第91話-2 彼女は闇の公子と話をする


 伯爵曰く、今後の情報伝達は伝書鳩ならぬ『伝書蝙蝠』で伝えるのだという。また、冒険者ギルドに立ち寄ったついでに、この館に顔を出してくれてもいいという。


『たまになら、昼間でも大歓迎さ。勿論、ポーションは必要ないよ。アリーが納得する情報の対価としてだけで構わない。まあ、お茶くらいはいれるよ』

「では、なにか茶菓子を用意して伺います。その時は、従者を連れてきてもよろしいでしょうか」

『そうだね。君も貴族の娘なら、それは必要だろうからね。問題ないよ』


 彼女は伯爵との関係を今後も継続することを考え、様々なことをこの場で確認することにする。


「伯爵様は、今後も王都のこの館で今の暮らしを続けるおつもりなのでしょうか」

『そうできればと思っているよ。事件を起こさず、迷惑を極力かけずにね』

「であれば、最低限、今回の事件の関係者ではあるが、首謀者ではないという事を関係各所に説明して、何人かお会いいただかねばならないかもしれません」

『必要であれば構わないよ。そちらに都合も合わせる』

「……日中でも特に問題はないという事でしょうか」


 伯爵は『諾』と言い、私は吸血鬼ではなく、どちらかというと魔法生物だからねと続ける。


『魔力を補わないと消失してしまうから困るし、今行動を共にしている子たちも夜が活動時期だから夜起きているだけ。というか、本質的に君の元にいる『それ』と変わらないよ。剣は安定した存在だし、ある程度持ち主や契約した主人から魔力を補えばいいんだけど、私はそうはいかないから、人と交流して……少しずつ魔力をいただいているって違いだからね』


 吸血鬼の弱点である、水に入れないであるとか、日光や聖水がダメージになるということもないのだろう。内蔵する蓄えた魔力の枯渇=魂の消失による死ということになるのか。


「確実ではありませんが、今回の依頼主である王都の監督責任者の宮中伯と騎士団長との面談をお願いすることになると思います。場所は……騎士団本部になるでしょうか」

『なんなら、大聖堂でも構わないよ。私は特に支障がないからね』


 あははと伯爵は笑う。大聖堂や教会の主催するミサや寄付の集いにも参加することがあるので、別段いやではないという。


『母から生まれた体か、その体をひと手間かけて魂の器として再構成したかどうかの違いだね。だから、神様的にはダメなのかもしれないけれど、そんなこと、魔術が当たり前のこの世界ではどうでもいいことじゃない。線引きは技術の進歩で変わる。それに、幸せになる為に努力した結果を神様は否定されたりしないんじゃないかな』


 魔術師、錬金術師として自分もふと疑問に思う事がある。この行いは正しいのであろうかと。伯爵は「幸せになるための努力は是である」と示していた。なら、自分の行いに恥じることも悔いることも必要ないのだろう。


『自分の幸せの為に、他人を不幸にするってのはナシだけどね。そういう奴は彼女たちが放っておかないし、それなりに対処しているから、その辺りは許容してほしいかな』


 女子供を虐げる存在を……という事だろうか。殺戮しているわけではないだろうし、そもそも、人攫いや強盗は死刑なので……問題ないとしておこう。


「承知しました。事前に内諾をいただく……というよりも、人攫いの手下は処分していただけると助かります」

『それはありがたいね。それと友好の印として、一つ情報を差し上げようかな』


 伯爵の故国の猟師が槍や鏃に塗って使っていた薬があるのだという。


「珍しい素材なのでしょうか」

『いや、わりとこの辺りの山野にも自生しているね』


 その植物は『アコナ』と呼ばれる、百合に似た紫や白、薄い黄色などの花をつける。その花の形が修道士の被るフードや騎士の兜に似ていることから、『修道士の被り物』『騎士の兜』と通称される花だ。


『この葉には毒があり、根にある根塊にはさらに強い毒がある』

「……毒草であるというのは知っていましたが……どのようにして使うのでしょうか」

『毒のポーションにする感じだね。液体だと自身に付着したり飛び散る危険もあるから、塗り薬のように半固形になるようにする方が良いかな。それを鏃や槍の穂先に溝を施して塗り付ける』

「どうなるのでしょうか」

『かすっただけでその場所がしびれてしまうかな。深く胴体に刺されば……しばらくして心臓が止まってしまうね』


 少しでも体内に入ればその箇所が麻痺し、まとまった量が入れば心臓が止まるとは……凄い威力ではないだろうか。


『簡単に育てられるから、庭に植えるなと言われている花だね。葉っぱも手のひらほども食べると確実に死ぬし、指先ほどでもかなりの危険性がある。管理は……しっかりしてほしいんだ』

「その毒は、倒した動物の中にも残るのでしょうか」


 猪辺りは、使えば肉が食べられなくなるのでは問題だ。


『熱を加えると毒性が大きく下がるんだ。だから、傷口の周りを少し大きめに切り捨てて、後は良く焼いて食べれば問題ないかな』


 食べる必要のない魔物……魔狼やゴブリン、その他単純に討伐すれば良い魔物には使えるだろう。仕込みの投げナイフの穂先に、当たると毒が出る仕組みを付けて、ダーツのように飛ばす武器もありだろうか。


『吹き矢なんかでも良く効くから、隠し武器に使うのもあり。つまり……暗殺に使いやすいんだ。だから、広めることはお勧めしない』


 それを聞き、管理は彼女だけが行おうと思うのであった。



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