第112話-2 彼女は本当のレヴナントと出会う
「へー 二人でギルマスに喧嘩売ったんだー お姉ちゃんもまーぜて!」
「……なぜここにいるのかしら」
「そ、その、今日私たち以外はここの食堂で夕食を食べるって聞いていたので……」
「お姉様に同行して、ご相伴にあずかることにいたしました。何やらご報告
すべきこともあるようですので」
姉・黒目黒髪そして赤目蒼髪がそれぞれ答える。あの、仕出しのあった食堂に集まり、食事会をしている最中だ。特に、赤毛娘と赤目銀髪はポーション作りを延々したので、明日は変わってほしいという嘆願が為されている。
「そうね、明日は私と一人交代して採取をしましょう」
「それなら俺が護衛します」
「……採取なら僕の方が向いているので、同行を」
「……先生の素材採取……勉強したい」
「あ、あたしも、先生と一緒に素材採取なら行きたいけど……」
「なにそれ、私と一緒なら嫌だって言うの」
「あー お姉ちゃんも一緒に行こうかな。天気もいいみたいだしね。ほら、このお店、仕出ししてくれるみたいだからお弁当持って出かけようよ」
「姉さん……珍しくナイスだわ……」
明日は、薄赤パーティーと姉、リリアル軍団で馬車二台で今回まだ足を運んでいない、川の対岸に向かう事になったのである。橋の反対側にも小さな街ができており、ルーンの城塞内に入れない商人や住人が生活をしている。運送業者の人足や行商人などが泊まる宿がある。
仕出しの件、お店のお姉さんに聞くと、今日注文してもらえれば明日の朝、作り立てを渡せるという事。大体前日であれば対応できるのだという。
「へぇ、対応良いんですねー」
赤毛娘が話を聞き出すために話しかける。
「どのくらいの量まで対応できます? 王都の騎士団に知り合いがいて、いまこっちに仕事で来ていて、探しているみたいなんですよ」
「そうだねー 二十人、いや三十人くらいまでなら対応できるかな」
「凄いですね。今までそういう注文受けたことあるんですか」
「うん、定期的に注文いただいているお家もあってさ。何でも街の外で仕事している人に配達するんだってさ」
もしかして、紹介先が重なるかもしれないから念のためにその大口の注文をする家の家名を確認すると……姉が接触している子爵家の名前が出てくるのだった。
「ルーンでは有名なお家じゃないですか。頻繁に注文してくれるんですか」
「支払いがまとまると大金になるから、結構困るんだけどね。週に半分くらい注文してくれるかな。馬車でとりに来て、そのまま町の外に出て行くから、近くじゃないね。アベルとかの仕事なのかもね」
お店のお姉さんから欲しい情報が聞き出せたので、彼女たちは明日の注文と騎士団に差し入れする分を注文することにした。お姉さんだけでなく、店主も挨拶に来てくれたので、姉はさっそく「ニース商会の会頭夫人でーす。これからとよろしくねー」と挨拶を返していた。本当に止めてもらいたい。
翌日、ルーンの対岸に橋を利用して渡る。その場所は、王都の城壁外にできている新街区と似た活気のある場所であった。ルーンの城壁内が古くからのロマン人系商人が支配する空間であるとすると、この場所は外から商機を見つけて集まってきた商人職人の集う場所になっている。
「大きな都市の外周って、似ているわね」
「ニースはその辺、新市街って城壁の外で計画的に開発してるのよね」
「そうね。元々、係争地だから籠城できる城郭と旧市街は堅固に、その外側に自由な交流のできる商業地をって感じじゃないかな」
王都も人口の増加と城壁内の有効空間に限界が来ているため、南側を中心に新市街を開発し、そのさらに南に騎士団の駐屯地を移設する予定なのだ。そのさらに南にリリアル学院があるのだが。
「うーん、商館ならこっちでもいい気がするんだよねー 私の場合」
「……どういうこと姉さん」
「まあほら、用事があればこっちから出向けばいいことだし、下手に関わる必要がない場所に拠点を置く方が干渉されずに済むかなってね」
むしろ、ニース商会と王都の商会の支店をこのエリアに新規に街区を設けて移ってしまう方が効率が良いかもしれないと彼女も思う。連合王国との間のパイプを重視する城壁内のロマン人系商会と、王国内の物流を重視する王都系の商会で場所を隔てることも有効だろう。
「それと、騎士団とも交渉中なの」
「どの道、ルーン方面の騎士団の補給はニース商会が担当するから、新築する駐屯地内に補給倉庫を置かせろとかなのでしょ?」
「その方がお互い楽じゃない? 帳簿上の移動だけで済むんだもん。騎士団は使う分だけ倉庫から搬出、うちは倉庫の管理費が安く上がるし略奪とか補給の失敗のペナルティも考えないで済む」
「ついでに、川から駐屯地周りに水を引き込めば、船で輸送も簡単ね。防御と補給力向上を両立できるわよ」
彼女の見立てでは、昨日のレヴナントのいた村の西側に適地がある。川から水を引き込み、堀を作り、掘った残土を土塁に当てその上にさらに石塁を積む。石はガイア城の城壁から転用すればコストと治安良い改善につながるだろう。ガイア城を敵に利用されるのも困りものなのだ。
「うーん、王都やニースの商品は、新しい場所で売りたいよね」
「新しい酒は新しき皮袋に……という事かしら」
「そうそう、ルーンの自由商業都市の外側に、新商業都市を建設してさ。連合王国の紐付きと関係ない商人を育てるってことが、あの中にいる裏切り者どもに対する制裁にも牽制にもなると思うわ」
「わかってるねー 正面から殴り合うんじゃなくって、こっそり削っていくのが面白いんだよ。はっはー!!」
ニコニコと笑顔を振りまきながら、相変わらずえぐいことを考えている我が姉なのだが、伯姪曰く「義兄も同じだよ」ということなので、誠に似たもの夫婦と言えるだろうという事だ。
「この話、うちの旦那も宮中伯も宰相様もみんな賛成してるからね。このままGoサイン出してもらうつもり。手紙書いちゃおー」
さらっと国家の大事を決めてしまう姉なのである。いや、決定しているのはもっと上の方達であるのだが。姉の手紙が決定打となるだろう。
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