第97話-1 彼女は『人攫い村』討伐を行う

 翌朝、騎士団から借り受けた馬車で取り急ぎ、午後早くリリアル学院に戻る。既に、連絡は入っており、学院の中は騒然としている。


「お疲れだな院長代理」

「まだ一仕事残っているのですが、あなたにも協力していただきますよ」


 馬車を騎士団の駐屯所に預け、学院に入ろうとすると老土夫が鍛冶工房から出てきて話始める。今晩は馬車の扱えるものが欲しいからだ。老土夫は自衛もできるので是非とも頼みたいところだ。


「ああ、勿論だ。それで……その胴体と頭だけの物体はなんだ?」

「人攫いの実行犯であったレヴナント……魔法により死体を動かせるようにして、生前の肉体の持ち主の魂を封じ込めたゴーレムです」

「ほお、珍しいな。普通は適当な雑霊を封じ込めて命令で動くようにするんだが、持ち主の魂が入っているのは初めて見たぞ!!」


 いや、そういう目のキラキラいらないですよと彼女は思う。





 屋敷に入ると夜食の用意を依頼する。簡単なもので構わないが、空腹は良くない。多少のワインとチーズにパン……朝食分も持ち出そうかと思う。


「何人分用意しましょうか?」


 彼女と伯姪、茶目栗毛と老土夫は確定だが……


「捕縛して縄をうつ人間が欲しいわね」

「気配が消せる魔力持ちで……ある程度冒険者として活動している子が対象になるわね」


 赤毛娘は外し、青目蒼髪、赤目蒼髪、、赤目銀髪……辺りが妥当か。


「お、俺も連れてってくれ。爺さん一人じゃ……あぶねえだろ」

「いいえ、あなたは経験不足。そうね……」


 馬車の番には黒目黒髪を相方に連れて行くことにする。


「救助した人たちの治療用の綺麗な布と水袋は用意できているかしら。それと、毛布もできるだけもっていくわ」

「騎士団から貸し出していただいた毛布にもなる外套があるので、それを準備してくれているはず。足らなければそれを使いましょう」


 馬車で移動するメンバーが彼女と伯姪以外の全員。学院にはセバスを残す事にする。


「あー俺は今回パスって事でしょうか」

「その代わり、あのレヴナントの世話を任せるわ。そうね、死なない程度にポーションを与えておいてくれればいいわ。死んでもいいけど、あれ、剣術の木人にするから、その台を作っておいてちょうだい」

「……まじか……でございますお嬢様」

「死なないのだから、剣を突き立てたり実際に切り刻む慣れを行うための教材にするの。いきなり生きている人間は、ふつう傷つけるのに躊躇するでしょうからね」

「その躊躇が命とりだもんな」


 兵士もそうだが、最初の一人を殺すまでに半分は死んでしまうのだ。訓練しても、実際に生きている人を目の前にすると、体が言うことを聞かない。その為に酒を飲ませたり、判断力をなくさせるような環境を与え、死に物狂いで戦かわせる。戦場ならそれも可能だが、冒険者として学院生が対人戦を行うのはそれができない。その為のレヴナントの木人なのだ。


「じゃあ、さっそく作業場に運び込んで、作り始めましょう」


 その場にいると、野暮用を仰せ付けられそうなので、歩人はそそくさと外へと出て行った。レヴオを引きずりながら……




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「相手を人と思ってはいけません。剣を向けられたら、迷いなく腕を切りなさい」

「殺す必要はないわ。でも、油断してはダメ。縄をうつときも動けなくなるくらい痛めつけてからね。顔は駄目よ、ボディーを狙いなさい、ボディー!!」

「腹を打つと呼吸が止まるでな。あばれることもできなくなるから、それが一番安全だな。身体強化して、剣の刃のない側か鞘を付けたまま胴を思い切り殴りつけると良いだろう」

「でも、チャンスがあれば……〆ときなさい。それが後腐れないからね」


 見張りに立つような夜中ウロウロしている連中は、人攫いの人間しかいないので、どの道処刑される。今死ぬか、後で死ぬかの違いに過ぎない。


「矢は……ダメ?」

「即死か即時麻痺なら構わないわ」

「『アコナ』の毒を使う。ゴブリンで実験済み」

「なら、それで……問題ないわ」

「……うん……」


 赤目銀髪は容赦がない。今日は昨晩同様、明るい月が出るだろう。こちらは気配を消し、相手は月明かりに照らされている。弓なら、一方的に仕留められるだろう。


「中の村人はどうする」

「……抵抗する者は人攫いと同様。それ以外の者は外に出れば殺されるので、家の中でじっとしていることを命じなさい。傷つけたり、殺したりする必要は積極的にはないから」

「どうなるの? 村の人」


 それは気になるところだが、今の時点で彼女が言える事ではない。


「騎士団が朝になればやって来るわ」

「騎士団が討伐すればいいんじゃないんですか先生!!」


 その疑問は当然あるだろう。


「昼までは逃げられる可能性もあるでしょうし、今回は夜陰に応じて逃げ出す人攫いの捕縛と運び出される被害者の救出が目的なの。白昼堂々だと、村の女子供や攫った被害者を人質にしたり、殺す可能性があるじゃない」

「人間、もう少しで逃げられると思えば抵抗する気もなくなるわね。恐らく、朝から大騒ぎで夜逃げの準備をしているでしょうから、疲れてもいるわ。森の中や村塞にいるゴブリンを討伐するより楽な相手だと思いなさい。でも、相手は殺す気で抵抗するでしょうから、迷わないように。仲間や被害者も危険になるのだから」


 前提は「殺される前に殺す」であり、腕の一本程度は貰うつもりで構わないと言い含めなければならない。


「最優先は無力化。死んでも無力化だから問題ないのよ。応援の学院生は縛り上げるまでが仕事ね。身体強化、縛る前に腹を殴る、徹底しなさい」

「「「「はい」」」」


 馬車の中で何度も、一人ずつ順番にやるべきことを着くまで言わせ続ける

ノルマを与えることにする。それ以外のことを考えさせないようにするのも

大切だ。


「縛ったのはどうするのよ」

「『猫』にでも運ばせるわ。咥えてね」


 おおっとざわめく学院生。いやほら、大きくなるの見たことない子が多いからね。


「子牛くらいの大きさにはなるのよ。半妖精だから。魔力が高まれば……そのうち会話できるようになるかもしれないわね」

「そうなんだ……頑張ろう!!」

「モフモフさせてもらえるかも!!」


 この世界にモフモフとかないよね!! 大猪は絶対そうならない、たわしのような毛だから。


「では、各自準備をし、早目の夕食を取ってから移動します」


 という事で、人攫い討伐組は準備を始めるのである。


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