第040話-2 彼女は王都に戻る
伯姪とヌーベ領の山賊・人攫いの件について依頼を一緒に受けないか話をするのである。
「なら、装備を調達しなきゃね」
「……あの剣を注文するのよね」
「ええ、それに、今回の報酬がちょっと良かったから、追加で注文したいのよね」
パレードの際に身につけた彼女の胸鎧が気に入ったので、同じ仕様で胸鎧にティアラを装備したいのだそうだ。それに……
「バックラーの持ち手の部分を剣と同じ素材にするのよ。殴った時に、魔力が入るようにしたいの」
「剣と小楯のスタイルにするわけね」
小楯は殴ることもできるので、使い勝手がよく、彼女は装備したいのだそうだ。
「盾を投擲することもできるのよね。それなりに効果あるわ」
「……何でもありと思えてくるわね……」
王都に戻ってくると、既に伯姪の部屋がしつらえられており、母と姉からは「自分の家だと思ってね」と言われて正直驚いた次第である。
「こっちの別邸も手配できたみたいだし、商会の仕事も少しずつ始めているんだってさ」
令息は、別邸という名の新居を用意しており、姉の知人を中心にガーデンパーティーを開いたり、夜会に呼んでもらいながら交友関係を広げている最中なのだそうだ。既に、婚約者としての話は広がっているのだが、辺境伯が王都に来るのは半月ほど先のようなのである。
「前伯爵様夫妻も……来られるのよね」
「そう聞いているわ。子爵様ご夫妻にもお会いしたいし、王都の友人ともこの機会に交流するつもりみたいね」
ジジマッチョが王都で大人しくしているとは……全く思えないし、巻き込む気満々なのではと思うのである。そして、王妃様との茶会には絶対揃って呼ばれると彼女は確信するのである。
「王妃様のお母様とおばあ様は古くからの友人なのだそうよ」
確かに、王都でも相当有名な美人姉妹であったと祖母に聞いている。姉の付き添いで辺境伯領に移り住んだのだが、前辺境伯の弟と結婚し、生まれた息子の娘が伯姪なのだそうだ。
「なら、貴方と王女殿下が仲良くなるのは当然かもしれないわね」
「あなたもその仲間なのだから、逃げられないわよ!」
子爵家の次女に過ぎない彼女にとって、国王陛下に気にいられているという事象はかなり気が重いのである。
「あなたが王都で過ごせるように、王妃様が婚約者を考えてくれるのではないかしらね」
「それなりの家の子息は、物心つく頃には婚約者がいるのよ。そう考えると、家柄はともかく、性格に難ありの人でも宛がわれたら断れない分、嫌だわ」
とは言え、陪臣の娘なのだから贅沢言えないと思わないところが、伯姪らしいと彼女は思った。
伯姪とパーティー登録を冒険者ギルドで行い、名実ともに相方となった二人であるが、その足でいつもの武具屋に行くことにした。
「ああ、お久しぶりですね。どうですか、装備の調子は」
「特に問題はありません。今日は、私の装備ではなくって……」
伯姪の装備を更新したい旨、伝えたのである。
「剣はともかく、他の装備でミスリルの合金を使用するのは、あなたにはお勧めしません」
伯姪の魔力量では、むしろ剣だけに魔力を使用し、身体強化くらいでそれ以上は難しいだろうというのである。
「価格もかなり高くなりますし、消耗して買い替える時に検討する方が利巧でしょうね」
「……わかったわ。それでお願い」
ティアラは流石にミスリル合金を使用したが、胸鎧と小楯は既成のものを購入することにした。ミスリルの曲剣は一か月ほどかかるとのことであった。それと、伯姪はスローイングダガーを数本装備に加えることにした。
「あなたの油球の代わりね。悪くないでしょ?」
「使えるならいい装備ね。得意なのかしら?」
投げナイフも辺境伯領の騎士では使いこなすのが基本なのだそうである。小楯の裏に仕込んだり、ベルトやブーツの中に仕込むのも普通なのだそうだ。
「鎧を着て正々堂々みたいなものは傭兵や野盗には意味がないのよ。相手も普通に使うから、こちらも同じ装備をするの」
彼女はなるほどと思うのである。
因みに、伯姪の部屋は今のところ客室を使用しているのだが、姉が家をでた場合、そのまま姉の部屋を使用することになりそうなのだ。この辺りも、姉の処世術なのだろう。
今現在、姉と母と彼女と伯姪でお茶会中なのである。
「もう一人娘が増えたみたいで嬉しいわー」
「わたくしもですわ。王都のお母様とお呼びしたいですわー」
「私も、もう一人妹ができたみたいで嬉しいよ。それに、我が実の妹様は社交が苦手だしねー」
「それは、いままで求められていなかったのだからしょうがないのではないかしら」
彼女と姉は役割が違うのだからと、社交にかかわることは今まで避けられていたのに、手のひら返しされても困ると彼女は思うのである。理不尽すぎると。
「いえいえ、皆が我も我もと話をする中、聞き上手なことは立派な社交術ですわよ」
「そうね。姉妹で話し続けるのも鬱陶しいかもしれないわ。今のままでも十分ということよね」
「少なくとも、王女様の侍女としては問題ありませんでしたわ」
一か月ほぼつきっきりで侍女をした伯姪から言われれば、母も姉も納得せざるを得ないだろう。
「そろそろ、王妃様から呼ばれるかもしれないわね。きっと、レンヌでのお話を楽しみにされているでしょうね」
「多分、辺境伯様ご一家もでしょうね。彼がそういっていたわ、おじい様が根掘り葉掘り聞きだすだろうって」
ジジマッチョだけで済むならダメージは半分か。伯姪もいるので、問題ないだろう。騎士団長次男が来れば二倍鬱陶しい可能性もあったが、今回は伯爵、前伯爵、次期伯爵が揃って王都に来るので、彼は残らざるをえない。
「でもあなた、この前騎士爵になったばかりなのに、男爵にすぐなるかもしれないとは……最近の夜会でも茶会でも、貴方の噂を聞かない日はないのよね」
「……えっ……」
「最新鋭のガレオン船を無傷で手に入れて、連合王国の裏帳簿まで手にいれたんですってね。まるで冒険活劇の主人公、騎士物語の主役ね」
「そうそう、『妖精騎士の物語』レント公領編というのが、舞台にかけられているんだよね」
商魂たくましい吟遊詩人に脚本家に小説家が、今回の旅での出来事を早くも題材にしているのだそうだ。
「ねえねえ、エントってまるで『木』なの?」
「ええ、その通り。木が夜中城の中庭を暴れまわるのよ。ちょっとした恐怖よ姉さん」
「あはは、見てみたかったなー。でも、木だから火で燃えるよね」
「お城ごと燃やすつもりならね。残念ながら、王女殿下と私で熱湯の塊を魔力で生成して、根元をしばらく煮えさせたわ。植物って熱に弱いから、それで逃げて行ったわね」
「……王女様、魔術が使えるのね……」
「まだまだ制御は苦手だけれど、魔力はとても多いの。多分、化けるでしょうね」
魔力と魔術に自信がある姉からすると、その話はちょっと悔しかったらしい。彼女は内心ニヤリとするのであった。
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