孤独
文句の付けようがない快晴。風が窓から程よく入り込んで涼しい。風と共に音も流れてきた。
『緊急速報です。原因不明の事象により地球が太陽に吸い込まれ、数十分後、地球は太陽の熱で燃え尽きます。繰り返します――』
地域のアナウンスが授業中の教室を騒がしくさせる。
「嘘だろ……」
一人の生徒がそう呟いた。
「先生! 授業どうするんですか?」
「この放送は本当なんですか?」
「僕たち死ぬんですか?」
呟きから連鎖するように質問が飛び交う。それを鎮めたのは校内放送のチャイムだった。
『えー、生徒のみなさん、職員のみなさん。先ほどの放送は本当です。奇跡が起きない限り。人生最後の数十分間、精一杯生きましょう。最後に幸せな時間を』
校長先生がどこか投げやりにそう告げる。
たしかに、放送が入る前から太陽が大きく見え、暑くなっている気はしていた。しかし、勘違い程度に捉えていた。まさか、人類滅亡の瞬間が近づいていたなんて、誰が予想できただろうか。
僕は死ぬことに驚きも躊躇いもなかった。ただ、校長先生の『人生最後』という言葉で思い浮かべた人がいた。それは、両親でも友達でもなかった。
「行かなきゃ」
僕は喧騒が広がる教室で覚悟を決める。使命感にも似た何かが僕を突き動かした。
隣の教室へ駆け込み、一人の女子生徒の手を引っ張った。急な出来事に、彼女は抵抗する余裕がなく、そのまま屋上へと向かった。僕はその途中で話があると彼女に言う。
彼女は怪訝な面持ちになったが、構わず引っ張る。そりゃあ、見知らぬ人に引っ張られれば恐怖すら覚えるだろう。
僕はいつだって一人だった。周囲の人と考え方も、行動理念も、価値観も違っていた。その証拠に、今僕がやっていることはおそらく、他人から見たら奇抜な行動だろう。
彼女も僕と同じく孤独であった。世の中を否定する目と陰鬱な雰囲気が、僕の目に美しく映ったのだ。
屋上に着き、ドアを開くと真っ先に両側のドアノブを壊した。誰も入れないように。ここから戻れないように。なかなか古い学校だったおかげで、何回か蹴ると小気味よい音を立てて壊れた。
彼女は未だに唖然としている。無理に引っ張った腕が赤くなっていた。それを気にしている感じもなく、どこか無頓着な印象を受ける。
「君のことが好き。だからさ、この世界の終末を、一緒に迎えよう! 嫌なら、落ちるというのもありだね」
僕はそう言ってフェンスを指差す。彼女はようやく僕の行動を理解したようで、フェンス越しに地上を見下ろす。およそ十二メートルの高さが拒否権を奪う。
「ほら、下なんか見てないでさ、上を見てよ。太陽って近くで見るほど真っ赤で綺麗だよ」
眩しくてまともに見れたものではない。きっと、好きな人がとなりにいるからだ。
「ねぇ、僕と手を繋いでよ。最後なんだからさ......あ、もしかして恋人とか好きな人いた?」
「いない。いないけど......」
「怖いの?」
彼女は控えめに頷いた。どんなに世界を嫌っても命を嫌うことはできないらしい。
「そりゃあ死ぬって怖いことだよ。だからさ、僕と手を繋いで少しでも楽になって。抱きついてもいいんだよ?」
彼女は顔を伏せて手を伸ばす――
あんなに青かった空が嘘だったように真っ赤に燃える。僕たちは手を繋いだまま太陽に飲み込まれた。
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