第96話

当然ながらと言うべきか。

エルルが魔王側として、中途半端なことを辞めて本気で人類を倒しにいくと覚悟したと言うことはつまり、サドラン帝国への攻撃手段として作成したダンジョンの中にいる魔王が1人、ないしは1匹だけなはずがない。


ダンジョンメイカーとしてサドラン帝国に滞在中、かつダンジョン作成をしているアルル改めジョンくんの護衛、ないしはサポート役としてもう一体の魔王くらいは用意してあり、その魔王がダンジョン内には存在した。


その名も魔王キノコ。

個体名はキノコマン。

それが2人の少年と対峙している。


ステータスは


名前 魔王キノコ

個体名 キノコマン

生物強度 101

スキル 菌糸領域 超キチン肉 スポアストーム


となっている。

生き残り易さを示す生物強度が、エルルの肉人形たる魔王エルルちゃんの97を超えて、3桁に到達しているのがまず目を引くだろう。

3桁にもなればそこそこの肉体強化補正になり、それだけで馬鹿にならない強さに至る。


そこに肉体強化系のスキル、超キチン肉が加わったパンチの威力たるやジャブくらいの気軽なパンチで人間程度なら真っ二つに千切れ飛ぶ。

超キチン肉というスキルは、昆虫や甲殻類の外骨格や、植物や菌類の細胞壁に含まれるキチンと呼ばれる分解されにくく、安定した物質があるのだがそれに筋肉的性質を加えるというのが効果となる。

全身キチンで出来た細胞の塊にあたるキノコにこのスキルを使えば、それすなわち筋肉の塊と言うほかない。

普通の動物ではないために、内臓にあたる部分も超キチン肉がみっちり。

さらには元々頑強な物質なだけあって、人間のように多少の無茶をしても繊維が切れたり、炎症を起こしたりなんてこともない。

また、乳酸が溜まって筋肉疲労を起こすなんてこともない。

ゴリラ以上の筋力を脅威の持久力でもって振るい続けることができるゴリゴリの脳筋型魔王。

それが魔王キノコであった。


次はお前だと、ルービィ少年に向き直った瞬間


「プロミネンスランスっ!!」


凄まじい筋力による不意打ちを自らの剣で受け流すようにしてなお吹き飛ばされたフォルフォー少年。

多少のかすり傷はあれど、大きな怪我はない。

彼は急なキノコマンの出現はもちろんのこと、その筋力から放たれた攻撃は下手な豪速球よりも早く鋭く重い不意打ち気味に放たれたそれを、さしたる傷なく受け流したフォルフォー少年はまさに傑物の類。

反撃にと繰り出した魔法もまた強力であり、プロミネンスランスとは槍状に炎を圧縮したモノを撃ち放つ高威力の魔法である。

その魔法は当たった時の衝撃で圧縮された炎は一気に拡散、爆発するという、燃やすと言うよりは爆発させてぶち壊すという非常に破壊的な魔法。

それがキノコマンの体に突き刺さる。

キノコをよく食べる人は知っているだろうが、キノコは繊維に沿って力を加えると簡単に裂くことができる。

本能的にか、まぐれか、その繊維に沿うように当たったプロミネンスランスは容易にキノコマンの体を貫通し、爆発。

内側からの爆炎で色々と飛び散ったキノコマンを見て


「はっ、見掛け倒しだったなっ!」


調子に乗るフォルフォー少年であったが、


「フォルフォー!うしろだっ!!」

「なにっ!?」


再度、急に現れたキノコマンがフォルフォー少年の背後から再度、パンチを繰り出した。

今度のパンチは完全に油断しているところへの鋭い一撃。

フォルフォー少年は辛うじて武器を体とキノコマンの拳の間に挟むのが精一杯。

しかし、それが命を拾った。


「ぐぅうううぅっ!!!?」


ボールのように軽々と吹き飛ぶフォルフォー少年。

受けた魔科学武器が大剣に近い、分厚いものであることも功を奏し、両腕の骨にヒビが入り、魔科学武器にヒビが入るという程度で済んだ。

無防備に受けていれば、すでにジョンくんによって防具をただのガラクタに変えられている今、キノコマンの拳が彼の胴体を打ち抜いていたところである。


「…っっ」


キノコゆえに発声器官を持たないキノコマンがなかなかやるな、と感心したようなジェスチャーを見せる。


「…キノコマンに任せても時間がかかりそうです。いっそのことダンジョンクリエイトを彼らに使えたら楽なんですけれどね」


ダンジョンクリエイトは効果こそ限定的な創造、と神のような力であり驚くべきことだが、実際には神によるものではなく、ダンジョンメイカーという名の生き物が持つ一つの能力に過ぎない。

人が自分の名前を書いたとする。

書く際にはもちろん、手を使う。

それと同じように、魔力でダンジョンクリエイトという魔法を起動しつつ、手で触れて変化させる必要がある上に、一瞬で別の物に変化させるわけではなく、数十秒から数分かけて段階的に変化していくのだ。


つまりダンジョンクリエイトを彼らに使おうとすれば、敵対する相手に手で触れるくらいに接近する必要が出てくる。

さらには対象が生きている場合、魔力を宿しているため魔力を使って行うダンジョンクリエイトがうまく発動しない。


正直、リスクが大きすぎる。


「まあ、死体になるのも時間の問題ですが」


2人は今までに見た探索者の中でも1番、2番と言って良いほど優秀。

若さゆえの将来性も加味すれば確実に1番になる。

焦らずにじっくりと追い詰めていくこととしよう。

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