第119話

その一方で。


「こんなものか。思ってたより楽でしたね」

「なに言ってるのさー、今回の作戦のキモはここからでしょお」


聖女アリアが避難民の引率部隊の死体を眺めてぽつりと呟いた。

それに応えるようにニアが口を開き、

無口なウリアは何も言わずに作戦のキモとやらを進行し続ける。

そばには闇太郎、魔王エルルちゃんがいる。


「ぎゃーっ!!」

「たすけてくれぇっ!たすけてくれぇっ!!たすけてくれよぉおっ!?」

「おかあさーんっおかあさーんっ」

「いやだいやだいやだ!!」

「死にたくない死にたくなっあべぐっ…?」

「だれだ!?だれなんだよ!?」

「なんでこんなことするんっぺげ?」

「くそったれがぁっ!!」


他にも沢山の聖女見習い達もこの場にはいる。

彼女達は流作業のように避難民たちの首を手刀で切り落としていく。

聖女達の凶行から逃げ出すべく、背を向け走り出す者、向かい打とうとする者、ただ泣きじゃくる者といたが、彼らはなす術もなくただ殺されていた。

未だに1人も逃げ出せずに。

なぜならば闇太郎によるカード魔法スキルによる不可視の壁が避難民達を覆い尽くしていたからだ。


「…気が滅入るなぁ」


ざっしゅざっしゅと頭を落とされていく避難民達を目の当たりにして気分が落ち込んでいく魔王エルルちゃん。

なんでわざわざそんな気分の悪いことをしているかと言えば、人類を倒していく一環であると同時に戦力の増強のため、と言うのが一番の理由である。


実のところ、現状、使える魔王は少ない。

なんだかんだで初期の方からいる偵察用の魔王である魔王蝶々を始め、闇太郎とドーラを除けば聖女達、使い道のない聖女肉塊、ダンジョンメイカーのジョンくんとダンちゃん。

一応、退路を確保しておいた方が良いかなと言うことで撤退用として温存してある、古参…のような新規のような魔王が一体と、エルルの戦力はコレしかない。


と言うのも魔王クリエイターを使うにあたり注意するべき点が二つ存在し、その注意点によって戦力の拡充が難しかったためである。

一つ目の注意点は大前提として対象となる生き物もしくは材料が必要な上に、魔王を創る対象は生き物ではなく材料から創った方が良いことだ。

生き物を改造する形にした場合、一部の遺伝子構造はそのままなためにどこが発生源なのかバレかねない事や、ゼロから創った方がスキルを付与する為のコストになる容量が大きいこと、知能が高い…仮に人間に使用する場合、エルルの命令を聞くようにするための洗脳スキルが無ければ言うことを聞かない、仮に付与するにしても大量の容量を必要としてろくに強くできなかったりと扱いにくさが目立つために現在の魔王作成における手法は一から材料を用意して、と言う方法を取らざるを得ない。


しかし1年ほどかけて新たな魔王はすでに倒されてしまった魔王キノコを除けば、深淵太陽龍のドーラとカード召喚士の闇太郎の二体のみ。

特にドーラは非常に巨大なため、必要とした材料はかなり多い。むしろ一年で良く集めれたなと褒めるべきである。

念の為、退路を確保中の魔王もいるが、は魔王の死体を再利用したために、新しい…とは言わないだろう。


聖女達も動員しての適当な植物やら小動物の死骸、日々の食事において発生する廃棄物すなわち不可食部などをかき集めて漸く2体である。

エルルは農家ゆえに野菜クズならば通年通してそれなりに手に入るのだがそれとて肥料として再利用するべき代物であるし、柴犬もどきを創った時に失敗したように、野菜のみだと体を創る構成物質が足らないらしく、動物の死骸もある程度は必要。

そもそもこの一年はダンジョンを作成してからうんぬんという、回りくどい攻め方をしていたのもあって積極的に魔王を産み出してこなかったのが失敗であった。

ダンジョン内で仕留めた人間の死体をダンジョンの防衛用の魔獣としてないしは、ポーション作りの材料として使わずに、魔王クリエイターの材料として使っていれば今頃はもう2、3体の魔王を創れていたはず。


その失敗が今、目の前の光景を生み出している。


今までの経験上、人類を舐めてかかれば普通に返り討ちにあうことは予想できる。

一体ではおそらく無理だろう。

二体ならば?それもまた厳しそうだ。出来なくはない気がするが返り討ちに遭う可能性の方が高そう。

三体ならば、さすがに大丈夫そうだが絶対ではない気がする。

よし、ならば四体の魔王を同時に、いや、念には念を入れて五体の魔王が必要だとエルルは判断した。

だが、それをするための戦力が。材料が足らない。

闇太郎や聖女達は戦闘を行うためのソレとして創ってはいないので戦力として当てには…出来なくもないが、あくまでも彼らはサポート役。

実質、人類との戦闘を想定して創ったのはドーラと退路確保中の彼女のたったの二体のみ。


つまりだ。


ドーラに街ごと人間の死体を消しとばされないように、一度の攻撃で吹き飛ばさないように言い含め、わざわざ別口で聖女達に人間を殺させていたのは、人間達の死体を有効活用して新たな魔王の材料とするための一手間である。

ちなみにいちいち頭を落として殺しているのは、極力苦しめない殺し方としてそうするようにとエルルが指示したためであり、下手な殺し方よりも残酷に見えてしまうけれど、苦しみ自体は少ないに違いない。


「…気が滅入るなぁ」


同じ言葉をぼやきつつ。


死体が刻一刻と増えていく。



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