第79話-1 彼女は準備を整え村塞を偵察する
様々な来客から一週間、ドワーフの鍛冶工房については、凡そ縄張りが確定、水車の建築と工房部分の建築が開始された。老ドワーフは数人の弟子兼追回しを雇うつもりがあり、本人の生活空間にその居住スペースも組み込み、素材置き場なども含めると、それなりの規模の建物になる予定だ。
「なに、それほどのこともないわい」
老ドワーフ曰く、付き合いのある大工の厚意と、引退の為の資金を充当することで学院に負担はかけないという。その代わり、武具に関してはそれなりに支払いを期待するという事である。それは今までと変わらないし、武具屋を通さない為、いくらか本来の値段よりは安くなるようだ。
今まで冒険者登録をした者だけが討伐に参加する予定であったのだが、隠蔽が使える者は後送要員として村で待機をさせることにした。怪我を負った場合、自力で後退できない負傷者を隠蔽のできる非戦闘員に任せれば、負傷した本人以外の戦力を減らさずに済むからである。
魔力小班の二人、『灰目赤髪』と『碧目赤髪』の女子二人が該当する。数年の訓練で魔力と操練が上達すれば伯姪のような形での冒険活動は可能だろうが、いまだ発展途上なので、登録は今後の課題である。
また、看護要因として使用人を二人同行させる。彼女らは村で待機してもらうことになる。
追加の冒険者用の装備が納品され、道具関係は問題ない状況だ。そして……
「儂も参加しようかの」
老ドワーフは、自ら試作品の『魔装鎧』を装備し、バックアップ要員を引き受けるつもりのようである。
「魔狼が抜けてきた場合、子供らじゃ厳しいじゃろ」
「そうですね。カバーしてもらえると安心です」
「おお。儂の魔力であれば、半日は稼働できるから、まずは討伐中に魔力切れとなる心配はない。後ろは任せておけ」
冒険家・戦士としての経験値は未知数であるが、少なくとも初陣の子供よりは当てになるだろう。
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装備の確認を終えた彼女たちは、一度学院生全員に武具を身につけさせることにした。実際、討伐の際の組となり、それぞれで手合わせをすることにしたのである。少なくとも、『結界』を展開したうえで通常の剣や槍で立ち合うのであれば、結界で攻撃は阻止されるはずだからだ。
「では、最初の組、始め!」
伯姪が声を掛け、最初の組「黒目黒髪・赤毛娘」対「赤目銀髪・赤目蒼髪」で対戦がはじまる。赤目チームは弓を装備し攻撃する。
「行くわよ!!」
「はい!!」
赤毛娘が飛び出し、前面に結界を展開したまま黒目黒髪がその背後を追いかける。そして、
「「ゴン!!」」
結界同士がぶつかり停止する。赤目蒼髪の結界の強度は負けていない。結界の外側から赤目銀髪が弓を射るが結界に弾かれる。
「……ん、なんで……」
黒目黒髪娘は……二枚を直角に組み合わせて左右に展開していたようだ。おかげで、背後に回り込むか上から狙撃しない限り、結界内の二人には攻撃が届かない。
「じゃ、こっちから行くよ!!」
赤毛娘が隠蔽と身体強化を行い結界を飛び越え、赤目銀髪に攻撃を行う。結界を発動できない赤目銀髪はバックステップして攻撃を躱し弓で狙うのだが……
「あ、あっつい!!」
黒目黒髪が結界をキャンセルすると同時に熱湯球を形成し、複数個を赤目ペアに叩き込みひるんだすきに、赤毛娘が銀髪娘を殴り飛ばし、蒼髪の前に立つ。
「ああ!」
結界を再度展開して距離を取ろうとするが、結界の展開より早く赤毛娘が目の前に立ち攻撃を加え二人目を打ち倒す。
「ズルくない?」
「……複数展開できるのは反則」
「あはは、負け惜しみ言っちゃって。魔力の問題じゃなくて操練の問題だから、練習すればできるんじゃない?」
「大丈夫、ゴブリンは結界展開……多分……ないから……」
勝ってもオズオズと話しかける黒目黒髪。既に彼女は結界の同時展開まで可能になっており、三枚目が展開できれば一人で包囲が可能となる。
「弓は接近戦に向かない……」
「じゃ、私一人で片づける方法、考えないとね。まあ、ミスリルの鏃で結界越しに狙うのも実戦なら有効でしょ?」
「殺すのは簡単。殺さないのは難しい……猟師は手加減しないから……」
弓使いとしてのプライド、実戦では飛び道具は相当有利であることは間違いない。故に、彼女の言い分もおかしくはない。
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