コンビニにて:第4話

古くてボロい自宅マンションの狭い非常階段の踊場のような3階の玄関先で、私は手摺にもたれ掛かりながらマンションの前の通りを見下ろしている

シャワーも浴びて髪も乾かして後は寝るだけの筈なのに、薄くリップだけは引いていた

暑くて寝付けなかった夏の熱帯夜など嘘だったかのように、今は涼しい秋の風すらそよいでいる

寝間着にしているスウェット・パンツに長袖のTシャツ、その上からパーカーを1枚羽織ると丁度良かった


私の部屋は狭いワンルームで申し訳程度に窓は2つ付いている

1つはユニットバスにある小さな換気用の磨りガラスの窓で、もう1つは部屋の正面にある大きめの窓だ

窓を開けると、これまた申し訳程度の柵があり物干し竿を掛けようと思えば掛けられるフックのような物が窓の両端に着いている

問題は、手を伸ばせば本当に手が届いてしまう距離にある隣のビルの壁だ

窓を開けたところで、隣のビルの壁が私の部屋の窓を塞いでいる

物干し竿を掛けたとしても、洗濯物を干すだけのスペースすらない

陽当たりもなければ風通しもないこの部屋は、私とは非常に相性が合っていると思えた


過ごし易くなった秋の夜風にあたりたくて玄関先に出てきたと云うワケでもなく、そもそも私はそんなしおらしい性分でもない

朝起きた時に飲む飲料水のペットボトルを買いに隣のコンビニに行く為、ポケットには砂利銭が入っている


普段から小銭入れを使わない私は外で買い物をすると釣り銭をポケットにそのまんま突っ込む

帰宅すると部屋にある砂利銭用のお皿にポケットの中身を全部ぶちまけて、コンビニに買い物に出る時には適当にその小銭を鷲掴みにしてポケットに突っ込んで家を出ている

今のところ、会計になってレジの前で小銭が足りないとあたふたした経験はない


そのお皿に幾らくらいあるのか、ポケットに幾ら入っているのか、買い物した金額が幾らでお釣りが幾らだったのか

そんな事は数えたり計算した事がない

小銭を出して欲しい物が手に入れば、お釣りなんて間違えてても足りなくても、受け取り忘れようが私は死なない

然したる問題ではない


こんな真夜中過ぎでもマンションの前の通りには人通りがある

千鳥足の酔っ払い集団や携帯片手に大声で電話をしながら歩いてるOLや、遊びに出て来て終電を逃した地方の若い仔達が朝までたむろしている事もある


隣のコンビニが目印になるのか運賃を両替する為にコンビニに買い物をしに寄るのかタクシーもひっきりなしにこの通りに停まる

丁度タクシーが1台も居なくなってコンビニの真ん前が空いたタイミングで白いトラックが1台マンションの前を減速しながら横切って、コンビニの前で停車した


さてと、ペットボトルを買いに行く時間だ

私は狭い鉄製のボロい階段をカツカツと音を立てながら降り始めた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る