コンビニにて:第12話

私には物欲が全くと云っても良いほど無い

けど物欲が無いと云うだけで執着もあれば所有意識もある

自分の持ち物は大事にもするし壊れたり失くしたりした時には人並みに残念な気持ちにもなる

それが嫌で自分の手に入れた物は大事に可愛がる

もしかしたら失う寂しさから逃げたくてあまり物を持ちたくないと思う様になったのもあるかも知れない


更に執着心とは別に、勿体無いと云う気持ちも兼ね備えてはいるみたいで

地球環境や資源問題みたいな大それたことを云うツモリはないけど、まだ使える物を粗末に扱ったり、まだ食べれる物を捨ててしまったりすることには抵抗を感じる


冷蔵庫の上に戻された19本の煙草が残されたビリビリの紙の箱は今後私に吸われることもなくこのまま放置されていても湿気ってしまうだけの、云ってみればゴミ同然の塊だ

運悪く私に買われてしまったが故にこんな形になってはしまっているけど、愛煙家の誰かに買われていたならきっと美味しく味わって20本吸われていただろうに

そんな風に考えると勿体無い意識が歯止めを掛けて捨ててしまう気にはなれなかった


もう2度と顔を合わせる事の無いようにとコンビニで買い物をする時間をずらしていたあの冷凍車のドライバーさんが今、隣のコンビニで冷凍食品や氷やアイスクリームを搬入している

私が買い間違えていなければ、この赤と白の箱の銘柄はあのドライバーさんが吸っている煙草と同銘柄の筈

この見た目ゴミのようになってしまった19本の煙草をあのドライバーさんに渡すことが出来たなら、無駄にせずに済むのではないかと急いで自宅まで取りに戻っては来たものの


どうやって渡したらいいか?何と云って渡せば受け取ってもらえるだろうか?

考えている暇はない

仮に受け取ってもらえなかったとしても、私は既にあのドライバーさんからは変なヤツ認定をされているので、失う物は何もない、何も怖くない


自分にそう云い聞かせると私は冷蔵庫の上の煙草を手に取って鉄製の階段を小走りで駆け降りた


シャーベット状に積もった雪の所為で台車の車輪が凍ってしまっているのか、搬入作業に手間取っているようで、ドライバーさんと駄目男くんが2人がかりで氷の山を積んだ台車を押していた

駄目男くんが仕事らしい仕事をしているのは初めて見た


とりあえず私は店内に入り様子を伺うことにした

雪のオカゲで店内には他のお客はいない

そっか、だから駄目男くんはすることがなくて難航している搬入作業を手伝っているのか

店内に私が入ったのを見た駄目男くんは、まるで私を口実にでもするかのように店内に戻ってきてレジ・カウンターの中に入った

物臭を絵に描いた様なダメなヤツだなと思った


私が店内にいることでドライバーさんは1人で搬入の続きをする羽目になってしまった

私もボーッと様子を伺っている訳にもいかない気がした

ドライバーさんは雪の寒い中で独りで仕事をしている

きっとあの冷凍車の荷台の中も氷点下で寒いのだろう

変なヤツ認定ついでに何か暖かい飲み物でも買って差し入れすれば一応お客としての役割も果たせるしドライバーさんにボロボロの煙草を渡すのにも多少は格好がつく


納入先のただのお客から差し入れをもらう筋合いはないと断られるかも知れないけど、私はあったかい飲み物のコーナーの中から、この前トラックの運転席を覗いた時に見えた缶コーヒーを探して熱々に温まっているのを手に取って確認してレジに置いた


駄目男くんがいない

私が店内に入ったのを口実に客番をするような体で店内に戻ってきた筈の駄目男くんはレジの脇の奥の方で椅子に座って雑誌を読んでいた

ドライバーさんはまだ搬入作業をしているし、さすがにこの缶コーヒーが冷めるまでは待たされないだろうと思い私は駄目男くんが私に気付くのを黙って待つことにした


以前このドライバーさんが100円玉1枚で酔っ払いを追い返した時のことを思い出していた

あの時のドライバーさんは実にスマートで、それでいて恐いと思うくらいに頼り甲斐もあって、何度思い返しても格好良かったとしか思えなかった

このドライバーさんが100円を出してくれたオカゲで延々待たされ続けていたかもしれない会計待ちの長蛇の列が動き出したのだから、あれ?


私がドライバーさんに缶コーヒーを差し入れする筋合い、あったわ

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