第106話

「エルルくんは中途半端に…」

「あの、ちょっと待ってもらっても良いかな?」


色々とリアちゃんの反応が想定外すぎて困る。

聡明スキルのせいかな?

聡明スキルは取り除いたまま。しかし先も言ったように、スキルによって与えられた影響もそのまま。

発達した、してしまった彼女の知性に、反応に、言葉に、概ね一般人の僕には追いつけないのですが。

なぜ急に人間を効率よく殺す方法を話しだした?

こう。

あるでしょう?

それっぽい女の子らしい一般人的な反応がさ。


エルルくんが魔獣を産んで人を殺してた?なんてことなの!?最低よ!とか。

こんなことやるなんてダメだよ!そうしなくても良い方法を探そうよ!みたいに止めるとか。

そういうそれっぽい反応がさ。

これだって思ってた反応とあまりに違いすぎてリアちゃんが普通に怖い。

いや、ただの子供だった彼女をそんな風にした聡明スキルが怖い。


「んー?

でも、私がそんなこと言っても意味がないよね?」

「えっと…まあ、そう…だね」

「神様…かは分からないけれど、エルルくんにそんな超常の力を与えられる存在なんて誰にもどうにもできないし…言われたことをやるしかないと思う」

「…ごもっとも」

「仮に逆らったところで、その存在がどこにいるのかすら分からないし、いたとしてもどうにかできるようなものではないだろうし、なら課せられた命令をさっさとクリアした方が良いよね?サボってると寿命が削られるんでしょう?どんなタイミングでどういう判定で寿命が削られるかハッキリしていないなら、積極的な姿勢で命令遂行していくのが無難だと思う」

「…はい」

「まあ、私の見立てでは怠けてるから寿命が削られたのではなく、怠けるのを防止するために元々10歳くらいまでの寿命しか与えられてなかったという方が自然に思えるけれど…まあ、今更そこは関係ないかな」

「そ、そうなの!?だったらもう少し控えめにしても問題ない…」

「ないことはないと思う。どれくらいの期限でどれくらい殺せば良いのか分からない現状、もしかしたらエルルくんに力を与えた存在が焦れるかもしれない。そして焦れたことによる何かしらのテコ入れがないとは言い切れないし、それがエルルくんにとって都合の良いこととは限らないから…」

「そ、それがあった…」

「つまり、エルルくんが今すべきは効率よく間引きを行うこと。だからその方法を考えるの。分かった?」

「じ、十分にわかったよ」


理路整然としすぎて、何も言えない。


「だから私は怖くないんだよ?」

「や、やだなぁ!リアちゃんみたいな可愛い子を捕まえて怖いなんて思うはずがないじゃないか!!」


そうだった。

信じ難いことに彼女は見てるだけで、ある程度僕の考えを理解できるらしいとのことだ。

彼女の高い知性による賜物だとは思うが、だからといって、なかなか常人離れした特技である。


「ほんとに?可愛いと思ってる?」

「もちろん!可愛すぎてお嫁さんになって欲しいくらいだよ!!」


きっとこの時、冷静な第三者がいれば、あっと声を上げたに違いない。


「うん、分かった。お嫁さんになってあげるね」


え?


「なって欲しいんだよね?」

「う、うん。ま、まあ…、そう、だよ?」

「嘘って私嫌いなの」

「も、もちろん僕だって嘘は嫌いさ!」

「じゃあ、大人になったら結婚しよう?」

「お、おうとも」


こ、婚約者が出来てしまった。

なーんて、やたらと鬼気迫る彼女の雰囲気にちょっと戸惑ってしまったが、なに、所詮は子供の約束。

子供なんてものは大人になる頃には、色々と変わる。

口調だってがらりと変わって「ああ、そんな約束もしたよねー。え?結婚しよう?子供の時の話でマジになるとかマジウケる!」なんてことを言い出すに違いない。

なんなら覚えていない可能性だって十分にある。

むしろその可能性が1番高いくらいだろう。

だから僕は戸惑うことなく、ただただ話を合わせておけば良いのだ。

所詮は日常における軽口の一つに過ぎないのだから。


「さて。話を戻すね」

「ああ…えっと、僕が中途半端だって話をし始めたんだっけ?」

「そう。

あのね。私が考えるにエルルくんが未だに人類の間引きに手こずってる最たる原因は、中途半端な優しさが原因だと思うの」


…むぅ。


「自覚はあるみたいでなにより。人類に対して全力で殺意を向けられない。さらには本来なら使い潰すべき創造した存在、魔王達に対しても余計な気遣いがある」

「…最初はそうでも、今はちゃんと割り切ってるよ。どうせやらなきゃいけないんだし、中途半端なことをすれば魔王達が…僕の勝手で生み出した生き物が返り討ちに遭うからね」

「…今はダンジョンを作って、それから生み出したアイテムを人間社会に浸透、浸透し切ったところでアイテムを有害なものに変えて一気に倒す…生み出した魔王に命の危険がほぼなく、時間はかかれど効果も高いとエルルくんは見てるみたいだけど…中途半端に過ぎる」

「ど、どこがさ?あ、ダンジョン内でしか有害化が出来ないことを言ってる?

それなら街全体をダンジョン化するように…」

「違うよ。私が言いたいのは人間を殺すのに躊躇い、今度は魔王を殺すのを躊躇う。エルルくんがやってるのは対象が変わっただけで根本的な部分は変わってない。もっと根本的な…やる気の話の部分が中途半端だって言いたいの」


言われてみればたしかに。

リアちゃんの言うことはもっともである。

とは言え。

とは言えだ。


中途半端、と言われても仕方ないじゃないか。

僕は普通の人なのだ。

いきなり人類を大量に殺せと言われても素直に頷けないし、かと言ってそうしなければ自分の存在が消えるとなればやりたくなくてもやらざるを得ないと考えるくらいには生きていたいと思うし、自分の手を汚したくないから、命の危険があるから怖いからと誰かにやらせる力を貰ったかと思えば、やらせた相手が危険な目に遭うことに今更ながらに気遣う。

そんな行き当たりばったりで、中途半端なことを繰り返すだけの能のない、ただの一般人なのだから。







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