第001話-2 彼女はフェアリーと呼ばれる

「本来は、初心者冒険者ということで『薄白』等級からスタートとなるのですが、今までのポーションの納品実績を考慮いたしまして、『濃白』等級からのスタートとなります」

「ありがとうございます」


 彼女は魔力測定ののち、冒険者として登録されることになった。この世界の冒険者ギルドは冒険者を6つの等級で分けている。それは色であらわされ、紫、青、赤、黄、黒、白の冒険者階位がある。


 さらにその中で濃淡の色分けがある。彼女は濃白等級となり、少々色を付けてのスタートが認められた。素材採取に関して問題がないということでの判断だろう。


 簡単に説明すると、黒白の等級下位4つは素材採取と常時依頼の魔物討伐がメインの依頼となり、護衛や討伐クエストなどを受けることができない初心者クラスといえる。冒険者の半分程度はここでリタイアし、商人やその他の市街で働く職業に転職する。20代半ばまで程度であろうか。


 また、この世界における成人は15歳。彼女は13歳であり、12-14歳の間は半成人として扱われる。例えばそれは様々な職業につく制限があり、実質見習い期間ともいえよう。もしくは学生だ。


 これを反映し、冒険者ギルドは15歳未満の冒険者は濃黒等級までしか昇格できないのだ。


 赤黄等級は冒険者として10年程度の経験を持ついわゆる中堅どころであり、護衛や討伐を自ら依頼として受ける層である。とはいえ、薄黄と濃赤では大人と子供の差が存在し、この中堅層も実力差がかなりある。


 青等級は指名依頼を受けることもある冒険者のエリートと呼ばれ、一流の存在として世間では評価される。また、貴族階級と直接会うこともあり、単純な力自慢程度では到達できない階位でもある。社会性やその所属する地域への貢献度など考慮され昇格するのだ。単純に言えば、災害規模の魔物の討伐の達成によると言えよう。


 濃青のレベルは王国騎士団の部隊長レベルであり、その国内において五指に数えられる存在と言えるだろう。騎士団長は管理職で名誉職でもあるので意外と思ったほどでは無かったりする。小国ならともかく、大国であれば高位貴族でなければ国王と政治的なやり取りをすることも難しいからだ。


 そして、紫等級はいわゆるS級であり人間の限界を超えている存在と言えるだろう。特に濃紫は世代で1人もしくは2人程度の存在であり、歴史に名を遺す存在ともいえる。なので、この辺は考慮する必要はない。


 冒険者としての出世を狙うものは濃赤で指名料をたっぷりもらって、最後は貴族のお抱えになる程度の出世か、下位貴族の次男三男あたりは騎士団で数年修行をし冒険者に転職したのち、青階級を目指すことで出世することを夢見る。


 騎士団での修養は貴族出身者としてのステータスでもあり、また知己を得るための手段でもある。彼らは高名な冒険者となり高位貴族の私設騎士団の団長辺りを目指す。また、生まれが良ければ、婿となり実家を凌ぐ階位の家のものとなり、見返すこともできるかもしれない。


 



 さて、彼女の場合何を目指すのか。勿論、冒険者として市井で暮らすための仕事を見つけることも大事なのだが、依頼を通して世界を知るということも彼女には必要なことだと思えるのだった。


「依頼に関しては、あちらに等級別のボードがありますのでご確認ください。黒白の場合、常時依頼か採取依頼のみの受付なので問題ありませんが、それ以上の等級指定の依頼に関しては、未達成時ペナルティーが発生することがありますのでご注意ください」


 討伐依頼で失敗した場合、依頼人が危険になる場合もあるだろうし、護衛の依頼も同様だ。依頼料の30-80%の罰金に一定期間の活動停止。自動車免許の違反行為に対する罰則に似ている。


「パーティーを組んだ場合、所属する等級より1つ上の位階の依頼を受ける事ができます」


 彼女の場合、白なので意味があまりないが、黒等級であれば黄等級の依頼まで受けることができる(依頼には6色の指定しかないため、このような範囲となる)。


 紫指定の依頼なら、紫等級の冒険者単独か青等級のパーティーであれば依頼を受けることができる……という感じである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 受付嬢にお礼を言い、彼女は早速依頼を確認することにした。当面の目標は15歳になるまでに濃黒となり、薄黄になれる直前まで依頼達成を進めることにある。依頼達成は黒等級までは個人での評価のみなされる。


 例えば、ゴブリンを5体討伐したとする。白黒等級なら全員に5体分の討伐依頼達成の評価が与えられる。これが黄等級以上であれば、均等割りとなるので、中堅以上の冒険者はこの手の依頼に手を出す事は無く、自然に住みわけがなされるのである。


「素材採取関係は……ついでにできそうだわ」

『ああ。お前がいつも採取しているところにそれなりにいるからな。とりあえず、この依頼を目指すのはどうだ』


 魔剣が示した依頼は『狼』の討伐依頼である。森にすむ狼はそれほど大きな群れを作らないものの、単独の冒険者、それも黒白階級ではそれなりの難易度なのだろう。


「狼の……毛皮かしら?」

『ああ。俺を使い、水の魔法を使えば効率よく皮を加工できるだろう。それに、これは討伐の常時依頼にもなるから、一石二鳥だぞ』

「ついでに、ポーションの素材や常時依頼の素材も採取してしまいましょう」


 森の中にある植物系の素材や鉱物も魔物や危険な獣がいるため、依頼案件となっているものが多いのだ。


「狼の毛皮の内張のついた外套なんて……いいわね」

『俺は、鞘を作ってもらいたいな』

「なら、お揃いでコーディネートしましょうか。ブーツにもあるといいわね」


 魔剣はいまの出来合いの鞘が気に入らないらしく、オーダーメイドが所望なようなのだ。とはいえ、鞘を預ける間、武具屋に預けられてしまうのは問題ないのだろうか。


『心配するな。最初に武具屋に行ってお前の予備のダガーを買う。そしてそのダガーそっくりに俺が変身する』

「……あなた変形もできるの……」

『ああ。今の魔力では限界があるが、お前がもっと魔力を与えさえすれば、大剣にもハルバードにでも変形できるし、斬撃力も上がる』

「これ以上髪の毛が短くなると……家族を誤魔化せないわ」

『それはそうだろう。お前の魔力ほどではないが、魔物の魔力を吸収することで俺の能力は拡大する。魔石があれば一番いい』

「それはお金がかかりそうね」

『それはそうだ。お前の髪に匹敵するんだぞ、高価に決まっている!』


 彼女の黒髪にはそれだけの価値があるということなのだろう。





 彼女は『隠蔽』を発動させつつ、森へと入ることにした。魔力の量も半年前と比べると大いに増え、術に用いる魔力量は減った。なので、半日程度の『隠蔽』で魔力が尽きるという事は無い。


『それに、追いかけてくる奴らも少々鬱陶しいな』


 依頼を確認しギルドを出ると、数人の冒険者が彼女の後をつけてきていることに気が付いていた。とはいえ、偶然かもしれないし、なにか伝えたいことがあったのかもしれないが、今日は依頼の達成を優先とすることにしようと彼女は思った。


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