第105話
すごーく理論立てたアレコレを立て続けにあれこれ言われて思わず変な声が出てしまった。
そんなに脇が甘かったのかな?
さらにリアちゃんは僕が超常の存在に強いられていることにまで気づいた。
すなわち僕の力を持ってしても逆らえない誰かからソレを強制されているのではないかと。
僕の性格的にわざわざ出来るからとそんなことをする理由に、それくらいしか思い当たらなかったという。
聡明スキルさん、バッチバチに機能してますね。
一応、聡明スキルは厳密には頭の良さを強化する、と言うよりは元々持っていた頭の性能を引き出すと言う形のイメージで付与したスキルなんだけれども。
通常、脳というのは実は大半が機能していないなんて話も聞く。
その脳の機能を引き出したら、これくらいの推理は簡単、なのかもしれない。
いやそんなことよりもだ。
さて、どうしよう。
誤魔化したい。
誤魔化して何も無かったことにしたい。
しかし、まあ、無理だろう。
だってあんなに理攻めにされたら、もう認めるしかないじゃない。
下手な反論をしたところでみっともないだけだ。
とてもじゃないが、リアちゃんを納得させることは出来そうにない。
いっそのこと僕にも聡明スキルを付与するか?
頭が良くなれば上手いこと誤魔化せるようにもなろう。
しかし、それは避けたい。
2桁の年齢になったばかりぐらいの年齢のリアちゃんですら聡明スキルを得ただけでこうなるのだ。
今更ながらにリアちゃんには聡明スキルなんてものを与えたことによる罪悪感を感じてしまう。
なぜならば頭が良くなりすぎて、人生の何もかもがつまらなく感じるようになるかもしれないのだから。
僕も『こう』なるのかと思うと些か躊躇する。
魔王クリエイターで人類を間引き終えたからと、僕の人生もが終わるわけではなく、その後も続くのだ。
その後に影響しそうなスキルや魔王は極力、避けておきたい。
例えば街を丸ごと吹き飛ばすような魔法を使う魔王やら、気候をいじって食糧難を加速させて餓死、ないしは食糧を巡っての争いを生むように魔王キノコなんてのも作った。
しかしその2種の魔王は普通にお蔵入りである。
どちらとも自然環境への影響が大きすぎるため、ひいては僕の農家生活にも悪影響が出るのではないかとの懸念があったからである。
使うのは最後の手段、としておきたい。
バトル漫画では山を吹き飛ばしたり、街を吹き飛ばしたりなんて描写があるが、現実において自然環境への悪影響を考えれば、あまり推奨はできないだろう。
前世で学んだ雨の出来方やらを考えるに、山やら谷やらは海からやってきた風を受けたりする機能がある。
下手に大規模な攻撃をすると、局所的な風向きが変わったりして、ひいては連動して広範囲に渡って何かしらの環境変化が発生しそうでちょっと怖い部分がある。
しかもこの世界には更に魔力なんていう新たな物質まであるのだ。
大気中に多少なりとも含まれているらしいし、それだってどうなるのか分からないのだから。
少し話が逸れてしまった。
とにかく、僕はのちに影響しそうなスキルは使いたくないのだ。
しかし、一瞬だけ、一時的にだけ聡明スキルを使うか?それなら大丈夫ではないか?と頭によぎった。
いや、この際だ。
リアちゃんの聡明スキルを取り上げたらどうだろう?
リアちゃんの子供らしい感性を復活させつつ、リアちゃんの鋭い追求を誤魔化せるようにもなる。ただの子供相応の知能まで戻れば誤魔化すなんてちょちょいのちょい。
一石二鳥の妙案だ。
その上で僕も一時的に聡明スキルを使えば一部の隙もない。
上手く誤魔化せよう。
となったら良かった。
悲報である。
聡明スキルが消えないのだ。
いや、正確には聡明スキルは消えたが、聡明スキルによってリアちゃんの脳機能ががっつり引き出されたことによって、自然な形で起こるはずの脳組織の発達もまた普通以上に引き出され、促進されたらしく、スキルは消えてもスキルによって与えられた影響までもが無くなるわけではなかった。
今となっては聡明スキルがあってもなくても然程変わらない、と言うことである。
無ければ無いで多少は知能が落ちたとは思うものの、年齢に合わない高い知性はほぼほぼそのまま。
もちろんそうなれば、僕が聡明スキルを得る案もボツである。
こうなると、逆に頭が悪くなるスキルを与えるくらいしか手立てがないが、安易に脳みそに干渉するスキルを付与するのは普通に危険な気がして、リアちゃん相手に使う気にはなれない。
聡明スキルを取り上げても変わらないということを知った今なら、なおのこと。
もはや手詰まり、か?
「…んっ?…ふぅん?」
スキルが無くなったことによる違和感を感じたのか、目の前のリアちゃんは意味ありげにこちらを見つめるだけ。
その余裕ある態度が今は実に怖い。
「…私は…エルルくんにとって邪魔?
余計なこと、だったかな?」
そして、儚げな表情に変わって、そんなことを言い出す始末。
嘘でも邪魔だと肯定して仕舞えば、その場で消えてしまいそうなほどに力のない笑みを浮かべている。
スキルを撤去し、誤魔化そうとしたことがバレたのか?
スキルを削除するという一手のみから、誤魔化そうとした僕の意思を推しはかり、その意思の先にある僕からの拒絶の意図までを察しての自分を頼ってくれないのかと言わんばかりの落胆顔である。
やっぱり聡明スキルが無くても普通に頭の回転が子供のソレではないままだ。
一息。
されど、長い長い一息をついたあと。
諦めた。
誤魔化せないし、黙秘した所でそのうち何もかもがバレるだろう。
全部しゃべってしまうことに決めた。
実際のところ、誰かに聞いてほしいという部分もあったのかもしれない。
一度喋り出したら、止まらなかった。
関係ない自身の心情なんかもついと語りつつ、本当の意味でぜーんぶ喋ってしまったのである。
なんなら懺悔をしている気持ちだった。
どうやら自身が思う以上に人の間引き行為はストレスになっていたようだ。
さもありなん。
僕の前世は特別なことなど何もない普通の人だった。
ああ、よく漫画や小説に出てくる自称普通の人とかではない、正真正銘普通の人である。
普通だと自称しておきながら、実家が古武術の道場を開いていたとか、2人以上に勝てるくらいに喧嘩が強いだの、可愛い異性と話をしたら普通に嬉しいし、必要以上にダウナー風に振る舞っているなんてこともない。
超常の存在から適当に選出されただけの特別なところなどない、頭から爪先まで至って普通の人なのだ。
むしろこの世界に来るきっかけ、すなわち死因となった、女の子の目の前でカッコつけた結果、猫を助けようとして轢かれたことが我が前世における一番の珍事と言っても良い。
改めて、なんであんなことをしたのか。
重ね重ねトラックの運転手には申し訳ない限りである。
そんな普通の人…かは若干疑問の余地があるものの、概ね普通の人からすれば大量虐殺の一助をしていれば気の一つや二つ、病んで当たり前。
ただ全てを話しただけだと言うのに、やたらと気持ちが軽い。
こんな気持ち初めてだ。
もう、何も怖くない。
リアちゃんだって怖くないぞ!
「じゃあ、人間を効率よく殺す方法を一緒に考えようよ!」
超怖い。
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