　こんな夢を見た。

　崖が崩れてレイナが落ちる瞬間、俺は手を伸ばしたが、届かなかった。自分が落ちることを恐れて、体を乗り出すことができなかったのだ。覚悟も勇気も自信も、俺には足りていないのだろう。だからこんな夢を見たのだと思う。

　結果として夢の中で彼女を救うことができなかった。好きだし、結婚したい気持ちはある。しかし、俺は付き合い始めてから今日まで、彼女に何をしてあげられただろうか。何もできていない。

　彼女を不幸にするのではないだろうか。幸せとは、あくまでも俺にとっての幸せなのではないだろうか。自覚がないだけで、彼女に対して生半可な気持ちで接しているのではないだろうか。

　もしかするとあの夢は、結婚した後に事件事故が起こる予兆なのかもしれない。6月に式を挙げようと決めた時のレイナ笑顔に亀裂が入る。

　レイナをタクミに譲ってカナを落としておくべきだったかなと少し後悔した。

　彼女に夢の話とそれが示唆することを説明して、昨日のプロポーズを取り消しさせてもらった。

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