第051話-2 彼女はブルグント公爵に依頼される

 計画としては、山賊の襲撃場所で一旦襲撃を受け、捕縛される。その上で、拠点まで連れ去られることで、潜伏先を特定し討伐する……という段取りを考えたのだが……


「男が殺されそうだな」

「殺すだろ」

「死んじゃうぞー」


 女の場合、自分たちの楽しみであるとか、人身売買でいい値段が付くだろうが、女を黙らせるために、男の護衛や御者を見せしめに殺す可能性もある。というか、抵抗されると困るので、殺す可能性が高い。


「……気配を消せる二人が捕縛される。薄赤メンバーは、戦闘を行い、そのまま山の中に逃げ込む……ではどうでしょうか」

「なるほどな。あとを追いかけてきた山賊を皆殺しにして、その後、拠点まで追跡する……という感じだな」

「悪くないわね。魔力を使えば大抵の拘束具は破壊できるし、護身の問題もないもの。それが妥当ね。囚われの修道女……悪くないわ!」


 どうやら、『妖精騎士』に対抗して『姫騎士七変化』なる企画を提案しているらしい伯姪なのである。スピンオフ? そんな言葉が頭をよぎる。


「いまのところ「侍女」に「女学生」と「修道女」になりそうね。あと四つ、考えなくっちゃ!」

「……七変化って八百万みたいな意味だから、数にこだわる必要性ないのに」


 彼女は、伯姪が残念な子であることを薄々感じていた。


「王都から南都方面の行商人や隊商の噂に関しては、二人に探ってもらっているから、後で冒険者ギルドで落ち合って摺合せしたいところだな」


 以前から、護衛に関してはかなりの数受けている関係で、薄赤パーティーは知り合いの商人や下位貴族が多い。正確か否かはともかく、意図的に流されている偽情報含めて収集する必要を感じていた。


「あまり派手にやれば今回みたいに、商人自体が行き来しなくなるしな」


 王都からブルグントへ向かう最短ルートは、以前、彼女たちがニースへ向かう山地を越えるものなのだが、今回の一件で東に大きく迂回して南に下るルートがメインになっている。


 遠征先を変えるか、しばらくほとぼりが冷めるのを待つか検討中といったところだろうか。





 冒険者ギルドの会議室を借りて、薄赤戦士、薄黄剣士と合流し、情報収集の結果を確認する。


「いまのところ、ブルグント領の村を襲撃するまではいっていないようだな」


 商人はルート変更して遠回りになっている分を価格転嫁しており、ブルグントでの物価は上昇している。とはいうものの、村落は基本自給自足であるため、薬・ポーション以外は困っていない。


「王都からも出荷を増やしているけど、輸送費が上がっているのと買い占めもあって、あまり芳しくないな」

「薬師と行商人ってのは良いマッチだと思う。それと……」


 ブルグントの領都ディジョンの情報収集が必要であるということなのだ。


「情報提供者を王都では絞れなかったんだが、ディジョンで王都方面に向かう安宿に怪しいところがあるようだな」

「こちらの資料にもある……ここだろうな」


 馬車も預けられる割に、安い宿があるのだ。普通、隊商のように馬を同行させる場合、馬小屋が付属する宿屋は割高なのが当然なのだが、不思議とそこは周辺の馬小屋なし宿と同程度で、食事などの内容も

良いのだという。


「評判のいい宿屋……疑うのは心がとがめるけど、怪しさ満点ね」


 伯姪曰くである。笑顔で騙すのがプロの仕事なのだという。商品があれば商人、なければ海賊の文化圏は考え方が王都と違う。薄赤戦士が続ける。


「王都の冒険者ギルドにも商人の護衛の依頼は存在するが、山賊の出没するエリアではリスクと依頼料のバランスが取れていないので、放置されている感じだ」

「そもそも、そんな危険な場所に行かねばならない商人って……」

『薬師ギルド経由の依頼だろうな。本来なら、騎士団が護衛についてでも実行すべきだが、王家の領地じゃないところは、依頼出すしかねえんだろ』


 魔剣の言う通りだろうし、薄赤メンバーも同意する。先ほどの公爵家での話の流れで依頼を受ける形になるだろう。


「依頼が来るのは『サンタンドッシュ聖堂』のある街になりそうだな」


 前回のルートからさらに西に外れた街ソーリー。一旦、ディジョンまで迂回してそこからソーリーへの脇街道を移動することになる。山賊の出没エリアに一部重なっているので、行商人が行きたがらないので物不足になりつつあるようなのだ。


「行に襲うより、街で換金されたものを狙うだろうな」

「それはそうね。金と女が手に入るのだから、売却に手間がかかる商人の荷物を奪うより効率的だわ」


 つまり、薬師ギルドから受注する分、依頼の半分は達成確実である。とはいえ、売上を納めるまでが依頼なのであるが。


「あのさ、俺、思うんだけどさ……」


 薄黄剣士が珍しく割って入る。何事かと話を則す。


「ヌーベって、ロワレ川の上流だろ? 河口の公都の人攫いと繋がってる奴らがいるんじゃねえの」


 ロワレ川の最上流はヌーベ公領なのである。そこから商人に紛れた人攫いが川を下り、旧都やトールを経由して……公都の仲間と取引をする。つまり、公都の人攫い一味は文字通り、川下であり、人攫いの本命は川上のヌーベにいる可能性がある。


「公都の騎士団に、王妃様経由であの時捉えた人攫いどもの供述調書の写しを大公家に依頼してもらうのはどうかな」


 伯姪曰く、王都でも類似の事件があり、捜査するための情報交換をお願いするという態で話を通したらどうかの言うのである。


「治外法権のヌーベ領主導なら、捜査が行き詰まるのは当然かもしれないわね。この仮説を伝えて、捜査協力……というと、騎士団が良い顔しないんじゃないかな」


 女僧は騎士学校での体験から、心配そうに意見をする。多分問題ないと、他のメンバーは判断しているのである。


「あの騎士団長なら、二つ返事で丸投げするな」

「するする、めんどくさいことは他のできるやつがやればいいくらいの感じだ」

「騎士団の幹部は、割と柔軟だぞ。護衛隊長なんて、ひどかったよな」


 王女殿下の護衛、目立つ仕事は彼女たち冒険者枠で処理し、裏方に

徹した護衛隊長も、見方によってはさぼりとか責任放棄と受け取られかねない

ギリギリの線で動いていた気がする。というより、魔物討伐は冒険者の

仕事だからしょうがない気もする。


「では、王妃様に人攫い組織に関しての調査に協力を依頼するという

ことでよろしいでしょうか」


 彼女はパーティーメンバーの承諾を得ると、ひとまず、ブルグント公爵と

前伯に人攫い組織の推理について説明することにした。その上で、王妃様

にはしばらく学院を留守にするので、監督者を誰かにお願いしたい旨、

相談することにしたのである。



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