コンビニにて:第10話

とりわけ自分が人一倍天の邪鬼だと云う自覚はない

どちらかと云えば感受性に乏しい反応も薄いタイプの人種だと思ってる

他人に云われたことに左右されたり外的な影響を受けて自分を変えるなんてことはほとんど無かったと思う


人類最初のカップルも神様から「食べちゃダメ」と云われた林檎の実を我慢出来ずに齧ってしまった

ダメだと云われていなければ食べなかったかも知れない

根本的に人間と云うのはそう云う質なんだろう


止めようと思っても止められないくらい美味しい、けど吸わない方が良い

そんな風に云われてしまったなら、むしろ「はい、そうですか」と愚直に吸わない選択をする方がよっぽど天の邪鬼だとすら思える

決してあの冷凍車のドライバーさんに対抗したり云われたことに反発したりと、意識をしてる訳ではない

だだ自然と情報として耳から入ってきた美味しいモノを手に取っただけのことだ


煙草を吸うなんて何ら難しいことではない

そしてひとくちふたくち格好良く吸ってみて煙草の味を覚えたなら依存症になる前に早々に止めてしまえば良いと、簡単に考えていた

まさかこんな結果を私が叩き出すとは思ってもみなかった


まず、初めて煙草を購入した日にライターを買い忘れてしまうと云う幸先の悪さ

翌日にライターも買って帰っては来たものの、煙草の箱の開封のしかたが分からなかった

お菓子の箱を開ける様に全体の表面を覆ってるビニールは簡単に口を開けることが出来た

残りの本体をビニールに覆われながら上部だけビニールが取り除かれた状態の箱を眺めながら、次にどう云う手順で蓋を開けたら中身の煙草に辿り着けるのか分からなかった

ビニールの取り除かれた部分を見ると開け口や切り口のような箇所はなく、煙草本体を包んでいるであろう銀紙が青い紙のシールで封印されていた


数十分の格闘の末、上部がグチャグチャに全開になって形も歪んでしまった箱から20本の煙草達が顔を出していた

キツキツに詰められて綺麗に並んでいる20本の煙草は長さが揃っていて面になっていた

この中から1本だけ取り出すのに私は更に数分間かかった

19本の煙草をおさめて無様にビリビリになった箱の上部を眺めながら、絶対に私は何か間違えていると確信した


私はいよいよ人生初の喫煙をしようと気を取り直して煙草に火を点けようとした

思えばライターを使うのもこれが初めてだった

私は取り出した1本の煙草の吸い口の方を左手で摘まみ右手でライターを点火して煙草の先っぽの方を炙って火を点けようとした


私はビックリした!

幼い頃にシャツからキャラクターのプリントを切除して胸に大きな穴を開けてしまった時以上にビックリしたかも知れない

煙草とライター、喫煙の条件は揃っている筈なのに煙草に火が点かない

煙草の先の白い紙の部分にススが着いて黒くなったかと思いきや焦げ始めてしまい、見る見る内に煙草の横の部分に穴が開いた


良く見るとその穴の縁が若干赤く火種のようになっていた

このまま口に咥えて吸ってみようかとも思ったけど、もしかしたら摘まんでいる左手の指で煙草を回転させながらまんべんなく炙ればちゃんとした火玉になるのではないかと思い、再度着火を試みようとした


さっきの3倍くらいビックリした

ビックリし過ぎて声も出たし咄嗟に私はライターを放り投げてしまった

ライターの金属部分が火傷をするくらい熱くなっていた


煙草の横の部分に開いた穴はさっきよりも大きくなり、モクモクと大袈裟な量の煙を上げ始めている

慌てて私はその煙草を咥えてみようかとも思ったけど立ち上る煙の量が尋常じゃなく口に運ぼうと云う思いは即座に失せた


部屋に立ち込める煙を見上げて私はボヤ騒ぎなっても困ると思い、喫煙は諦めて消火しようとユニットバスに駆け込んだ

焦っていたのもあって私はユニットバスに入るや否や便器の蓋を開けてその中に煙を上げている煙草を放り込んだ


ジュっと音を立てて煙草の火は消えて白かった煙草本体は水を含んで直ぐ様に茶色くなった

そして勝手にバラけて中の煙草の葉が便器の水面に広がった


煙草ひとつ満足に吸えない不甲斐ない自分を慰めるように私は負け惜しみを吐いた


灰皿まで買い揃えてしまう前で良かった

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