第120話

増えた死体が一つ二つと山を作り、避難民の大部分が殺され尽くした頃。


「ぐぅ…何がっ…軍は…っ避難民はっ!どう、なった!?」


今回の避難の指揮、そして避難する間の時間稼ぎとしての決死隊の指揮をも行なっていた総責任者たるアスマン大佐は倒壊した建物の瓦礫に埋もれ、気絶していた。

ずきりと走る激痛で目が覚めて、すぐに周囲を確認するべく頭を動かし、立ち上がろうとする。


「づぁっ?!」


しかし、すぐに無理だと気付かされた。

片足が瓦礫に潰されていたからだ。


「くそっ!誰かいないか!?今はどうなって…づぅ」


潰れ方が良かったのか出血はそこまでではない。

また、血の渇き具合から気絶して数分から長くて10数分くらいだとあたりをつけ、周りに生きている人がいないか声かけをするが返事は一つとして返ってこなかった。

街を守る選択肢を捨てるほどの緊急事態であるがゆえに杜撰な突撃命令しか出せない現状、上官といえどもわざわざ助けにくるはずがない、居たとしても助ける暇があるならあの黒い竜に攻撃を仕掛けるべき今、周りに人がいるはずがないことに遅れて気づくアスマン大佐。

彼は首を振り、気を取り直す。

彼は有能ではあったが、実際に戦った経験があったわけではない。

頭では理解していても、自らの命の危険に些か冷静さを失っていたようである。


「…ふぅっ、冷静になれ。今更、足が潰れた程度がなんだというのだ。どうせ死ぬのだからこんなものかすり傷だ。ただただできることをする。今すべきはそれだけだ」


自らに言い聞かせるようにして、彼は落ち着きはらい、腰につけていた拳銃を取り出した。


「こいつで千切り飛ばせれば良いのだがな」


今も部下たちが戦っている。

生きている以上、自身も戦いに赴かねばならない。

なによりもやられっぱなしは気に食わない。

死に土産をくれてやらねばな気が済まぬとばかりに内心、憤りを秘めながら彼は手早く潰れた片足を衣服を破り得た布で縛り上げた。

そして破裂音が数回鳴り響き、血飛沫が上がる。


「ぐぅっっっっ!!?」


アスマン大佐は銃弾でボロボロになり、ズタボロの皮や筋肉でかろうじて繋がっている瓦礫で潰れた足を強引にちぎり取った。

瓦礫に潰されて引っかかった足を切り落としてでも動こうとしたは良いものの、腰に携帯できるレベルの小さな拳銃で行うにはあまりに不効率なやり方であるが、ナイフのようなものが無いから致し方ないことである。

サドラン帝国はドラゴンという巨大生物を相手にしてきた歴史から大型兵器がよく使われ、携帯できる銃火器や魔科学武器にもその思想が流入したのか、弾丸サイズの大きな大口径の拳銃が標準装備となっている。

おかげでナイフで断てない足の骨も難なく撃ち砕くことが出来た。

不幸中の幸いだ。


「この足ではほとんど何もできないが…なに、車両に爆弾を積み込んで自爆特攻くらいは…」


止血しきれない血をだらだらと流しながらアスマン大佐が立ち上がったところで


ドーラが地上に降り立った。


死体は回収しきり、すでに魔王エルルちゃん一行は避難したとの連絡が届いたドーラは加減なしの一撃を放つ。


しっかりと地面を踏みしめて、一呼吸。


ドーラの頭がピカッと光った。


次の瞬間。


せっかくの頑張り虚しく、アスマン大佐は声を上げることなく街ごと吹き飛び消えた。




6章 終











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