第063話-1 彼女は王宮で宮中伯に宣言される
ブルグントから戻り、学院のことを片付けているとあっという間に時間が過ぎてしまっていた。王妃様から近況報告をするように使いの者が来たため、本日は彼女と伯姪、従者の歩人を連れ王宮に参内しているのである。
王妃様とお会いする前に、宮中伯のところに顔を出すように言われているので、彼女だけが宮中伯に会いに来ている。二人は控えの間で待機中だ。
「気がついていないかもしれないが、お前がこの先受けるリリアル学院の学院長の役職は、お前の固有の財産となる」
そういえば王国の役職は貴族位同様、相続することができるのである。また、領地のない貴族位も領地のついた貴族位も相続の対象であり、財産と目される。宮中伯の言いたいことはこれなのだろうかと彼女は訝しむ。
「学院長の場合、年金もそれなりにつくので、それだけでも生活できるな」
「……あまり、興味がないのですが。責任重大で……」
「貴族に生まれたのだから仕方あるまい。その才に応じた役割と責任が課せられる。つまり、お前の才が王妃様に評価されているという事なのだ。誇るべきではないか」
誇るべき才などなくていいのにと、彼女は思うのである。楽したい。
学院についてのあれこれについて話を終わり、宮中伯が話題を変える。
「実は、内密なのだがな……」
騎士団の編成を変え、外征部隊用の騎士団と王都の治安維持用の騎士団で駐屯場所を変えるという事なのだ。それが、彼女とどのような関係があるのだろう。
「王都の南に新しい騎士団の大規模な施設を造る。南側は王都が包囲された場合の反撃する拠点がないのでな。騎士団本部を移転して城塞化する予定なのだ」
「それが私と何か?」
「リリアルと王都の中間に設置する。騎士団とリリアルの生徒の交流も検討してもらいたいのだ」
騎士団から、魔術師や薬師になるひも付きでない戦力が欲しいという事なのだろう。
「王妃様の承諾は」
「お前次第という事だ」
「……施療院の運営等、学院の仕事に協力いただけるなら……問題ないと思います。魔術師の卵を守る人が身近にいるのは心強いので。その代わり、強制はお断りします。リクルートするのは妨げませんが、女性に関しては特にご注意ください」
「無理強いしないようにと十分くぎを刺す。彼らも戦争に出て無駄に死にたくないから、腕の良い魔術師や薬師には敬意を払う。外征しない騎士団よりは、ずっと扱いは良いだろう」
外征しない騎士団とは、近衛をさしているのだろうか。王都が戦場になるか、国王陛下自身が出征しなければ、近衛が王都を離れることはまずないのだから。
「なにぶん、まだ成人まで程遠い子供達ですので、過大な期待はしないでもらえると助かります」
「騎士団本部の移転もかなり先の話だ。お前が成人した後くらいに正式に話が出て着工、完成は十年は先だろうな」
その頃には一期生も戦力化できているであろうし、二期以降の薬師やその他の使用人として育成する人間もそれなりのレベルだろう。
「あとは、騎士団自体が孤児から育成をするという話も出ているな」
孤児は、成長期の栄養不足で身体的に貧弱なものが多い。故に、職人や兵士としてはあまり良い素材とは思われていない。それを、幼少期から育成するというのは悪くないだろう。
とはいえ、サラセンの新兵団は孤児ではなく、異教徒の子供の徴発で編成されるものだと聞き及んでいる。帰る場所がないという意味では、騎士団と王国に対する忠誠心は大きいだろうが、身体的なハンディを克服することを考えないといけない気がする。
「なに、騎士団とは騎士だけで成り立っているわけではないだろ。馬の世話もあれば料理人もいる。騎士になれなくとも、仕事はそれなりにあるし、兵士を指揮するのに腕っぷしは必ずしも必要じゃない。事務の仕事・主計だって存在する。家族がいないという事は、金銭的に綺麗でいられる。主計は金を扱うから、周りから不正をそそのかされるような関係が少ないものは相応しいのだ」
「それは、官吏にも言えますわね」
「ああ。とはいえ、官吏はなりたがるものが多いし、そこまで切羽詰まってはおらん。騎士団はどうしても地縁血縁で入団する者が要職を独占する傾向があるのでな。ひも付きでない者を入れたいのだそうだ」
騎士団の小隊長くらいからポストを受ける場合、前任者に対価を払う必要があるのだそうだ。それが、前任者の退職金となる。コネと金が無いと良いポストにつけないのが騎士団のようで、その金を用意するのは……
「お前の仕事になるだろうな」
「では、精々、騎士団に納品するポーションの価格を吊り上げましょう」
騎士団のポストに金を払ってまで、学院の生徒を送り込みたいとは彼女はまるで考えていない。彼女独自の戦力を学院生で編成したいのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます