Ⅵ章 衰亡

第104話

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


バレたでござる。


いきなり何を言っているのか?


というのもエルルこと僕が、魔王達が集まるための住まいを用意するべく、ダンジョンメイカーのダンちゃんに住まい用の穴、もといダンジョンを作ってもらい始めてから一年ほどが経過したある日のことだ。


もはや僕の今生の実家よりも住み良い場所となったダンジョンでは、せこせこと材料を集めては創り出した魔王種が何体か、さらには世界各地に向かわせていた聖女と聖女見習い達が皆揃い、だいぶ大所帯になってきた頃である。


リアちゃんに間引き行為がバレてしまった。


改めて聡明スキルって怖いと思いました。

もちろん初めは、すっとぼけたさ。

自分が特別な力を持っているのは既にバレている。

それは百歩譲って仕方がないとしよう。

だが、間引き行為、すなわち人類に敵対している大魔王的存在であることまでバレたのは予想外にもほどがある。

なんで?

なんでバレたの?

ヒントがあったの?


かなりあったらしい。


聞くところによるとリアちゃん曰く、その予想は難しくなかったとのこと。


なん…だと?


それから彼女はいかに僕が阿呆だったのかと喋喋ちょうちょうと語った。


「まずエルルくんに備わった普通の人間にはあり得ない力。

その力は魔法技術が発展した現代においても、常識外れなんだよね。

私はね、興味があったから調べたの。エルルくんは何故か…そう、何故か安全だと判断していたようだけれど、何か思いもよらぬ害があるかもしれない。体への悪影響は無いにしても、ある日唐突に魔法の杖が無くても魔法が使える魔女と言う人種が生まれたみたいに、過去に魔女が制御できない力を理由に迫害されたように、エルルくんが制御できない、できなくなる可能性があるんじゃ無いかって。

その結果、魔女が迫害された歴史と同じくエルルくんも迫害…いや、今の時代なら研究所に送り込まれて非人道的な実験体にされちゃうかも。

なにせ、魔法という技術はあれどあれは様々な制限というか魔法特有の物理法則のようなものがあるからエルルくんのしているようなことはまず無理。

例えば私を賢くした『聡明なにか』のように頭を良くする魔法があるとしても、それは一度使えば終わるわけではなく、使い続けなくてはならない。

魔法と言えど、どこからともなくやってくるのではない、魔力と言うエネルギーを消費して行う動作。

常に魔法を、しかも私に与えた何かはそれだけではなく、それらも含めた力を、何かを与え続ける魔法を発動し続けるのは現実的ではない。

でも、エルルくんのその力は私に今もそういう力を与え続けている。

その動力は?あとから反動という形で負担になったりしないのか?

いや、そもそも与え続けているというよりはそういう風に創り変えているように私は感じる。そうでなければ辻褄が合わない。魔法とは似て非なる力、なんでエルルくんがそんな力を持っているの?

そもそも魔女と呼ばれる人以外には魔科学武器無しに魔法は使えないって聞いた事があるよ?

普通の人は魔力を扱えるように出来てない。そういう構造になっているのに。

もちろん都合よく魔女として産まれたわけもなく、魔科学武器なんて物騒な代物を農家の子供であるエルルくんが持っているはずもない。ないよね?

魔女は女性しかいないって話だし、魔科学武器なんて私たちくらいの子供が持つには危なくて所持の許可なんてまず出ないはずだし。

だから私がエルルくんに助けられた時に何かを付与したのはあまりにも超然として、普通ではないことだった。

違和感しかなかったよ。

そして、それらを理解して違和感を感じる私自身にも違和感があった。

こんなに頭がよかったかと我ながら引くほどにビックリした。

そこに突然舞い込んだ、街に見慣れぬ魔獣が攻め込んだというニュース。

魔獣と呼ばれる生き物は、人口増加によって起きた様々な環境の変化によって軒並み数を減らし、今は数が激減。その大体が絶滅危惧種で、生き残っている魔獣は毒にも薬にもならないような存在ばかりだって、猟師の人に聞いた事があるの。

ということは数百年は魔獣の被害に関する話は無かったのに、急にそんなことが各国に起き始まるなんて可笑しいよね?

そして目の前には異様な、普通ではありえない超常の力を持つエルルくんがいる。


多少なりとも関連の疑いを持つのは必然。


いや、それだけなら私は分からなかった。

たまたま、と言う可能性も充分にあったから。

疑いはしたけれど、偶然にタイミングが合っただけだって判断したよ?

なぜならいくらなんでも魔獣を、人間とは価値観どころか知能も違えば、言葉すら介さない生物を操るなんてことはさすがに出来ないと思っていたし、動機が思い当たらないから。

エルルくんがそんなことをする、したがる理由に心当たりが…万が一にもあり得ないと分かっていたから。

成長と共にそういう、虐殺をしたくなる、その不思議な力を使いたがるようになるかもしれないとは一つの可能性として考えてはいたけれど、その兆候だってカケラもない。

毎日エルルくんを見てる私が断言する。

そういった理由でそんなことをするような人じゃない。

少なくとも今のところは。

でも。

あれ?と思う事が増えていったの。

続くエルルくんの不用意な言葉や態度。

女の子のエルルくん、いやエルルちゃんの存在もまた疑いを深める要因になった。

特に私はエルルくんが趣味だもの。もとい、エルルくんと一緒に居て、エルルくんを見ている時間がほとんど。

今となってはエルルくんが何を思い、何をしたいのか。

一字一句とまではいかないけれど、9割以上、理解できるくらいになったと思う。なのにそんな私でもエルルくんが分からない時がある。

残り1割の時だね。

特に畑仕事に失敗した様子がないのに落ち込んでいたり、悩んでいたりしている姿を見れば、あれ?おかしいなって。

そうしたことが繰り返されれば、なんとなしに予想はつく。

その上、隠し事をしている素振りまであればより可能性は絞れる。

かつ、エルルくんの性格から隠し事をするのは、やましい事がある時。

それも生半可なことじゃない。

だってエルルくんはユーリとか言う子供に比べてずっと大人。

大人なエルルくんはやって良いことと悪いことの分別が付いている。

よしんば悪いことをしたくなっても理性でそれにブレーキをかけることができる。

普通の子供ならお母さんに怒られてばかりいるはずの年頃なのにそんな気配が欠片もない。

仮に怒られても、それだって大したことではないし、大したことであっても下手な大人よりも大人らしく大人びたエルルくんがわざわざ隠し続けるなんてことをする筈がない。

そんな無駄なことをするくらいなら、次に同じことをしないように注意する方に労力を使うはず。

倫理観的にそれはダメだと思っているし、分かってもいる。

やってしまった結果が残る以上、隠したところで無駄な事が分かっているからだよね?

意味がないことをわざわざやる人間はいない。いや、やる人も中にはいるかもしれない。

でもエルルくんはそういう人じゃない。

となれば、ね?

そんなエルルくんが隠すというのなら、恥や外聞に影響するようなことではない。

何かのミスを黙っているだとか隠れてイタズラしているという選択肢は自然に外れる。まずありえない。


何か恥ずかしい秘密を抱えた?

いやない。

日頃の態度や隠し方からそうとするには違和感があった。


では人に言えない真っ当なことでないと仮定した場合はどうか?


多少のやましいことならエルルくんは隠さない。

なのに隠す。

余程の…それこそ周りの人間が軒並みエルルくんを嫌う、厭う、排斥するような内容なのでは?

私はそう仮定してみたの。

そして、そこに彗星の如く顕れた街を襲う魔獣達という話。

エルルくんの能力を多少ながら把握している私からすればそれらの事象を結びつけて、仮定し、推理するのは簡単。

私はね、状況的に街を襲った、襲わせた犯人はエルルくんで間違いないと思ってる。これは確定。

だけど。だけど、ね。

やっぱり、その動機が分からないの。

何度考えても分からない。

本当に分からない。

どれほど考えてもエルルくんがそうする理由がエルルくんには無い。

考えれば考えるほどその動機が、理由は無いとしか思えなくなる。

となると、今までの私の予想は間違いで、たまたまの偶然だった。

前提から違う、そう判断すべき?いや、違うよね?

それだと結局、エルルくんの考えのうち1割も分からない理由が私のエルルくんへの理解度が足らないだけということになる。

私がエルルくんをまだ分かってないから。それだけの話。

でもそれこそあり得ない。

考える余地すらない仮定だ。

全てを知っているなんて口が裂けても言えないけれど、エルルくんの趣味、思考くらいなら分からないはずがないよね?

逆説的に、エルルくんが街を襲うように動いていたとならないと可笑しいよ。

やっぱりエルルくんが街を襲って、襲わせていたのは状況的に、私のエルルくんへの理解度的にも確定。

そうなると、結局のところ動機は分からないまま。

エルルくんは優しい。特に悪人ってわけではないし、その力を使っていると思われるのは栽培している野菜だったり、元はただのカマキリだったであろうゼルエルちゃんだったり、悪用とは程遠い。

良くも悪くも大それたことなんてやる人じゃない。

いや、もしかしたら、億が一の可能性でそうした力を悪用することに決めたとしても、そこで街を襲わせるというチョイスが意味不明なんだ。

なんで人を殺して回るのか?その必要性が分からない。

そこでね。

私、気づいたんだ。

エルルくんのことを良く知っている私に分からない以上、その動機の起因はエルルくんとは関係無い…外側からの、つまり外的要因なんじゃ無いかと言うことに。

それなら全ての疑問に答えが出るよね。

例えば…誰かを人質に取られて其れを強要されているだとか。

例えておいてなんだけれど、コレは無いかも。

エルルくんは子供のくせに畑仕事ばかりに楽しみを見出す変態じみた農家マンなだけあって友好関係がかなり狭い。

人質に使えそうな親しい間柄となるとエルルくんのお母さん、おじいさん、おばあさん…あとはオマケしてユーリって子くらい?

あ、私も入ってるよね?入ってて欲しいなぁ。あ、入っているんだ?良かった。

となると私はもちろん人質に取られていないし、お母さんも同じ。こっそり何かされている?ううん。そんな素振りはない。

おじいさん、おばあさんもこの前会った限りでは特に問題はない。

そもそもここら一帯を仕切る豪農の一族を人質になんてバカな真似はそれこそお馬鹿な子供たちですら考えないわけで。

人質うんぬんは無いかなって。

ねぇ、誰に頼まれてそんなことをしているの?」



おっふ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る