第118話

『あいだたただっ!?』


超大都市アイヌゥから続々と出撃する戦車の数々。

堅牢な建物を一発で倒壊させるくらいには高い威力を持つ砲弾が飛び交い、歩兵が携行出来ないくらいに大きな機関銃による一斉射、歩兵が持つロケットランチャーのような強力な爆発物から果てには効果がないであろう小銃の類、弾がなくなれば自らの体一つで効かぬと分かっていながらも魔法を放つ。

ありとあらゆる攻撃がドーラに集中する。

何も知らない第三者の目から見ればお祭り騒ぎな花火大会に見えなくもないような、やっぱり全然そんなふうには見えないそれ以上にド派手な怒涛の攻撃が続けられることでドーラは悲鳴をあげる。


『いたたたたいたいいたい、痛いってばっ!?』


決死の攻撃を放つ側からすれば残念なことに、悲痛な叫びと言うよりは少し怒りの滲んだ程度の、人間でいうところのタンスの角に小指をぶつけましたと言う程度のものに過ぎないが。

なにせドーラの体長は尻尾も合わせて40メートルほど。

地球において最大種のクジラであるシロナガスクジラの最大体長が30メートルほどなため、シロナガスクジラよりも10メートルも長く、巨大な分、体表を覆う皮膚は非常に分厚い。

シロナガスクジラの場合、皮下脂肪も合わせて50センチ前後の厚みがあると言われるが、ドーラの場合は表皮だけで約30センチメートルもの厚みを誇り、皮下組織も合わせれば60センチを超え、その皮膚から生える鱗もまた厚く、鋼以上に硬い。

頭や心臓、足回りなどの特に守りが必要な場所は鱗がより発達しており、鱗と言うよりは甲殻と言っても良いほどだ。

さらには生物強度の多少の補正も相まって、皮膚組織や鱗が見た目以上に頑健さを増している。

そんなドーラに対して痛いと思わせるだけでも大したものである。

現状の火力では表皮の鱗に割れ目を入れるくらいが精一杯であった。

逆に言えば、多少なりともダメージは与えているのだから例えで言うところのアリとゾウが戦うよりはまだ勝ち目がある。

しかし。


『じゃまだってばぁあああっ!!』


ドーラの反撃。

先程と同じく、ドーラの口から光が瞬いた。

瞬間、ビーム状のものが沢山の戦車を消しとばしながら街へと直撃。

ビームはそのまま止まる様子なく真っ直ぐにぶち抜いて行く。

あまりの広範囲攻撃に付近が地震を起こし、地響きがあたりに木霊する。


『おまえもっ!おまえもっ!おまえもじゃまっ!』


ドーラはさらに小刻みに龍の呼吸スキルで口からビームを放つ。

彼女からの反撃でどんどん数を減らしていく戦車。

サドラン帝国側からすれば邪魔と言われたからと言って邪魔しないわけにはいかないし、勝ち目が少なくとも街から人を避難させる時間を稼ぐために逃げ出すわけにはいかない。

いや、そもそも彼らにドーラの声は聞こえていないのだが。

彼女に限らずこの世界の竜種、特に口からビームやら炎を吐く魔法を使うことが出来る竜種は図体の割には出せる声量が小さい。

そうした魔法を放つ為の器官が肺と重なり合うように配置されており、それのせいで肺が小さくなっているためだ。

竜は空気の通り道である喉などの気管周りの太さと肺からの空気量のバランスが悪く、声を出しにくい構造となっていた。

せいぜい人並みの声量しか出ておらず、しかも銃弾行き交う戦場かつ相手は大型のエンジンを積んでいる戦車に乗っている。

声が聞こえるはずもない。


『ちょっとぉっ!!まだ時間かかるの!?いつまで囮してないといけないのよ!?私ばっかり戦ってるじゃん!コイツらの攻撃けっこー痛いし、もう全部消しとばしても良い!?』


ドーラが何者かへの不平不満を口にする。

それとほぼ同時に、アイヌゥの中心部で指揮をとっていたアスマン大佐の元に一つの緊急の伝令が届いた。


「大佐っ!伝令です!!」

「なんだ!?」

「所属不明の勢力による避難民への襲撃ですっ!!援護を求むとのこと!!」

「なんだとぉっ!?」


アスマン大佐は緊急の伝令に怒声をあげる。

避難民を襲う勢力?

この非常時にわざわざ?

あまりにも急な避難でロクな価値あるものも身につけてない、避難民を襲う?

アスマン大佐はそんなことをする意味が分からなかった。

仮に襲うにしても、近くで一瞬で街の一部を消し飛ばせる危険生物がいるのだ。

伝令そのものが何かの間違い、誰かしらの悪ふざけか?と通常あり得ない仮定が頭をよぎるが、タイミング的に考えれば黒い竜に何らかの関わりある魔獣か何かが避難民を襲ったのでは?と思い直した。

そもそもこんな異様な見た目の生物が今の今まで未確認状態であったはずがない。

人口増加に伴い、住み良い場所を探すべくサドラン帝国に限らず人類による大陸探索をし尽くしたと言う歴史があるのだから、その過程で発見されてなくてはおかしい。

どこかの国の生物兵器が逃げ出したか、恣意的に差し向けてきたか。


可能性はかなり低いが、万が一今まで見つからなかった新種の竜となれば不味い。

アスマン大佐が軍学校で習った限りでは大部分の竜種は排他的であり、複数匹が集まるのは繁殖期くらいで、それ以外の時期は親兄弟すら餌または敵として認識するとのこと。

しかし、一部の竜種は番で狩りをしたり、他竜種、場合によっては他種の魔獣と協力して狩りをすることもあったと言う記録がある。

であれば2匹目の敵対生物が、下手をすれば2匹目の黒い竜が出たのかと絶望しかけるが


「違います!襲撃者は…人間、のようなのです!」

「な、何ぃいっ!?襲撃者はバカなのか!?未確認の竜種に攻め込まれてる真っ最中に、ほぼ手ぶらであろう避難民達を襲う動機が分からん!下手をすれば自分も竜に殺されるのだぞ?!避難民の先導役をしていた奴らの被害は!?どれくらいの援護が必要な…ぬぐぅおっ!?」


ずずん、と大きな地響きとともに、アスマン大佐の居た建物の一部が消し飛んだ。

ドーラの吐いたビームがたまたま建物の中心部を掠めていったらしく、自重に耐えきれずに建物がひしゃげて倒壊していく。






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