第062話-2 彼女は幼馴染と姉に絡まれる
姉が幼馴染を相手にせず、微妙な空気で挨拶は終了。彼女と伯姪、歩人従者は馬車で学院に戻る最中だ。
「なんだか微妙な関係? 幼馴染さんって」
「姉も小さい頃は弟みたいってかわいがってたんだけど、その時期の関係をまだ続けようとしているのかもしれないわね」
彼は彼なりに姉を慕っていたのだろう。恋愛対象とはならないと知りつつ、声変わりするくらいで急に離れられたのは……弟らしく思えなくなったということだろうか。
「それでも、ビトに対してべたべたしすぎだよね、中身おっさんなのに」
「おっさん言うな! でございますお嬢様」
「見た目はたぶん、姉の好みの少年なんでしょうね」
「……ショタコン……」
なにやら、聞きなれない言葉を伯姪が口にするのだが、第二次性徴期前の少年が姉はひどくお気に入りなのだろう。あまり触れたくないのだが。
「まあいいわ。で、ビトの冒険者登録大丈夫だったんでしょうね」
「歩人は依頼を投げ出すことが多いので、基本お断りなのだけれど、私の従者で同じパーティーであるという前提で薄白からスタートね」
「先が長そうだわ……」
「じ、十年頑張れば……『あんた何歳よ』……心は少年のままだぜ! でございます」
見た目だけね。心は薄汚れやオッサンだと彼女は思うのである。
「装備、どうしたの?」
「剣は同じものを用意したわ。学院の一期生にも同じものを、これは、ミスリルのものもあるので、全部そろうのは二か月ほどかかるそうよ」
「サクスはダガー代わりに採取に必要だから当然か。でも、剣は……」
「護身に習わせないと。薬師ではなく魔術師になる子たちだから、危険度はかなり高いわね」
魔術が使える平民自体がかなり希少価値。貴族や他国が欲しがる人材であり、誘拐や略取も十分考えられる。
「最低、三人以上、できれば班単位でまとまって行動が望ましいわね」
「……難しいかもね。小さい間はそうするけど、成人したらそうもいかないかも知れないでしょ?」
「一期生はできる限りリリアルに残ってもらうわ。というより、男爵家に仕えてもらうつもり。そうね、五年くらい年季奉公という形で教育するわ。冒険者や従者としての教育も可能でしょうから、その先につながるのではないかしら」
十五歳で社会経験のない頭でっかちな子供を魔術師というだけで放り出すのは危険だろう。彼女経由で仕事を与えて、達成状況を見てアドバイスなりサポートすることも必要だろうか。
「いまの十一人が初期の幹部になると思うわ。年齢も若く、魔力も彼らの中ではかなり多い子を選んだのはそのためよ」
「基幹要員にして、王家を支える組織を作り上げるとか考えているんでしょ」
「そうね、王妃様から頂いている指示に関して……後で二人きりで話しましょう」
従僕とはいえ、まだ日も浅い歩人に聞かせるわけにもいかない。伯姪は共犯者であり相棒なので問題ないし、内容を知ってもらい理解をしたうえで協力してもらいたいと彼女は考えている。
「ちっ、俺は仲間はずれでございますか……」
「当然ね。私たちは騎士爵、王家と王国を守るための存在。あんたは、そうじゃないでしょ? 分をわきまえなさいよ」
伯姪は厳しい物言いだが、彼女たちに期待され要求されていることは、すなわちそういう事なのである。貴族の義務を理解させるに、歩人の従者はまだ日が浅すぎるのだ。
学院に戻り、夕食を皆でいただいた後、彼女と伯姪は彼女の私室、本来は二人の寝室であるのだが、そこに場所を移した。
「で、どんな話なの?」
単刀直入に伯姪が切り出す。王妃様から内々に彼女に出ている指示。それは、王国と王家の為、民の為に働く『軍団』の育成についてである。
現状、騎士団・魔導騎士団・近衛騎士団と三つの騎士団が存在する。魔導騎士団は完全に外征用の部隊である。騎士団は兵士を指揮する指揮官と、平時においては王都と国王直轄領内の治安を司る存在である。
では、近衛騎士団とは何なのか。本来「近衛」という名称からすると、王家を守る近侍の集団だと思われる。本部は旧王宮に設置されている。王族と王宮の守備がその任務で、主な構成員は貴族の子弟である。
さて、この貴族の子弟というものが問題なのだ。王国は元々、今の王都周辺を支配するルーテシア伯が教皇から王国の支配を認められ国王となった存在であり、公爵や伯爵は同輩であったものがたくさんいたのである。
長い時間をかけ、王都周辺を平定し、また、婚姻を結ぶことで王家の領地となる地域を広げ、王国としての主権を強化してきたのである。
「貴族の別邸が王都に沢山あるけど、領邦には自前の騎士団を持っているものたちも公侯爵や伯爵には当然いるでしょう。その王都にいる各領邦の騎士たちの中で貴族のものが近衛に入っているのよ」
「ああ、なるほど。王家ではなく、自分たちの領邦やその主家の為に行動することが当然の者たちが王族の周りに集まっているわけね」
ある意味、近衛という名前の暴力装置で王族を脅迫していると思われる場合も、過去、国王の権力が脆弱であった時見られた現象なのである。
「度重なる争いのなかで、各領邦の領民たちがどの領主につくかを考えるようになり、穏やかで力の強い王国の王家に臣従したがったことから、やむを得ず王国の臣下となった上位貴族は少なくないのだから、当然なのだそうよ」
「そういわれれば、ニース伯もそうですもの。法国にいるより王国側に立つ方がいいもの」
「でも、古くから従いつつ、王家に抵抗したい者たちもいるわけ。それが、近衛に人を送り込んでいるのよ。近衛がそばにいる事は、あまり安心できることではないというのが王妃様の……陛下のお考えのようね」
王妃様一人の判断ではそれはできないことだろう。勿論、孤児を育てて社会を安定させること、王国と王家に忠節を尽くすものを育てるということが目的であるのは変わりがない。
「近衛に対抗するための戦力を秘かに育てることが、学院の隠された任務であったりするのよ」
「それに協力するのが、ニース商会というわけね」
「そう。新参で王都から遠く離れたニースは、王都が不安定であれば、即、危険になる最前線でしょう。王国の安定は、王家とニース辺境伯家双方に共通する目標なのよね」
今回の一連の施策は、王家をより強固にすることで、王国とそこに住む民が平和に豊かに暮らせるようにするための行動なのだという。
もちろん、その過程で高位貴族は力を削がれていくだろう。レンヌ公領のように王家と結びついていくもの、ヌーベ公領のように内部から王国を食いあらそうと暗躍する者に分かれていくのである。
「その過程で、大貴族の数が減り、王家が直接差配する地域が増える。近衛の数が減り、私たちの軍団が数を増していく。その過程で、学院がターゲットにされる可能性がある」
「だから、その為の対策をできる限り打つという事なので」
伯姪の言葉に、彼女は深くうなずいた。
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