第024話-2 彼女は伯姪と共闘し悪党を倒す

 先日聞いた、野盗は現れなくなったのではなく、街の中に浸透し、人や財貨を奪い、何食わぬ顔で辺境伯の膝元で犯罪を犯していたのである。


 もし、王都に出れば、怪しい行動をしている人間がいれば、浮浪児たちが情報を売りに来るのだ。多少の金銭かお目こぼしをすることと交換に、王都では情報が騎士団に集まる。


 ところが、豊かな領都ではそのようなものもおらず、街が古いだけに死角も多くなっているから、今回の様な商人に成りすました野盗の侵入も許してしまうのである。


 商人は数年前に代交代をした時に法国貴族の息のかかったものに変わっていたことが取調で判明。城塞都市の市長を兼ねる嫡子を筆頭に、代替わりした商人や、取引先・取引内容に関しての調査を大商人から始めることになったのである。


 人をたくさん使う商売であれば、傭兵崩れや野盗を使用人として紛れ込ませることも可能であるからだ。行商人も法国のスパイとしてくるものもいるだろうし、今回は氷山の一角なのではないかとも思えるのである。


「随分、攫われていたのね」

「この街のものだけではないようです。近隣の村や町からも攫ってきたみたいですね」


 救助された人の多くは10代の女性。恐らくは、言葉巧みに行商人から誘われて眠らされてここに運び込まれ、まとめて法国へ送り出す算段であったのだろう。





 城館に戻ると、辺境伯夫妻は心配げな顔で出迎えてくれた。街中で令嬢二人が攫われるというのは大問題であるし、伯とも取引のあるほどの商人が組織的に法国への人攫いを行っていたことも問題だ。


「また、活躍しちゃって。なにしにここに来たのかな」

「婚約が無くならないといいのだけど、大丈夫よね……」


 姉と母からは嫌味を言われる。なんで身内が心配しないのかなと彼女は思わずにはいられなかった。


「やや、聞きしに勝る妖精騎士様ですな」

「からかわないでください騎士団長様」

「そうですわ、お兄様。人攫いが堂々と街で商人を営んでいるのですから、辺境伯家の恥というものです。恥じていただかなくては困ります」


 いつもは甘えてばかりの伯姪から、厳しい一言。当人は以前から狙われていたと聞き、あまりいい気持ちはしなかっただろう。ちょっと理不尽な気はするけれど。


 既に夜も更けており、詳しい話は明日となった。当然、嫡子はおらず自ら陣頭指揮を執り、既に売られた人たちの特定と、買い戻しに動くのだそうだ。商人の財産を没収しその資金に充てるというのは、妥当だろう。


『主、お疲れ様でした』

『隣国が近いというのは、中々に難しい問題を抱えているな』


 彼女は少々考えていることがある。冒険者ギルドは12歳未満は所属できないのであるが、城塞都市内での雑用を引き受ける「冒険者見習い」を10歳から可能にする。その過程で、不審なものや人を見かけた場合、ギルドに報告し、その内容をギルドは騎士団に伝えるようにする。


 浮浪児がいないこの街でも、子供の働き口は多くはない。ということで、そういう行為もあっていいのではないかと、彼女は考えたのである。


「冒険者になるっていうのは、人の役に立つということですもの。剣を振り回しているのが冒険者ではないわ。傭兵と冒険者の違いはそこにあるのではないかしら」


 と、思うのだ。言うのはタダだから話してみることにしよう。





 翌朝、彼女が朝食の席でその話を辺境伯に伝えると……


「我らの子供、騎士や官吏の子供も、月に決めた日数、そこで雑用をさせることにしよう」


 というのである。これには、席に座る誰もが驚いた。


「伯爵だ、騎士だといっても、民のために存在するということを言葉ではなく、体で学ぶのに、ギルドで雑用をこなすのはいいことだろう。民の目線というものが、小さい頃に学べる。なにも、騎士ごっこをすることが騎士の子供のすべきことではないからな」


 実際、辺境伯領の貴族の男子は7歳になれば、この屋敷で見習い騎士として仕事を始めるのだから問題ないのである。苦笑いの次男騎士団長と伯姪……確かにその通りな気がする。彼女も最初は薬師として、のちに冒険者として薬草取りをして薬を作っていた時期がある。金銭的には些少でも、それが人を助けると思えると、何だか誇らしい仕事であると思えたのだ。


 人の上に立つというのは、偉いということではなく、誰よりも人に尽くせるということなのではないかと、気が付かせることになると辺境伯は考えたのだろう。


「そこで、責任感や人と上手く関係を築くことの必要性も理解できるでしょう。私の子供が生まれたなら、それは大切なことだと教えたいと思います」

「俺もだな。まあ、奥さんもいないから、先の話だが」

「私の子供も、是非こちらに訪れた際は、そうして下さいませ」


 姉は相変わらず調子がいい。自分はしないから、別に構わないくらいは考えている気がする。





 そして、数日後、いよいよ王都に戻ることになる。今回は、子爵一家に令息、そして少し準備をしてから伯姪も王都に行くことが決まっていた。恐らくは、婚約許可を国王陛下に頂く際に、一緒にくるのだろう。


「伯姪ちゃんも一緒に住めるように、お家を整理しなければね」

「その後は、御令息も住むのだから、かなり手を入れなければですわよお母様」


 手狭な子爵家を何とかしなければということになりそうである。来客も増えるだろうから、別邸に若夫婦という感じになるのかもしれないな。商会の事も考えると、それはあるのだろう。


「王都で会いましょう」

「ええ、今度は攫われないように気を付けましょうね。案内楽しみにしているわ」


 人攫いの一件でさらに仲良くなった二人である。吊り橋効果なのか、お互い性格は違えども、似た者同士であると気が付いたからかもしれない。


『おい、また「妖精騎士」に伝説が加わっちまったけどいいのかよ』

『主の御活躍が世に知れるのは、民のため、子爵家のため、王国のため良いことでございましょう』


 そう考えると、王都に戻るのが少々気鬱になるのである。


 彼女は気が付いていないのであるが、この辺境伯領の人攫い騒動に、行きがけの山賊討伐のおかげで「王国中に妖精騎士が現れる」という誤ったメッセージが発信されてしまうのである。


 さらに、『濃青等級並の騎士である、前辺境伯と互角の勝負をした』という、当人発信としか思えない情報も王都だけでなく、王国と法国にもうわさが流れ、『王国の妖精騎士』は周辺国でもお芝居や読み物として語られていくのである。


 その中に、吟遊詩人による物語も含まれるのは言うまでもない。





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これにて第三幕終了となります。お付き合いいただいた方、ありがとうございました☆

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