第88話-1 彼女はレヴナントについて調べる

 彼女は祖母に聞いた話を整理しつつ、老土夫にも話を聞いてみることにした。異なる情報を持っている可能性を考えてだ。


「レヴナントな……また出たのか?」

「頻出なのでしょうか」

「いや、周期的にだな。大体、あれらはヴァンパイアの従僕じゃろ? 自らヴァンパイアが動くことなく、必要な血を持つものを集める為の手足だな」


 死体に低級霊を封じたものという祖母の解釈と全く異なる説明を老土夫が始める。


「王都にはヴァンパイア、吸血鬼が住んでいると言われておる。儂が生まれる前からの話だ」

「……ヴァンパイアとは、血を吸う鬼というだけではないのですね」

「不死の魔術師の王とでも言えばいいのかな。人の生き血を寿命に変えて生き永らえながら魔術の研究を数百年にわたり続けていると言われているな。とはいえ、歴史の表舞台に立つこともなく、眷属を増やすこともしていないようだがな」


 吸血鬼が強力な魔物にもかかわらず、王都と共生しているのはここに人と魔術に必要なものが集積されており、魔術の探求に必要な環境が整っているからなのだという。


「ま、あとは王国は世俗的であまり宗教的な対立が少ないからな」


 帝国・法国・神国では周囲と馴染まない孤立した研究の徒を「魔女」と言い、迫害し時には処刑することもあるのだという。


「田舎の山の中に隠れ住むより、都会の人混みのなかで潜む方が容易いという事だろうな」


 噂によれば、吸血鬼は人好きのする知的で美貌の姿をしているのだという。


「『魅了』の魔術を常に発動させているので、魔力の低い者やない者を簡単に信用させ、協力させることができるのだよ」

「では、生き血を集めるのも協力させることができるのではないでしょうか」

「それでは、人間関係から足がつきかねない。用心深いのだろうな」


 吸血鬼は帝国の更に東の森国や奥国に伝承が多いという。王国にはオーガやゴブリン、オークの存在の方が脅威なのだが、数は少なくとも強力な魔物の一つなのだという。


「ということは、ある程度生き血が集まれば被害が収まるという事でしょうか」

「多分じゃ。とはいえ、レヴナントは吸血鬼に作られた生前の意思を持つ不死者であって、こいつらの管理は恐らく吸血鬼の手を離れるだろうな」

「……何故ですか」


 吸血鬼は自分の関心のある事以外にはどうでも良いと考えているようであり、定期的に目覚め血を飲み活動し、そしてまた眠るということをずっと繰り返しているのだという。


「執事に相当するレヴナントは主人を護る命をよく守り、周りから不審がられないように振舞っているだろうが、新たに作ったレヴナントは不死になれるという餌でつられた悪党が多いからな……」


 手に入れた不死の力と強力な身体能力で、吸血鬼の統制を離れたのち暴れ始めるというのだ。


「レヴナントが事件を起こし始める時点で、吸血鬼の統制を離れている可能性があるからの。まあ、そいつらを刈り取ることで済むじゃろうな」


 おおもとの吸血鬼には辿り着けずとも、実行犯のレヴナントは自分の得た力に酔いしれており、容易に存在を隠さないで行動する。故に討伐は可能だという事なのだ。


「騎士団の極秘記録などには記載があるだろうし、騎士団長や王都の高官はある程度推測がついているだろうな」


 ゴブリン討伐同様、騎士団員の損失が出かねない状況で深く追求すると自分たちに問題が発生すると考え、彼女たちに依頼をしたのだろうとこの時点でなんとなく推察することができる。


「少数精鋭で動く方がよかろう。装備を整えてだな」

「……魔装鎧は準備していただけますか」

「チュニック状のものなら三人分、今週中でどうじゃ」


 彼女は調査の期間を考え、「それでお願いします」と返答をした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「で、今回はどうするのよ」

「……私とセバス……それに……」


 彼女は茶目栗毛を指名することにした。何故なら……


「男女の方が自然な組み合わせでしょ?」

「うーん。子供の夜遊びにしか見えないんじゃないかな……」


 確かに、茶目栗毛はどう見ても未成年だし、彼女も同様である。む、胸のサイズだけじゃないんだからね!!


 外見だけなら、青目蒼髪の方が大人びて見えるのだが、大同小異だろう。


「貴族の娘と従僕が帰りを急いでいるという設定かしらね」

「確かに、若い女性が二人で夜道を歩くことは……あまりないわね」


 戦力的には伯姪が欲しいところだが、囮としては彼女だけで十分なのだ。


「とはいえ、低級精霊なのか犯罪者の成れの果てなのかで、罠の張り方も考えが変わるわね」

「……そうでもないわ恐らく」

「どういう意味?」


 攻撃手段が噛みつきや素手での攻撃であるという事は、どちらにしろ力任せの攻撃が通用することに慣れてしまっているのだろう。


「身体強化のできなかった人が、レヴナントになったとたん身体強化した状態で暴れることができたとしたら……」

「調子に乗るわね。知性……関係ないかもね」


 そして、彼女自身は魔力を持つものを平面的に捜索することができる。魔力壁の応用でだ。


「墓地の敷地の中にいるのであれば、襲われる前に確認できるわね」

「なら、最初に数体倒して、逃げるレヴナントを追跡して……隠れ家を突き止めるという段取りね」

「ええ。その後の始末を、あなたにお願いしようかと思うの。孤児や歩人じゃ相手にされないでしょうから」

「当日は、王都の子爵邸で待機すればいいわね」

「そういうことね」


 とりあえず、初期の依頼はこれで完了することができるだろう。とはいえ、どこまで処分すればレヴナントが動かなくなるのかも、確認しなければならないだろう。


 さて、しばらく王都に戻り、レヴナントの調査を行わねばならないだろう。王都の噂は彼女の姉とニース商会で先ずは収集することになるだろうか。それに、子爵家を拠点にしばらく、彼女と歩人と茶目栗毛が調査をすることを考えねばならない。彼女はいまだ、子爵家の子女であり、二人はその従僕なのだから。



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