青春に殺される


 もう一度だけ。もう一度だけでいいんだ。

 あと一瞬だけ。あと一瞬だけでいいんだ。

 君の、本当の笑顔を見せて欲しい。


 どれほど懇願したって君は意味のない表情で、価値のない言葉を返すだけ。


 君もまた、僕と同じように被害者なのだ。


 その美しい容姿から、『人形みたい』だと形容できるけども、本当の人形になってしまったかのようで悲しい。


 こんなことなら、青春なんていらなかった。空を支配する青と、冬の息の根を止めた春。これらに取り憑かれた僕は、彼女と同じ道を歩むだろう。


 彼女もまた、この二つに取り憑かれ、恋をしていた。僕のように。しかし、いくら人形のような美少女でも失恋することがある。君は失恋してなお、相手のことを忘れられずに苦しんでいた。


 青春にがんじがらめにされ、動けなくなり、いずれ死ぬ。もう、彼女は歩く屍同然たった。それなのに、彼女の瞳は明らかに生きている。そのせいで、僕は彼女に吸い寄せられた。虚無に満ちた世界へ誘われたのだ。


 屋上へ向かう僕からしてみれば、マイナスがゼロになったようなものだった。だから、君に依存するしか生きる術はなかった。逆を言えば、君のせいで生きている。


 ということは、君が灰になった今、僕が何をすればいいかは明白だ。生きる術は燃え尽きた。失恋したって、夕飯は残さず食べた。君がこちらを振り向かなくたって、僕は生き長らえている。


 生きる術を失った僕は、彼女と同じように階段を上るだけだ。

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