第133話-2 彼女は麓の村から調査に出る
街道をそのまま歩かず、少し逸れた木立の中を移動して正解であった。
「ゴブリンの警邏隊とでも言えばいいのかしらね」
ゴブリン三体に、狼一頭が街道を山の上から下ってくる。キョロキョロとしながらも、だらだら歩いているのは何時もの事なのだろう。
彼女は赤目銀髪に先に狼を倒すことを指示する。彼女の弓を合図に、一斉にゴブリンに襲い掛かる準備をする。いつもは槍を持つ二人も、今日は慣れないスクラマサクスを構える。
30mほど手前から弓を射て二本の矢が狼に突き刺さる。その間に、木立の間を走り抜けた五人は左側面と背後からゴブリンに斬りかかり、彼女以外の四人がゴブリンと狼に止めを刺していく。
彼女は後方を警戒し、他のゴブリンがいないかどうかを確認するが、気配を感じることはなかった。
「装備を確認しましょうか」
「……いい装備じゃない。バゼラードよ、少し錆が出ているけどそれほど古くも悪いものでもないわ」
三体が三体とも同じ装備であり、旅人を襲い奪ったものであったり、ゴミを拾ったもののようには見えない。輸送途中の武具を一式奪ったりであるとか、もしくは……
「ゴブリンに武器を供給している者たちがいる……とかかしらね」
「山国……いえ、帝国の工作部隊がゴブリンに武器を与えているとか?」
「ゴブリンの餌付けってできるんですかね。聞いたことありませんけど」
「いや、人狼が帝国から派遣された協力者だったらどうする? 人狼とは言え、人と会話ができたり利害関係が一致すれば、王国にやってきてゴブリンを使役する
ことぐらい可能だろう」
彼女は「騎士の脳を喰らった進化したゴブリン」を思い出す。可能性的にはそれも考慮しなければならないだろう。
ゴブリンと狼から討伐部位を切り取り、死骸を路外に捨てる。既に、修道院跡の遠景が見えており、更に木立の中を進む。幸い、罠の類は設置されておらず、接近する者を知らしめる鳴子のような物も見当たらない。
『まあ、余り警戒していないようだな』
『魔剣』も周囲を偵察する『猫』も同様の意見のようだ。長く放置されていた場所であり、近づく人もほぼいない状況で、警戒すること自体が意味がないと考えているのだろう。
「何かちぐはぐね……」
そう思いつつ、彼女は修道院跡を目指した。
修道院の入口には座り込んで粗末な槍を肩にかけて居眠りをしている二匹のゴブリンがいた。気配を消したまま接近し、息の根を止める。死体は同じように処理する。
「気配は……かなりあるわね」
「このまま正面から堂々と行くつもり?」
「……三手に別れましょう」
赤目蒼髪と赤目銀髪は修道院の外周を確認し、ゴブリンがいればこれを討伐する。
彼女と青目蒼髪、伯姪と茶目栗毛は二手に分かれ廃墟内を時計回りと反時計回りに
確認をしていく。
「魔力の大きさからすると、ゴブリンは並の者ばかり。数は……五十を超えるかしら」
「……人狼は?」
「わからないわ。もしかすると、気配を隠蔽できるのかもしれないわね」
伯姪は「お出かけ中かもね」と軽口をたたき、茶目栗毛が「だと良いですけど、帰ってきて出会いがしらは勘弁してほしいですね」と返す。
ゴブリンが群れているのかと想像したが、数はそれほどでもなく……狼のような頭を有する人型の魔物が見て取れる。ゴブリンと人狼だろうか。単独でいる犬頭に近づき、気配を消したまま接近し1体の首を刎ねる。死体は不本意だが魔法袋に収納することにした。
少し先にさらに何匹かの小柄な狼のような頭を持つ魔物がいる。
「人狼……にしては小さいわね」
『こりゃ、コボルドだ。帝国にいるゴブリンくらいの大きさで犬頭、それで、廃鉱山に住み着いたりしてドワーフの真似事をする奴だな』
帝国には鉱石の出なくなったため放棄された鉱山跡に住み着いている場合が多く、それなりの規模の群れを有している場合が多いという。
『ゴブリンの装備がましなのは、こいつらが作った武器の成果かもな』
「……そういう意味ね」
ドワーフほどではないが、簡単な武器なら鍛冶ができると言ことなのだろう。ツルハシや金槌が得意なようだが、ナイフや剣も作れないではない。鋳造なのだろうか。
ゴブリン程度という事であれば、余り警戒する必要もないだろうが、コボルドを本物の人狼が従えている可能性はないのだろうか。
『そもそも、人狼ってのは人里に紛れているから恐ろしいんであって、こんな廃墟に隠れている時点で脅威は半減だろうな』
知らない間に住民が人狼に殺されていく、その点にもある。人に混ざり人を襲うというのは、敵に通じている存在に似ているかもしれない。勿論、吸血鬼同様、人を超える腕力を持ち不意を突かれれば危険ではあるが、単独行動をすることが多いので、それほど問題ではない。
『吸血鬼も人狼も紛れる為には群れは作らねえ。だから、そこまで恐ろしくは無いんだろうな』
一対一で出会えば脅威だが、討伐なら常に複数で連携するのが当然。それほどの脅威ではないだろう。
茶目栗毛に周囲を警戒してもらい、彼女は一室ごとに魔力の気配を確認する。特別大きなものは存在しないが、一室だけ余りにも小さな魔力の気配を感じた。
『隠蔽……かけてる奴かもしれねぇな』
「人狼かしらね」
『そうだとしても、複数存在するわけじゃねぇから問題ない。外側にゴブリン、内側にコボルド。武器を持ってはいるもののそれほど危険ではないな。逃がさないように出入口を封鎖して、外周も警戒した上で、一室一室虱つぶしだな。幸い、石造りの建物だから、火災で炎上する心配もないから、問題ないだろう』
一室ごとに油球を撃ち込み、焼き殺すならそれぞれ討伐可能かもしれない。数が多いコボルドたちがそれぞれの部屋に分かれて存在する状況を有利に使えば問題ないだろうと彼女は結論付けた。
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