結婚式
泣いちゃった時、僕の側にいたのはいつだって君だった。君が居てくれたから思い切って泣けたし、君だったから素直に思いを吐けた。
君がいなければ僕は永遠に自己嫌悪を背負って生きていただろう。いつだって僕のことを励まし、褒めてくれた。それだけで肩の荷が下り、僕は前進することができた。
そして――僕は進みすぎた。目の前の大事なものに気づかないまま。もう戻れないところまで来てしまった。
君は自分の気持ちを隠し通し、僕の迷惑にならないよう全力で己と戦っただろう。それにも気がつかなかった僕は愚者だ。
届いた結婚式への招待状で、結婚のことは前々から分かっていた。君が直接会いに来て放った「結婚が決まったの」という言葉でようやく察したのだ。どこか悲しげな表情と名残惜しそうな口振り。それに対する僕の喪失感と脱力感。
鈍感な自分を何度も呪った。眠れない夜が続き、気がつけば式当日になっていた。
華やかな舞台演出と盛り上がる声。僕の意識は宙を飛び、新郎新婦の並んだ姿をまともに眺めることはできなかった。最低だ。
式は滞りなく進んでいたにもかかわらず、永遠のような長さを感じる。落ちるような感覚で意識が正常になった時、会場の人たちは出口に向かって流れていた。
重たい足取りで歩き進んで会場から出て、廊下に出ると彼女がいた。
「久しぶり」
声をかけられた。本当はあまり話したくなかったのだが、仕方がない。
「お幸せに」
僕はできる限り突き放すように冷たく言う。
彼女の表情は幸せそうなのに、涙が溢れそうな悲しい瞳になった。僕は胸が締め付けられ、苦しくて、泣きそうになった。でも、ここで泣いてしまったら、今までと変わらない。今までのお返しをしなければ、僕はきっと後悔する。だからせめて、彼女の涙を食い止めようと思った。
「今まで、僕が辛い時に側に居てくれてありがとう......」
唇を噛み締め、感情を必死に抑えた。彼女は笑ったと思えば背を向け、涙声で別れを告げる。
「どういたしまして。あなたも頑張ってね......」
そう言い残し、夫の元へ戻って行った。純白のドレスの裾を引きずりながら。
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