第116話-2 彼女は姉と全力でアンデッドと対峙する
吊り橋を降ろすまでの間に、十数体の燃えたゴブリンの死体が中庭に転がる事になった。
「ありゃりゃ、もうおしまい?」
場違いな声を上げる姉に内心やれやれと思いつつ、次の指示を出す。
「出入口の確保を『薄赤』の皆さんにお願いします。中庭に現れたアンデッドの討伐もお願いします」
「任せてくれ。アリーたちはどうするんだ」
「中庭にある教会堂、そして奥のダンジョンまで入って掃討です」
剣士が「マジか」と言っているが、マジなのだ。これで終わるような実験規模とはとても思えない。
「それと姉さん」
「何かな?」
「ゴブリンのアンデッドは、首を斬り落として頭を叩き潰してちょうだい」
「OK,じゃあさ」
教会堂から出てくる数匹のゴブリンに向かい姉が走り出す。動きの鈍いアンデッドの間をすり抜けつつ左手に持ったミスリルのダガーで首を斬り落とし、右手のフレイルで落ちた頭を叩き潰す。
「ねぇ、こんな感じでいいかなー☆」
「ええ。できれば背後を取られないように二人一組で行動してちょうだい。その為に侍女を伴っているのでしょう」
「うん、次はそうするねー。冒険者は単独行動しちゃダメなんだねー」
冒険者だけじゃなく、貴族の夫人もダメだろと彼女は内心思うのである。
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木造の施設であれば、建物ごと焼き尽くすのも吝かではないのであるが、全部が石造りのガイア城に関しては、ここに虱潰しにアンデッドを討伐するしかない。
とはいえ、低位のアンデッドであるゴブリンのレヴナントであれば、それほどの脅威でもなくゴブリンの巣を焼き払う感覚で問題がないだろう。今のところだ。
彼女と茶目栗毛、伯姪と青目蒼髪、そして赤毛娘と黒目黒髪が揃って教会堂の中に……入る。手には大型のトーチ。棍棒代わりにもなる松明だ。
『おお、いるな結構、二十、いや三十はいるか』
「バディーごとに半円形に展開、正面のゴブリンに対応を」
「「「はい!!」」」
開かれたドアに向かい、ゴブリンのアンデッドがぞろぞろと近づいてくる。彼女と茶目栗毛は中央でサクスを振るい首を刎ね、胴体を奥に向けて蹴り飛ばす。赤毛娘が首を刎ね飛ばし、黒目黒髪がトーチで思い切り胴体を突き飛ばす。
伯姪は首を刎ね飛ばし、返す刀で……いやバックラーで殴り倒し蹴り飛ばす。青目蒼髪もいなしながら首を切り飛ばしている。青目蒼髪は随分と落ち着いて対応できるようになってきたように思える。
さほど広くない教会堂に居るアンデッドを次々と倒すと、床は死体だらけとなった。
「後でまとめて焼却しましょう」
大して血も流れないので、中庭に引きずり出してまとめて油をかけて燃やせばよいだろう。中庭に戻ると、野伏と姉が話しかけてきた。
「簡単だったみたいだね」
「後片づけが大変よ。中庭に他の魔物出ましたでしょうか」
「いいや、いたって平穏だ。主郭の中に何がいるのか気になってしょうがない。が、俺たちの能力では中を確認するのも難しい」
彼女たちが中庭で話し込んでいると、『猫』が戻ってきて彼女に中の様子を簡単に告げる。
『主、中には別のレヴナントがいます。強いて言えば……不死の魔法剣士です』
「……なんですって」
魔法剣士。アンデッド化した魔法剣士ということか、それとも……
『魔術師の能力を封入した魔石を魔核として、戦士のアンデッドに納めた人工的な魔剣士だろう。いなくなった中堅冒険者のなれの果てじゃねえのか』
『魔剣』のつぶやきに彼女の表情が強張る。手ごわい相手、そして、それを作り出したものがこの中で観察している。捉えることができるだろうか。
「どうした」
「何か気にかかることでもあるのかな?」
彼女は姉と野伏に「中を確認してくるのでこのまま待機で」と告げる。伯姪に偵察に向かう事を告げ、彼女と伯姪、そして赤目銀髪と赤目蒼髪とで内側のダンジョンを持つ胸壁に移動する。
「……結界の橋便利……」
「魔力量増やせばこんな事もできるんですね」
「二人はまだ魔力量伸ばせるから良いじゃない。私は絶望的だもの」
「剣技と格闘戦では優秀なのだから問題ないわ。適材適所よ」
「でも……この相手にはどうかしらね」
内郭の中庭には、チェインに胸鎧を装備し、剣とカイトシールドを装備した戦士と思われる者が四体ほどいる。
「あれもアンデッド」
「おそらく。魔法戦士のアンデッドのようね」
「……相当強い?」
「さあ? やってみなければわからないというのが本音ね。先ずは、火矢で応戦してみましょう。その後、二人で降りて囲んでみるわ」
赤目銀髪が頷くと、火矢を作り、一体の戦士に向け矢を放つ。矢は刺さるものの、燃え上がる前に消えてしまう。相手にはほとんどダメージが無いように思われる。
「……だめ。効果がない」
「どうする?」
魔力で断ち切れるかどうかの勝負になるだろうし、攻撃は結界で防ぐ方が効果がある。今のメンバーならば……
「私は単独で、あなたは弓で牽制、二人はペアで結界を展開してメイを援護してもらえるかしら。攻撃はメイに任せるわ。危険と判断すれば結界を展開したまましのいでちょうだい」
「いいわ、それで行きましょう」
「「はい」」
一旦、外郭の中庭に声を掛け、敵を排除することを伝える。橋を降ろしている暇はなさそうだ。その間防げるのであれば、先に倒してしまった方が良い。
声を掛け、数mの胸壁を三人が飛び降りる。二人組の戦士がそれぞれに向かい前進してくる。
『意思があるっぽいな』
「あなたと同じなのでは?」
『魔剣』同様、魔核の部分に人格を封印すれば、死体となった戦士であってもレヴナント化し時間が経過しても意思が失われない可能性があるだろう。
『あんなものと一緒にすんな』
結界を展開し、不意の前進を停止させると、魔力を込めたスクラマサクスで胴を薙ぎ払う。一体が鎧ごと寸断され地面に崩れ落ちるが……
『魔法の発動があるぞ!!』
結界の手前に大きな炎の壁が現れる……のだが、結界に阻まれ炎はこちらにダメージを与えず、残った一体に燃え移っている。
『Ababababawooo!!!』
言葉にならない咆哮を上げ、鎧兜を装備した目の白濁した戦士が結界の向こうで炎に包まれ暴れ始める。
『自爆だな』
「自爆ね。答えは油球に炎で解決ね」
『魔力があっても火には弱いみたいだな。魔術も大した事は無い。騎士団や衛兵・普通の兵士ならパニックになるかもしれないがな』
すると、頭上から侍女を引き連れた姉が降ってきた……なんで!!
「ほら、なんかすごい声上がってたから心配になって……来ちゃった♡」
「命令違反ではないかしら」
「ううん、命令される前に来たから問題ないよね☆」
違反ではないのか……留めていないから。さすが姉の屁理屈力である。そして、右手には銀色に光るメイスが握られている。
「それは何かしら」
「ドワーフの爺ちゃんがくれたんだよ。ミスリルの鍍金を施したメイスだってさ。魔力流し込み放題なんだよこれ。ほら!!」
向かってくる燃え上がるアンデッドの魔法戦士に向かい、姉がフルスイングでメイスを叩き込むと、砕け散るように鎧と肉体が弾け飛ぶ。
「……」
「うーん、ちょっと力入れ過ぎちゃったかも。てへ♡」
魔力量に恵まれた姉が、セーブせずにミスリルに魔力を蓄えて放つと、破壊槌のように作用するようなのだ。老土夫がウインクしてサムズアップする顔が頭の中に浮かんだ。
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