第044話-1 彼女は孤児院で近衛騎士と立ち会う
「やっほー 連れてきたわよー」
「!!立ち合い楽しみです!!」
「妖精騎士の実戦、ぜひこの目で見てみたいと思っておりましたので、今日はよろしくお願いしますね」
王妃様王女様に……宮中伯。表面上の学院の院長は宮中伯であるので仕方がないのであるが、何か違う。
『リリアル学院』第一期生のモチベーションアップのため、魔術を用いた騎士との立ち合いを見せるという提案に、王妃様は大変乗り気であった。
「……いかがでしょうか」
「いいわね。すごくいいわ。子爵令嬢ちゃんの活躍、王女から聞いて、私もぜひ見てみたいと思っていたのよー」
王妃様、学院に来る気満々である。ちょっとやらかしちゃったかもと、彼女は後悔し始めていた。
「そうね、王女付きの近衛が不満だったみたいなのー 連れて行ってもいいかしらー」
公都に訪問する際、当初は王女殿下付きの近衛と騎士団の護衛隊で警護を担当する予定だったのである。ところが、侍女として彼女たちと薄赤パーティが参加することで、近衛はお留守番となった。それが気にいらないのだそうだ。
侍女と従僕に扮した彼らのおかげで、警護の内容の割に同行者を減らすことができ、大公家としても過剰な警備で不信感を持たれずに済んだので何も問題ない気がするのだが、近衛のメンツ的には問題なのだそうだ。
「はっきりとは言わないのだけど、近衛隊長辺りにいろいろ言われているのだと思うわ」
騎士団長は良い人なのだが、近衛隊長は騎士団とは別の組織のため、高位貴族で名門の当主が歴任している。実より名をとるポジションなので、不満もあるのだろう。実力がないと思われることにである。
「なら……『もちろん手加減抜きで黙らせてもらえると助かるわー』……承知いたしました」
高位貴族の中には、今回の孤児院を王妃様の元に見直す案に不満を持っている者がいる。恐らくは、教会・孤児を利益源とする商人とその身内の貴族だろう。人身売買とまではいわないものの、不幸な孤児を食い物にして儲けを出すことを商売にしている者たちが王都にはいるのだ。
「近衛近衛って、べつに王家に忠誠を本心から誓っているわけではないのよねー」
ようは、要らない高位貴族の息子たちの置き場に過ぎないのだという。プライドばかり高く、王家より自分たちの実家の利益優先の近衛など不要だと王妃様は思っているのだそうだ。
「だから、令嬢ちゃんの学院の卒院生たちには期待しているの。本当に王国と王家に忠誠を誓ってくれるのだとね」
「もちろんでございます。それに、守るべきものが自分しかない者など、恐ろしくありません」
「ふふ、そうよねー。女は弱し、されど母は強しというものね。そういう気持ちを大事にしないとねー」
王妃様の言わんとすることはわかる。面倒ではあるが、勝たねば学院の生徒がガッカリする。近衛が勝っても、近衛以外喜ばないのだから、彼女が勝利するのは当然なのだと思うことにした。後のことは、後で考えよう。
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「近衛なら手加減要らないわね」
「……どういうことかしら」
「だって、あいつらも魔力で身体強化できるもの。手加減すればこっちがやばいわよ」
「そうなのね。いいわ、あなたのおじい様と同じ感じで相対すればいいのよね」
「それはたぶん、やりすぎだと思うよ。お兄様くらいでいいんじゃないかな?」
伯姪の言うお兄様は辺境伯の次男、現騎士団長で薄青並の騎士だ。彼は、身体強化できないのだが……
「身体強化してその程度なのよ」
「……弱いわね」
「あなたの基準がおかしいのよ。薄青って一流レベルなのよ。濃赤から上なら一流と名乗れるの!」
そんなことは知らんがなと思わないでもないのだが、ギルドの冒険者等級を教えてもらった際、薄青から上は貴族のお抱えになるくらいの強さで冒険者を続ける者は少ないため、依頼が高価になると話された気がする。
「そういえば、あの依頼は青等級だったわね。薄赤の方と組まないと受けることができないわね」
彼女は、人攫い一味の討伐の依頼を思い出していた。ところがである。
「単独で受けられるわよ……あなた、薄赤になっているじゃない」
「聞いていないのだけれど……」
レンヌから戻ってきて何度か足を運んだギルドではそんな話をされた記憶はない。
「私、薄黄になったわよ。ほら、ガレオン船奪取したじゃない? あれ、依頼じゃないけど、戦力評価の査定に加味されちゃったみたいね」
勝手に査定されているのには納得いかないのだが、これで単独でも難易度の高い依頼を受けられるかと思うと、前向きになるのである。
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