第045話-1 彼女はまたもやチートで勝つ


『で、どうするんだよ』

「考えがあるのよ。でも、けがをさせるつもりは無いわ。恨まれるのは嫌なのよ」


 彼女は右手にスクラマサクスを持つ。対する、近衛騎士は剣に盾を装備する。今回は、逆の組み合わせとなったようであるが、騎士が盾を使うのは問題ないと言えば問題ない。護衛としてはないが、今回は襲撃者役を買って出てくれたのであろう。


 ざわめく学院の子供たちに向かい、心配しないでと手を振る。実際、心配するほどのこともないのだ。


「はじめ!」


 騎士の盾は馬上でも使えるカイトシールドタイプ。それを左腕に通すようにして構える。これは、右利き同士であれば、盾を剣が叩き続けるような攻防になりやすい。


『あの盾を躱して胴を攻撃するの無理だろ?』


 左半身を盾で完全にカバーしてしまい、半身で構えると、攻撃する場所が見当たらない。


「だから、考えがあると言っているでしょう」


 彼女は身体強化を施し、一瞬だけ気配を消す事にする。踏み込み、瞬く間に騎士の目の前に移動すると、構えた盾の上部10㎝ほどを……剣で斬り落とした。しかる後、バックステップで距離をとる。


「どうかしら」

『……多分、大事なところ縮こまってるだろうな」

「下品ね。まあ、肝が冷えたってことでいいのかしら?」


 金属の盾さえ、一瞬で両断する切れ味。正直……胴を切り裂くのも難しくない。手加減しているというアピールだ。


「さあ、続けますか。次は、体が切り落とされるかもしれませんけど」

「は、反則だ!」

「いいえ、ルールは、首とへその間への打撃を是とし、それ以外を反則として反則負けにするだけですわ。斬り落としてはいけないと……なっておりませんもの。続けるなら、次は斬り落とします。でも、私のポーションをお使いいただければ、多分つながります。金貨ニ枚ですけどね」


 こんな時でも商魂たくましい彼女である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 しばらく対戦相手の近衛騎士は逡巡していたものの、最終的には棄権したので敗北ということになったのである。腕を斬り落とされるだけで済まない可能性もあるので、妥当であろう。


「また、魔力多いからって見せつけてくれるわね」


 伯姪はニヤニヤと笑いながら、彼女の勝利を讃えている。讃えてるよね。


「それは、体力も体格でも負けているのですもの、当然じゃない。私は別に、剣士とか騎士としての能力を評価されているわけではないもの。目標を達成しているかどうかだけよ」

「それもそうね」


 という事で、近衛だけでなく騎士団のメンバーには全員このことが伝わるとみて間違いないだろう。彼女の前には、盾も鎧も無駄であるということが。





 斬り落とされた盾を皆で見学する。


「これ~ 記念にいただいてもよろしいわよね~ 学院の食堂にでも飾りましょうか~」

「……はい。かしこまりました……」


 近衛騎士団も、王妃様の決定には逆らえないようである。確かに、ここを訪れるお客様への話題を提供することは間違いない。学院長室にでも飾るつもりなのだろう。院長は宮中伯様であるが、決定権は王妃様にあるのだから。


「ずいぶんきれいに斬り落とされています!」

「殿下も訓練すれば可能だと思います。魔力でごり押ししているだけですので」

「残念ながら、私にはできない芸当なのですわ」


 ちょっとおどけて伯姪が言い放つ。とはいえ、王女殿下が鎧ごと騎士の胴を斬り落とすのは……ビジュアル的にはダメだろう。かっこいいかもしれないが。


「まあまあ、そんなこともできてしまうくらい魔力が豊富なら、もっと勉強して有効に使いましょうね。ああ、子爵令嬢ちゃんは勿論そうしているわ。うちの娘の事よ~」

「……はい、お母さま……」


 上げて下がる気分の王女殿下、藪蛇でした。


「アリー姉ちゃんすげえな!」

「お姉ちゃんすごい!!」

「……すごいです……」

「あんたたち、同じ班員である私のこともほめなさい!!」

 

 癖毛が「よかったんじゃね?」と言い放ち、レディに対する口の利き方が悪いと、伯姪から拳骨を食らっていた。口は禍の元とはいえ、人の口に戸は立てられぬのである。


「じゃあ、みんなでお昼にしましょうか~」

「「「「!!!!」」」」


 騎士は詰め所で交互に昼食、王妃様王女様は皆と食堂で同じものを食べる予定である。勿論、メイドが作った寮の食事だ。


「だってー 気になるじゃないー みんなのお母さんとしてはー」

「おかあちゃん」

「お母さん?」

「かあちゃま……」


 王妃様の「みんなのお母さん」発言に若干フリーズする生徒たち。王妃様がお母さんとは……年齢的に皆10代前半以下なので、お姉さんがせいぜいであるから、そう思うのは仕方ないかもしれない。


「では、お母さまと一緒にお昼にしましょう。全員、手を洗ってきましょうか」

「「「「はい!!」」」」


 彼女は子供たちと手を洗い清め、並んで食堂に行くのである。

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