第97話-2 彼女は『人攫い村』討伐を行う

 馬車での移動より先、彼女と伯姪、『猫』は先行して明るい間に東の村に到着していた。明るい間に、地形や様々な村の構築物などのを確認して置きたかったからだ。


「入口は二か所。逃げるなら王都方面よね」

「川がある方向ですもの当然ね」

「じゃあ、そっちは馬車組でって事かしら」

「いいえ。中に入るのは私とあなたのペア、弓は王都と反対側で逃げ出せないように牽制する役を与えるわ」

「弓で狙われるとなれば、反対側から逃げようとするでしょうね」

「王都側の出口から逃げ出すものを『結界』で封じ込めて村から逃げ出せないようにするわ」

「それなら、突入組だけで上手く抑えられるかもしれないわね」


 村人が逃げ出すのも防ぎたいので、二箇所の出入り口はきっちり封鎖させてもらう。


 背後に回るのは、ゴブリン村塞でも櫓の上で組んだ赤目蒼髪と赤目銀髪の弓ペア。正面には黒目黒髪と青目蒼髪で結界を展開。突入するのは、彼女と『猫』、伯姪と茶目栗毛のペアである。


「まあ、やることはヌーベの山賊と同じなのよね」

「村人がいて騒がれるのが厄介ね」

「男なら殴って黙らせる、女子供は家の中でジッとしているように命ずる」

「……剣を持って向かってくる奴らは捕虜に取らずにその場で処分で……」

「縄で縛る時間ももったいないしね……突入組はそれでいいか!」


 伯姪も茶目栗毛も躊躇することはない。村人皆殺しという事ではなく、剣を持って向かってくる=賊ということで討伐してしまうことにする。


「でもさ、あっちからしたら私たちが賊なんじゃない」


 もっともなのであるが……


「夜中にコソコソ活動していること自体がおかしいのだから、『俺は疚しい事してるよ』と自己申告してくれているのではないかしら」

「なら、殺されるのもしょうがないよね」

「ええ、仕方のない事でしょう」


 そもそも、貴族である二人に剣を向けた時点で殺されても文句が言えないのは当然なのである。





 日が落ち、月が昇ってくる頃、王都と反対側に『猫』を見張として残し、二人は村に向かう道で馬車を待っている。やがて馬車の音がし、老土夫の御者が見えてきた。


「どうじゃ、中の様子は」

「これから馬車が到着するようです。せっかくなので、攫われた人たちが樽詰めされて、馬車が出るところを抑えようかと思います」

「まあ、突入するのは彼女と私のペアでするから、出入口に箇所を抑えるのをお願いすることになるわ!」


 人を切らずに済みそうだと思い、数人がホッとした顔をする。怖いもんね、人を殺すのは。


「弓は王都と反対側の出口に待機。毒矢で馬車なら馬と御者を狙って。馬車から出てきた剣を持っている人間も同じ。それ以外でも、武装しているかどうかで殺すかどうかは決めなさい」

「うん、了解」


 線引きをしておいてあげるのも、良い上司の在り方だろう。


「村の王都側の出口を結界で塞いでもらいます。合図は、火の玉を打ち上げるから間違えないでね」

「「「はい」」」


 そして、突入組は撫で斬りであることは言うまでもないので特に何も言わない。


「明るくなれば騎士団が護送用の馬車とともに三十人ほど来る予定なので、それまで、村の出入り口を塞いで、逃げ出す賊を捉え、村人を逃がさなければ任務終了。攫われた人の管理も騎士団がするので、私たちの仕事は人攫いの脱出阻止と討伐までです。質問はありますか?」


 あとは、現場で判断……するようなことは学院生に与えられた仕事には含まれていないので、特に質問は無いようである。


「では、配置につきましょう」


 馬車から老土夫以外が降り、メンバーは各自、配置場所に向け移動を開始した。





 月が中天に達する頃、数台の荷馬車が王都の方向から現れた。どうやら、搬出用の荷馬車であるようだ。


「さて、小一時間というところかな」

「ええ。どこに潜んでいるか、偵察しましょう」


 彼女は『猫』に合図すると、荷馬車の集団の跡を追尾させる。魔力を持っている者はおらず、レヴナントや魔術師・魔剣士の類もいないようだ。


「普通の盗賊というか、無法者ね」

「あなた、こういう村の摘発の経験はあるのかしら」

「ニースの騎士団では何度かあるみたい。私は無いわね。その昔、おじい様が領主であった頃の話よ。法国に村ごと内通していたり、色々あったみたい」


 『猫』が移動し停止した場所が恐らく、村の中の攫われた人が囚われている場所なのだろうと推測する。今の時点では搬出待ちをする方が良い。


「樽に詰められる前に助け出さないのは何故?」

「樽の中なら安全だからじゃない」

「そう言われればそうね」


 船に積み込むような樽は、かなりの厚みのある板材と鉄の輪で補強されたものであり、恐らく、しっかりと封をされ中の音が外に聞こえないようにされるだろう。つまり、樽の中は安全なのだ。


「樽って丈夫だし、仮に周りに火が燃え広がっても、燃えだすのに時間が掛かるじゃない。中は密閉された空間で空気もそれなりにあるのだから、かえって人質にされるより安全だわ」

「流石にそのまま王都に連行とはいかないでしょうけどね」

「とらえた生き残りの盗賊はそれでもいいわね」

「……確かに」


 二人は正面の門の前の草むらに潜みながら小声で会話をする。門は大きめの丸太で井桁状に組まれたもので、さして強度があるとは思えない。その中に、二人の見張りが立っている……ように見える。


「馬車が出て行くまではあの二人は仕事中ね」

「とはいえ、なんだかいい気分ぽいじゃない」


 馬車の御者の一人が心づけとばかりに酒とつまみを差し入れた。つまり、門を守っている村人と、人攫いの御者はそういう付き合いをする程度には仲が良いという事である。


「取り込まれたのか、積極的に仲良くなったのかはわからないのだけれども、少なくとも有罪ね」

「できるだけ殺さないようにはするわ。護拳で殴って無力化するとかね」

「生かして、奴隷として売却して買い戻す費用にしなければならないわ。さしずめあの人たちは鉱山奴隷になるほかないわね」

「それじゃあ、手足は残す方向で倒すわね」


 村人も共犯であることを確信し、彼女たちは腹を決める。


 やがて、小一時間ほどすると既に攫われた人を樽詰めして待っていたのか意外と早く馬車が動き始める気配がする。すると、『猫』が走り戻ってきた。


『主、樽の数は三十六個、四台の馬車に十八人の賊が分乗しております』

「では、打ち合わせ通り、門前で『結界』をお願いするわ。合図は火の玉ね」

「いってらっしゃい。気を付けて」

「できるなら、ぶっちめてもいいけど、安全第一でね!!」


 彼女と伯姪、茶目栗毛と『猫』は正面の門に向かい気配を隠蔽しつつ歩いていくのであった。



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