これが回収した武器です」

「ほお、それなりに使えるように仕上がっているが、切れ味は悪そうだな。とはいえ、これを振るわれるとリーチの短い武器では不利かもしれんな」


 十六人のメンバーのうち、フレイルを用いる魔力小女子と薬師娘に関してはフレイルを振り下ろす構えではなく、石突で刺突して動きを止め下からかち上げる戦い方で防御重視を指示することになるだろうか。


「結界を腰くらいの高さに展開してもらって、その上で刺突してから叩きつけるのもありじゃない?」

「兎馬車を使って足止めすることもできるの。ほれ、こんな感じじゃ」


 荷台の部分に敷かれている販売用の台を荷台の側面に固定することができることを老土夫が説明する。


「これで胸から下は守られる。門の前に荷馬車を横付けして封鎖。出てきたゴブリンやコボルドを荷台の上からフレイルでぶん殴るのはどうじゃ」

「試しに組んでみて、練習してみましょうか」


 彼女が結界を展開し『仮想コボルド』となって、実際にフレイルが振り下ろせるかを確認していくことになる。コボルドはゴブリンより背が高いので、彼女の頭の位置より若干低い程度となる。恐らくは問題ないだろう。


「数はどのくらいじゃ」

「少なくとも五十程度です。ゴブリンは夜行性なので日中は修道院跡に潜伏してると思いますが、コボルドが全ていたかどうかが分からないので、なんとも言えません」

「なら、明け方攻め入るかの。朝日を背に攻め入るとしようではないか」


 いや、修道院跡から村は西の方角にある為、朝日に向かうのは彼女たちの方である。とはいえ、山の斜面にある為に明るくなってから陽が覗くまではしばらく時間が掛かる。


「残してきた子たちから追加の情報を確認して……かな」

「何なら、村に頼んで入口を塞ぐ柵が作れるように資材を手配するのもいいかもしれんな。儂と小僧で組み立てるのは訳がない。そうすれば、戻るに戻れない魔物たちも一網打尽じゃな」


 逃げ出せないように、逃げ込めないようにという事だろうか。とは言え、村の意見も聞かねばなるまい。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ゴブリンだけでなくコボルド、更に未確認の魔物が潜んでいる可能性があると伝えると、村長たちは顔色を悪くした。


「そ、それで討伐は可能でしょうか」

「それは問題ありません。早ければ明日中に修道院内は掃討できるでしょう。問題は、修道院に集めきれない場合、周辺残った魔物をどうするかという点です。全部は恐らく討伐できないと思われます」

「……確かに、廃墟となった集落もありますし、そこにもゴブリンらしきものが住み着いているということですので……」


 枯黒病の流行と鉱山の閉山で周辺の人口は一気に減ったため、この村に周囲の集落から人が移り住んだりした結果、山裾には数ヵ所廃墟となっている場所があるという。日頃から村の人間は近寄らぬようにしているのだが、行商人や旅人から指摘されることがあるという。


「では、修道院跡の調査と討伐の後、日を改めて周辺の集落とその途上の魔物を討伐することにしましょう」


 彼女の言葉に村長と村人はよろしくお願いしますと頭を下げるのであった。





 日が落ちしばらくすると、見張りに残してきた二人が村へと戻ってきた。どうやら、


「あの犬みたいなやつら、ゴブリンに使役されているみたい……」


 赤目銀髪は戻るなり、そう報告する。茶目栗毛も同様に答えるとともに、ゴブリン同様あまりよいものではないと感じたという。


「ゴブリンから虐げられているのでしょうが、その中でも更に弱いものを虐げる様子が見て取れました。それに、些細なことでいがみ合う様子も見られます」

「つまり、各個撃破し易そうな相手というわけね」

「おそらく」


 老土夫曰く、帝国の鍛冶師・鉱夫にはコボルドは鉱山で悪さをするので特に嫌われているのだという。コボルドの掘る穴は自分たちの背に合わせて小さく、罠なども仕掛けるので鉱山の中に勝手に住み着かれると山が荒れるというのだ。


「後を追いかけているわけではないのですが、恐らく、廃坑で何らかの鉱物を採取しているのかもしれません」

「それも含めて、もう少し広い範囲で調査すべき……」


 二人はそう告げる。ならば……


「分かりました。では、明日二人は明るくなる前に修道院跡に移動し、コボルドの跡を追跡してください。それと、周辺の集落跡を手分けして調査し、魔物がいれば討伐をしましょう。今回はチームを二つに分けて編成します」

「なら、チーム・アリーとチーム・メイね!」


 妥当だろう。彼女と老土夫と癖毛、薬師娘二人に藍目栗毛・碧目水髪のチームが『チーム・アリー』。伯姪に赤目蒼髪・青目蒼髪・黒目黒髪に赤毛娘、灰目娘二人組で『チーム・メイ』となる。


「基本は二人一組でお互いを守るようにしてもらいたいの。三組でそれぞれカバーし合うように指示を出していくので、初めての討伐の経験になる人たちは特に安全第一に。慎重に行動しましょう。装備はしっかり身に着けるように」

「「「「はい!」」」」


 彼女の組の薬師娘、伯姪の灰目娘たちは討伐の経験がほぼないので、彼女たちの経験稼ぎが第一の目標となるだろう。慣れている者たちは、今後、増えていく後輩たちを上手にバックアップできるかどうかの試金石にもなる。


 とはいえ、彼女のチームは老土夫はともかく、魔力極小の薬師と結界展開中心の碧目水髪、魔力の不安定な癖毛、さらに気の弱い繊細な藍目栗毛の組み合わせなので正直しんどい気がするのだ。


『まあ、ゴブリンかコボルドの集落なら、結界で囲んで叩きのめすだけだから問題ないだろう。上位種はお前かドワーフのジジイが片付けるしかない』

「それはそうね。目の前の魔物に武器が振るえるかどうかからですもの」


 正直、余り期待できないのだが放置して森で採取中に狼やゴブリンに嬲り殺されることは避けたい。ある意味、慣れだけでなんとかなるものだ。冷静に相手を牽制できれば、生き残るチャンスは大いに広がる。それで十分だ。


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